第36話 意外な新戦力

 俺と心愛さんはキョトンとしている。


 純々の乱入で会議は中断していたが、そもそもすずちゃんがこの場にいるのを説明されずに始まった。


 なのに皆さん澄まし顔なので、たまらず理由を聞いてみた。すると、当たり前ですよみたいに答えてくる。


「あのー、なんですずちゃんが参加してるの?」


「それですよ、今日一番の議題は。お二人のパーティに広井夜すずさんを入れてみませんか?」


 とんでもない提案をしてきたな。


 聞けばすずちゃんは、戦闘に関してはズブの素人。女優さんだから当たり前だよ、うん。

 でもこれからS級ダンジョンへ挑むのだから、参加なんてとんでもない。


 それにもしすずちゃんを入れたなら、このパーティは瓦解する。

 個人的にだが、絶対に無事に冒険を終えるはずがない。


 その理由は彼女が素人だとか、女優だからではない。

 ずはり、合コンが原因だ。


 そりゃ楽しくコンパをしたさ。仲良くなって共感する物もあって大満足の時間だった。

 でもでもでも、心愛さんと合わすのはマズい。俺の身がもたないよ。


 前回の合コンがバレた時もチクリと警告されている。今回もあまりいい顔をされてない。


 それがもし、人気女優と連絡先を交換しただなんて知られたら、どんな反応されるか考えるだけでも恐ろしい。

 それはもう致死量をこえた劇毒物だ。


 ほら既に心愛さんの目に光がないよ。

 なのに心愛さんが一歩前に出る。


「はじめまして。コテツさんとは師弟という固ーーーい絆で結ばれた聖女の心愛です。ずーーーっと女優業をされていた広井夜さんですよね?」


 こ、こわい。


「ええ、先日からコテツくんとはスッゴくスッゴく仲良くなったすずです。ちなみにコテツくんからは『すずちゃん』って呼ばれてます。よろしくね」


 あああああ、鈍感な俺でも分かるバチバチ感。


 これはアレだ。ギルマスが不用意に二人を会わせたせいだよ。

 恨むよ、もっと別のやり方があっただろ。これじゃあパーティ加入どころの騒ぎじゃない。


「二人とも仲良くなられたのですね。うんうん、紹介した甲斐がありましたよ。それに広井夜さんのジョブが凄いんですよ。必ずやパーティのプラスになるはずですよ」


 それにうちのパーティは二人だけど、完成された形態だ。


 盾役、物理アタッカー、魔法アタッカー、バッファーに貴重なヒーラーと、どれも二人でこなせている。

 これ以上何かを足す必要はないからな、加入と言われても困る。


 特に本人を目の前にして、断るのも酷だよ。


 ギルマスの紹介だから、流れ的には受け入れるのが自然だ。すずちゃんを見ても、そうなると信じきっている。


 でも空気を読めないギルマスは、これでもかとはしゃいでいる。


「広井夜さんのジョブのなのですが、実は『ラッキーガール』という唯一無二のものなのです」


 聞いたことのないジョブだが、想像するにきっと運が良いのだろう。

 でもなぁ、それだけではS級はキツイだろうな。


「ギルマス、悪いけどその提案は受けられないよ。彼女には危険すぎる」


「と思うでしょ。いいですか愛染さま、見ていて下さいね。彼女の運はハンパないんですよ、ハッ!」


 そういって手に持っていたコーヒーを、すずちゃんめがけてぶちまけた。

 すずちゃんは目をつむるが、受け入れている様子だ。

 その覚悟が見えたので、あえて事のなり行きを見守る。


 するとコーヒーまみれになるはずのすずちゃんは、一切濡れることがなかったのだ。

 彼女は一ミリも動いていない、コーヒー自体が避けたのだ。


「ねっ、ねっ、凄いでしょ? これだけでなくアイテムのドロップなんかにも、彼女の運は影響するのですよ。つまり素材を求めS級を攻略する愛染さまには、うってつけのメンバーになるはずです」


 それが本当なら、とんでもないジョブ特性だよ。


 低級ダンジョンでしか試した事がないが、ドロップ率はほぼ100%になるらしい。S級ならそこまでいかなくても、かなり期待できると言ってくる。


 もしかしたら完全攻略する前に、装備一式揃えるのも夢じゃないかもだ。


「でも断るよ。悪いな、ギルマス」


「えーーーー、なんでですか?」


 何でって言われても答えにくい。


 心愛さんとの関係を壊してまで、アイテムを欲しいとは思わないよ。

 それが根本にあるから、心愛さん本人を目の前にしてはこれまた言いにくい。

 それこそ愛の告白している以外なにものでもない。


 かと言って嘘は苦手だし、ことわる適当な理由も見つからない。

 どうしようか悩んでいると、心愛さんが俺の方をチラチラと見てくる。

 きっと同じことを考えているのかも。


「コテツさん、このお話受けましょうよ」


「へっ、反対しないの?」


「だって彼女の力はコテツさんに必要です。せっかく言ってくれているのですから、断るなんて勿体ないですよ」


 心愛さんは俺よりもずっと大人だ。

 私情よりも優先すべき事を知っている。


 特に今回のモンスターは人型だ。ドロップする品も装備品が期待できる。

 防具やアクセサリー、もしかしたら武器の類いが出るかもしれない。


 普通ならその確率は極めて低いのだから、試してみる価値はある。

 もしダメだとしても、元からない物と思えばいい。


「うん、分かったよ。心愛さんがそう言うならお願いしよう」


「良かったあ。じゃあ広井夜さん、よろしくお願いします」


「こちらこそ。それと仲間になるなら下の名前で呼んで。私も心愛ちゃんって呼ぶからさ」


「うん、分かったわ。すずちゃんにはコテツさんと何があったか聞きたいし。楽しいダンジョン攻略になりそうね」


「私も色々と聞かせてね」


「もちろんよ」


 うっ、胃が痛い。

 軽はずみな決断だったかもしれないぞ。早くも後悔をしてきたよ。


 ああ、回復魔法って胃痛とかに効いたっけ?




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