第33話 芸能人と合コンだってよ
普段は使わない超高級ホテル。
名前を告げると、最上階へと直行する専用エレベーターに案内された。
緊張でうまく歩けない。
勢いでうけた合コンだけど、相手はあの広井夜すずちゃんだ。
ドラマやCMだけでなく、あらゆるメディアを通して彼女を目にしない日はない。
そんな有名人とコンパだなんて、やはり信じられずフワついている。
そして覚悟のないまま、エレベーターは目的の階へと止まった。
「ようこそ愛染さん。こちらへどうぞ」
先に来ていた純々に導かれ、奥の部屋へと入る。
すずちゃんと会う緊張と、スイートルームの豪華さで更に視界が狭くなる。
「あっ、いい匂い」
漂ってくる香りの先には、一人の女性が立っていた。広井夜すずちゃんだ。
「は、はじめまして。あ、あ、愛染虎徹と申しまする」
「はい、広井夜すずです。本物の愛染さんなんですね?」
「は、はい」
あまりの美しさに、心臓が大きく脈をうつ。
ドックンと一発だ。
その血は一気に駆けめぐり、全身が熱くなる。
実物はメディアを通したソレの比ではない。美しすぎて、わーきゃー騒げない。ただ息を飲むので精一杯だ。
「ダンジョン攻略でお忙しいのに、お呼びくださってありがとうございます」
「お、お呼び?」
彼女の口振りだと、自分で望んだ風ではない。
まさかと純々を見ると、後頭部に手をあてて、申し訳なさそうに笑っている。
「くそっ、ハメやがったか」
「ハメ?」
「あっ、いや、何でもないです。す、座りましょうか」
純々にしてやられたが、困ることではない。
何処かで俺がすずちゃんのファンだと聞いて、この会をセッティングしてくれたのだろう。
姑息だけど、俺としても嬉しい罠だ。
おかげで緊張も解けたし、今はコンパを楽しむか。
「あー忍者だ。アンタまた来たの。いい加減にストーカーは止めてよね!」
「げっ、A子!」
その横には
天国から地獄へと急降下。
今度は本気で純々を睨みつける。もちろん殺気をこめてだ。
「妹のA子とは知り合いでしたか。人数あわせの男性俳優が目当てでして。なんなら俺と
「
「人聞きの悪いことをいうな」
いろんなショックが多すぎる。
二人が兄妹だといま知ったし、しかも純々を含めて合コンメンバーがこれだなんて怖い。
最高と最悪がそろうコンパだなんて、混乱して整理がつかないよ。
でもそんな俺の気持ちとは裏腹に、カオスなコンパはスタートした。
だけどスイートルームという場所のせいだろうか、俺の知っている合コンとは流れが違ったのだ。
乾杯もそこそこに、他の二組は各々話し込んでいる。自然とすずちゃんと二人になり、落ち着いて話ができそうだ。
「広井夜さんは……」
「折角だから下の名前で呼びあいませんか。年も近いし、仲良くなりたいもの」
「じゃ、じゃあ、すずちゃん?」
「うん、コテツくん」
よ、良い。これは楽しい予感しかしてこない。
「コテツくんって、コンパにはよく行くの?」
「いやいやいやいや~、こ、これで3回目だよ」
「えー、慣れてそう。それに待っている間、あの子がコンパ自慢を話していたわ」
チラッとA子を目線で指した。
こんな所までA子は邪魔をしてくるよ。すずちゃんに悪いイメージを植えつけやがった。
きちんと否定しておかないと、貴重な合コンが台無しだ。
「いや、どちらかというと苦手かな。うまくいった試しがないからね。でも、憧れはあるよ」
「えー、本当かなー」
「本当だよー、今もぎこちないしさ。自分のヘタレさが嫌になるよ」
「うそでしょ、SSSランクならモテるんじゃないの?」
「その箔が邪魔でさ。おれ自身を見てくれないというか、地位とかが先行しちゃうんだよ」
「そっか……私と同じだね」
意外そうにされて、クスッと笑われた。
そしてさっきまでよりも、ずっと柔らかな表情になった。
「今日ね、あなたと会うのを楽しみにしてたの。だって私よりも有名で、唯一無二の人ってどんなメンタルで生活したいるんだろうって。……でも会ったら、私と似ていて内向的って驚いちゃった」
