第39話 襲撃

 数日間、地味な作業が続いた。


 狩ることよりもマッピングや探索が大事だと、戦闘をさけて作業をすすめた。

 マッピングをしては少し進み、進んでは探索をするの繰り返しだ。


 俺には性の合わない作業だが、うちの女の子たちはたくましい。

 2人でおしゃべりに花を咲かせ、この苦行を乗り切ろうとしている。


「えっ、その杖はコテツくんからのプレゼントなの?」


「う、うん。まあ、そう、なるかな?」


「何それ、ズルーーい。私は貰っていないよ」


「でもさ、すずちゃんだってあの指輪を貰ったじゃない」


「落ちていた物を貰っても嬉しくないわよ。心愛ちゃんみたいに、ちゃんと用意してもらう方がいいよー」


「で、でも渡される時は無言で差し出してきたし。あっ、別に無愛想ってことじゃないよ。何かを伝えようとしてたのは確かなの。ただ、緊張してたのかな、うまく言葉に出来なかったみたい……だよ?」


 ぬおっ、ここにもオリハルコンの鉱床を発見だ。これはかなり有力なダンジョンだよ。親方たちの笑顔が目に浮かぶぜ。調査のしがいがあるってものだ。


「なに、結局わたしはノロケ話を聞かされたわけ?」


「えっ、そ、そうじゃないよ」


「そうじゃないって、もしかして二人はもう付き合ってるの?」


「な、な、な、な、なによソレ? わ、私たちはそんな仲じゃないですよ」


「ふーーーーん」


 うん、二人は元気である。


 ここは世間から見れば、足を踏み入れるだけでも死を覚悟する必要のあるS級ダンジョンだ。


 なのに2人ときたら、まるで近所のカフェのよう。くつろぎ空間でのおしゃべりだ。


 そんな2人をしり目に、俺は自分の仕事をする。


 定期報告のため影分身を伝令にだし、外へ進行状況を伝えておく。

 通信機器が使えれば楽なんだけど、あいにくダンジョンではその類いの物は一切つかえない。


 専門家いわく『内と外では世界がちがう。だからこそ外へとモンスターが出てこない』だそうだ。


 まっ、難しいことは置いておき、原始的な伝令が一番効率が良いってことさ。


「それじゃあ頼んだぜ」


「……あのな本体、帰りにデザート類を買ってこいって、俺ら影を何だと思ってるの? ちょっとそれは非常識だろ」


「そっか? すまんな、お前の分もと思ったけどおつかいはヤメにするか」


「ならば話は別だ。行ってくるぜ」


「気ぃつけてなーー」


 見送った後、こちらは作業を再開だ。


 この階層の調査はほぼ終わっていて、上への階段は見つけてある。

 このまま順調にいけば、午後には次へと行けるだろう。


 ただ順調すぎるのが残念だ。

 思ったよりも希少金属の鉱床が多く、採掘道具を持ってこなかった事が悔やまれる。


 そこに気がまわっていたなら、攻略直後から山ちゃんにすぐにでも武器を作ってもらえたのだ。


 まあ、こればかりは運だし諦めるしかないか。


 そんな呑気のんきなダンジョン攻略だが、異変がおきた。


「ん?」


「どうしたのです、急に立ち止まって?」


「2人とも警戒体制をとれ。影が殺られた」


「は、はい。すずちゃん、早くこっちに来て」


「えっ、えっ、何?」


 心愛さんは瞬時に理解をし、聖域を展開した。戸惑うすずちゃんの腕を引っ張り、中へと入る。


 影は俺本体の数分の一しか能力はない。

 それでもS級モンスターといえど、雑魚に遅れをとるはずがない。


 なのに交戦をほとんどせずにヤラレている。ほんの一瞬の出来事だった。


 心愛さん達を背にし、俺は千里眼をつかい聖域の外で警戒中だ。


「近くにいないな。もう少し索敵範囲を広げてみるよ……あん?」


 2人に状況を伝えている最中だった。

 ゾワリと悪寒がしたと思ったら、正面1mに敵が突然現れた。

 既に抜き手が俺の喉元に迫ってきている。


「あぶなっ!」


 避けると同時にからめ手をとるが、なんとソレを避けられた。かなり早い相手である。


「コテツさん!」


「出るな、こいつは強敵だ!」


 と、心愛さんの掛け声に反応し、俺を無視して二人にむかう。


「お客さんはそっちに行くなって」


 不用意に見せた背後に遠慮はいらない。

 ダッシュをし最速になるよう、最短距離で突きで仕留める。

『とった!』と思ったのに、手応えが無かった。

 確実に捉えたはずなのに、相手はかすみとなり、致命傷を与えられなかったのだ。


 舌打ちをした敵は、そのまま何処かに去っていった。

 千里眼で探りをいれても、この階層のどこにもその姿はない。

 この時点でふたりに安全だと合図をおくる。


「コテツさん、あれは何だったの?」


 心愛さんの目では追えておらず、あれの正体を見極めれていない。

 漠然とバンパイアのようだが異なる者。そういう認識だけは感じたようだ。


 不安がる二人に答えを言うのは躊躇ためらうが、隠すわけにもいかない。


「あれは〈真祖〉だ。バンパイアの原種で、魔人と並ぶバケモノさ」


「それっておかしいですよね? だって不死者の頂点が、通常フィールドに出るなんて変だわ」


 と心愛さんが核心をつく。


「ああ、それが起こったということは、ここがだって事だよ」


「そ、そんな!」


「ちょっと二人とも待ってよ。私にも分かるように話をして」


 すずちゃんを困惑させたのは、俺たちも焦っている証拠だ。少し苦笑いでごまかして、話すことで自分も落ち着かせる。


「真祖はバンパイアの頂点、つまりこのダンジョンのボスなんだよ。通常のボスは最深部の部屋にいるんだけど、あれはその外に出てきているんだ」


「さっきみたいに襲われるって事?」


「ああ、しかも何時いつ来るかは相手次第だよ」


 真祖は不死の軍団を作り出し、死を超越した存在だ。

 多重防御膜と超再生能力で、通常攻撃などでダメージを負うことはない。

 唯一の弱点である聖属性も苦手なだけで、致命傷とまではいかないのだ。


 もしアレを殺るなら、膨大な魔力で防御膜を突破して、再生する間を与えずに叩く。その上で魔力供給を絶ち、魂をすり潰さなくてはいけない。


 他のS級モンスターと同じ手順だけど、その有効時間はかなり短いはずだ。


 そんな手間のかかる相手がだ、自在に襲ってくることになったのだ。

 なんてこった。女の子二人との貴重でムフフなダンジョン攻略にかげりが出てきたぞ。

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