第38話 ダンジョンやもめ話
次の日からすずちゃんを加えて、バンパイアが巣くうダンジョン攻略を開始した。
ここのダンジョンは少し変わった形態だ。
メインはそびえ立つ西洋風のお城だが、その周りにある村もダンジョンの一部である。
全てで城の主を守っている、そんな印象を受ける場所である。
俺の経験上、こういう所は無計画に進むとダメだ。いつの間にか誘導されて、罠や包囲をされてピンチになる。
ゴリ押しだけでは攻略できないようになっているのだ。
それに前回のS級みたいに一人ではないので、無茶な攻略はできない。
二人の安全もさることながら、リポップの問題もあるからだ。
魔力の循環を探ってみると、そのサイクルは早く、リポップまでの時間が短いのだ。
デーモン系は倒してから、数日間はタヒ体が残っていた。
でもバンパイア系はその性質が異なるのか、倒れてすぐダンジョンへと吸収される。
そしてそれによりも魔力のサイクルが回り、新しい個体が生成されるのだ。
つまり攻略後、安全に素材を回収するならば、ボスを殺ってから雑魚を掃除するのがベスト。
それに採掘の効率を考えると、マッピングや採掘ポイントの調査など、やるべき事が山積みだ。
闇雲にやっても
「ふう、かなり進んだな。今日はここらでキャンプをしようか」
「ここでってコテツくん、こんな敵だらけの場所でキャンプなの?」
「そっか、すずちゃんには言ってなかったな。心愛さんの聖域魔法があるからね、安全に休めるんだ」
「えっ、それって凄くない?」
その反応に、心愛さんがちょっと嬉しそうにしている。
いつになく大振りのアクションで呪文を唱え、
それは聖魔法による結界で、10畳程はある広さだ。地面から空気に至るまで、全てを浄化されているとても心地よい空間である。
その効果は絶大で、特に闇属性のバンパイアにとっては、越えることの出来ない障壁となるのだ。
数日かかるダンジョン攻略だと、寝ずの見張りやら大変だ。だけど、この魔法があるので問題はない。
だからこそ、このダンジョンの攻略を決めたのだ。
「コテツさん、焚き火はここでいいかな?」
「うん、そうだね。じゃあテントはこっちにするよ」
あとは簡易シャワーやらを設置すれば、今夜の寝床は出来上がりだ。
「はあ~、心愛ちゃんの聖女って無敵なんだね。やっぱ死者とかも生き返らせれるの?」
「さすがに無理よー。それにすずちゃんのラッキーガールの方が有能だよ。私なんか覚える呪文がいっぱいで、最上位系の回復や解呪とか苦労しているの」
「えー、今よりもっとだなんて尊敬しちゃうなあ」
「うふっ、ありがと」
どうやら互いに認め合える所を見つけたみたいだ。
これなら放っておいても大丈夫だろうし、食事の準備でも始めるかな。
インベントリから食材を取り出し、片っ端から切っていく。
作るのはスープと肉。そう手の込んだ物はしないが、香辛料をたっぷりと効かす。
味気のないダンジョンでは、旨い食事は欠かせないからな。
「……ねえ、心愛ちゃん。何故あんな大量に作ってるの?」
「うん、あれがコテツさんにとって普通の量なんだよ」
「嘘でしょ、だって10人前はあるよ?」
「だよね。私も最初はびっくりしたもん」
「良かった~、心愛ちゃんがマトモで」
んん? 何やら二人は絆を深めているな。
仲良きことはうれしいが、心なしか二人して悲しそうな雰囲気で見てくる。それに動きも変だ。
もしかしたら、つまみ食いを狙っているのかもな。まあ、この匂いだから分からんでもない。
もし忍びよってきても、見て見ぬふりをしてあげるかな。
「二人ともよく我慢したね。おまたせ、コテツ特製ステーキとオニオンスープだよ」
まずは各自の皿に盛るが、残りは真ん中にデンとおく。そうすれば互いの熱で冷めにくい。
「美味しーーーい、なにこれ?」
「ねっ、コテツさんの料理は最高でしょ?」
「うんうん、本格派というか奥深い味よね」
量が多いと騒いでいたくせに、二人とも3人前をペロリと完食。おかげで俺の分が足らなくなった。
しょうがないと作った追加のラーメンも、何だかんだで奪われた。
「ふう、満腹~。あっ、カロリーオーバーになっちゃったよ」
「心配ないわよ、すずちゃん。ダンジョン攻略ってハードだから、栄養補給はしっかりするべきなの」
「だよねーーー。じゃあデザートもいく?」
「もちろんよ!」
やはり俺の分が足らないよ。
二人には勝てそうにもないから、俺は今日の収穫物を整理することにした。
「それにしてもよく出たよなあ」
数にして47個もある。
普通なら、たった一個のアイテムが出ただけでも大騒ぎなのに、奇跡だとしてもあり得ない確率だ。
内訳は指輪が2つに、バンパイアの血や牙などの希少素材が7個と、よくある素材が16個。そして回復アイテムが22個である。
装備品もうれしいのだけど、ダンジョン攻略をするにあたって有難いのはマジックポーションである。
『魔力があれば何でも出来る』の合言葉が有名なように、魔力がなければ何も出来ない。本当に必要不可欠な品だ。
ひとつ試してみたがすこぶる良品で、市販の物より倍近い回復があったんだ。しかも甘くて飲みやすい。
もしこれをお土産に持って帰ったら、山ちゃんはきっと喜ぶだろうな。
何せ彼は変態だ。『市販より効果が高い? 負けてたまるかよ』と勝手にはりきりだす。
そしていつの間にか、それを超える物を作りあげるのだ。
それで何度助けられた事か。山ちゃんには感謝しかないよ。
仕分けが終わり、あとはシャワーを浴びて寝るだけだ。その準備をしていると、外で大きな爆発音がした。
これもすずちゃんにとって始めての事なので、かなり激しく驚いたいる。
「きゃっ、何?」
「大丈夫よ、敵が結界に触れて爆発しただけなの。絶対に入ってこれないから安心して」
「そ、そうなんだ」
俺も心配ないよと諭し、一応確認してくるよと外にでる。
床に焦げたあとを発見し、魔法が正常に作動しているのを確かめた。
それをすずちゃんに見せると、ほっとひと息ついている。
「それにしても何故入ろうとしたのかな? 危ないのは感じるはずでしょ?」
「きっとコテツさんの料理の匂いに釣られたのかもね」
「えー、俺のせい?」
「かっもねーーー」
心愛さんのいう通り、聖域では匂いまでは遮断できない。
でもこれで完全に安全なのは証明された。
音さえなければ、今夜もぐっすりと眠れるよ。
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