「すずちゃんも?」
「なにーその目は。私はお芝居が好きなだけで普通の女の子よ。でも、周りはそう見てくれないのよね」
「あー、分かるわー。自己評価より上に言われると、プレッシャーにしかならないんだよね。特にインタビューがさ、ツラいんだよねえ」
「そうそう。あとさ、聞かれる質問がいつも決まってない?」
「「〈いま一番ハマっているのは何ですか?〉 プッ、あはははははー」」
ハモって同時に吹き出した。
ちょっと声が大きかったのか他の二組が見てくる。
クスクスと笑いあい、抑えて小声で話し出す。
「でも意外だな。すずちゃんが悩んでいるなんて」
「そうね、他人の顔色ばかりうかがっているわ」
「俺もギルマスの言いなりかな。あっ、でも一度だけワガママを通したっけ」
「へーすごーい。いいなあ、私には無理だもん」
「うん、勇気がいったけど、目をつぶったら相手が見えなくて楽だったよ」
「勢い? それってウケるー。それなら私にもできそう」
しまった。格好つけようとしてたのに、また馬鹿正直に言ってしまったよ。
そんな俺の焦りを知ってか、頬杖をつきジッと見てくる。
「コテツくんって、頼りになるね」
「お、おう。……ほ、惚れるなよ」
言ってしまった。
勢いって恐ろしい。
普段なら言えないセリフだが、コンパの魔力はえげつないよ。
すずちゃんもノリよく返してくれる。
「いまはダーメ。惚れるならもっと内面を知ってからだよ」
「お、おう」
たのしーーーーーーーーーーーーーーい!
やっと今頃になってスイートルームの豪華さが分かってきた。
ソファーやテーブルにカーテンに至るまで、全てが夢の国で囲まれている。
鬼門となるトイレに行っても、聞こえてくる本音トークにだって悪意はない。
各々が楽しみ、コンパを満喫している。
俺も飲むペースが早くなり、場の雰囲気はどんどんと盛り上がっていった。
これぞ、俺が求めていた合コンだ。
忍者は合コンでモテる、山ちゃんの言葉に偽りはなかったのだーーーー。
俺はいま青春を謳歌してますぞーーーーーーーーーーーーーー!
◇◇◇◇◇
「あれ、いつの間にか寝てたんだな」
ベッドで目を覚まし、傍らにあった水を飲む。
飲み過ぎたようで、途中から記憶がない。
痛む頭をかかえて起き上がり見ると、部屋には俺だけだ。
みんな帰ったのだろう。
「ふう、それにしても楽しかったなー」
もうひとくち飲み、体に染みるのを感じまどろむ。
昨晩の出来事は、この
俺も成長したものだ。
合コンでモテたとまではいかないが、ちゃんと連絡先を交換できた。
コンパの達人が聞いたなら、そんなの序の口だと笑われるだろう。
でも初心者の俺にしたら大躍進。
この一歩は大きすぎる、下手をしたら月まで届くかもしれないぞ。
「さてと、S級ダンジョンの打ち合わせは明日だしなあ。今日は一日のんびりとするか」
気持ちの余裕ができ、身支度をしようと起き上がったら、隣の部屋から足音が聞こえた来た。
まだ誰か残っていたんだ。
そうしたら、不埒な想像が膨らんできた。俺は誰かと一晩過ごしたのだ。
楽しいコンパをしたあと二人で朝を迎える。未熟な俺でもその意味はわかる。
その相手が異性であるなら、これはとんでもない事態ですぞ。
「す、すずちゃん?」
ついありもしない可能性を夢みてしまう。
でもあれだけ仲良くなったんだ。告白じみたやり取りもあった。
高鳴る心臓でパンクしそう。
足音は近づいてくる。
期待と不安で心の準備が出来ないうちに、部屋のドアが開いた。
「す、すず……ちゃ?」
「コラー忍者、やっと起きやがったのか。昼まで寝てるとは反省してねえな!」
頭に響く大きな声は、スーツを着ている大河内純々だった。
こんなオチにずっこける。
でも、なんだか純々の様子がおかしいぞ。口調も元に戻っているよ。
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