第37話 すずちゃん活躍する

 ギルマスからの提案もあって、お試し期間を設けることになった。

 互いに相性を確かめて、正式にパーティへ入ってもらうかを検討するのだ。


 その際のすずちゃんの装備品は、ギルドが用意した物をつけている。

 有名女優さんってのもあるが、ギルドとしても貴重なジョブを失いたくないのだろう。

 支給されたのは最高級の物ばかりで、それだけでもひと財産になる。


 とはいえ、すずちゃんのレベルは低すぎる。一撃もらうだけでヤバい。十分に注意をしてのスタートとなった。


「すずちゃんは基本的に何もしないでいいよ。戦闘はもちろん、周囲への警戒も任せて」


「ええ、コテツくん頑張ってね」


「お、おう」


 かたわらにいる心愛さんは終始笑顔である。

 それはそれで怖いけど、いまは雑念を払い大事な第一戦目に集中する。


 ちょうど一体だけで行動するバンパイアを発見した。使役するワーウルフやダンピールの姿はない。


「あれをいくよ」


 二人がうなずいたのを確認し、棒手裏剣を投げる。まずは影縫いで動きを止め、動けないようにした。

 振り向くことすら出来ないバンパイアを一刀両断。ものの数秒でカタがついた。


「す、すごい。S級モンスターって、普通は斬れないものでしょ?」


「いや、斬れるよ。ただ防御膜がジャマするだけさ。それを壊せばいいんだよ」


「だけって、簡単に言うのね」


 そう難しい事ではないが、ほとんどの人が出来ないそうだ。

 どんなモンスターでも、大なり小なり防御膜を持っている。

 ただ敵のランクが上がれば、その強さや数が増えるだけだ。ゴブリンを殺るのもドラコンを殺るのも変わりはない。


 でもすずちゃんには新鮮なようで、目を輝かせて喜んでいる。


「コテツさん、そろそろ消えますよ」


「あっ、そうだったね」


 心愛さんに促され亡骸に集中する。

 ここのは前回とは違い、倒すとすぐにダンジョンへと吸収される。

 それと同時に起こるのがアイテムドロップで、長い時間待たされないのが良い。

 ただしその確率は限りなく低い。中でも装備品は特に少ないのだ。


 その確率が何処どこまで上がるかを、検証するのが目的だ。


 溶けるように地面へ吸い込まれていくモンスター。これはいつもの光景で、ここからが大事である。


「あっ、コテツさん。あれ!」


「おおおおおお、指輪じゃん!」


【紅魔の指輪:HP吸収効果 吸収するほど血に飢えていく】


 鑑定してはじめて分かるその性能は、人が作れる物ではない。魔法効果が付与されている。

 性能は怖い代物だけど、大粒のルビーがついていて、その価値だけでも高そうだ。しかも一発目で出た。


 心愛さんとうなずき合い、すずちゃんの力は本物だと確信する。


「凄すぎだよ、女優をやめて冒険者一本でやってみたら?」


「そ、そう? でも毎回じゃないかもよ」


 誉めると照れくさそうにしている。


 でもそれは謙遜でしかない。次々と出てくれるアイテムに度肝をぬかれた。

 装備の他にポーションや素材などがワンサカと出た。奇跡とし思えない確率だ。

 中でも有難いのは、回復系のアイテムが出てくれる事だ。これはいざと言う時に役に立つからな。


 マタンゴのダンジョンで、嫌というほど思いしらされたし。回復系は沢山あっても困るものではない。


 それと彼女の幸運は戦いにも影響している。

 モンスターとの遭遇時には、バックアタックなどの有利な場面が多かった。

 それに数的もやり易く、ピンチになる事などない。

 めちゃくちゃ楽で、普段の苦労がバカらしくなる。


 それと何度かすずちゃんに、モンスターが襲いかかったのだけど、それも運で乗り切っている。

 急に相手がこけたり、すずちゃんを見失ったりとあり得ない状況が発生する。


 すずちゃん自身は、すこしおっかなびっくりの所はあるが、これならやっていけそうだ。まさにラッキーガール、技や戦術を超越しているよ。


 心愛さんを見ると同じ気持ちのようで、笑顔で頷いている。


「すずちゃん、正式にパーティへの参加をお願いできるかな。君の力が必要だ」


「本当にいいの? 私のレベルはまだ低いよ?」


「そんなの関係ないって。そうだよね、心愛さん?」


「うん、すずちゃんにしか出来ない事があるし、ぜひともお願いしたいわ」


「心愛ちゃん。……うん、わたし頑張るね」


 心愛さんからの言葉が嬉しかったようで、すぐに承諾してくれた。

 三人で固い握手をかわした後、明日からのダンジョン攻略に備える。


 本格的に始まる冒険だ。この前のようにすんなりと終わりはしないだろう。

 何ヵ月かかるかは分からない。だからその分、しっかりと準備が必要だ。抜かりなくやってやるぜ。


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