S級ダンジョン攻略

第31話 欲望うずまく会見

 鉱夫との打ち合わせは、なんとか無事に終わった。


 物作りに関しては天才的な山ちゃんだ。でも人嫌いだからな、座らせるだけでも苦労した。

 威勢の良い職人と内向的な山ちゃんとでは、いわば水と油。ただ聞くだけで終始無言を貫いていた。


 でもラボに帰ってくれば、途端にいつもの山ちゃんへと戻る。

 周りが見えなくなるほど集中して、瞬く間に道具を作り上げた。


 総オリハルコン製のつるはしやハンマーにクサビなど。

 どれも実用的な所は当然として、見た目も洗練されたデザインだ。完成品をみた鉱夫たちは、その力量の高さに唸り声をあげ感動していた。


 そうして次のステップに進むため、この朗報を全世界に向けて発表した。


 難航していた採掘もこれでスムーズに行える。そのセンセーショナルな内容に、各地から問い合わせが殺到したのは言うまでもない。


 夢を叶える夢の道具。


 そのフレーズでみんな浮き足だった。

 あのS級での失敗を恐れる必要はなくなり、再び注目が集まっている。


 そして詳しい内容を求められ、今日はギルド本部で記者会見を開く運びとなった。


「おおお、これ全部がオリハルコンで作られているのかよ、すげえな」

「き、きれい」


 大勢の記者たちが集まり、ショーケースに入れられた道具に群がっている。時間はたっぷりとあるのだが、我先にと争っているよ。


「これってって言ってたよな? いったいどれ程の価値になるんだよ」


「いやいや、さすがに全部じゃないだろ。そうですよね、愛染さん?」


「いえ、全ての部分がそうですよ。ただ部位や用途にあわせ性質を変えていますから、見た目とおりじゃないだけです」


「おおおおおおお!」


 俺も教えてもらわなかったら知らずにいたよ。色も質感もバラバラだ。

 まさに職人芸、あのズボラな山ちゃんからは、想像できない美しさである。


「ここからは質疑応答にはいります。何か質問のある方はいらっしゃいますか?」


 待ってましたと一斉に手を挙げてくる。

 全ての質問に答えるつもりだと伝えてあるが、それでもみんな必死に食らいついてくる。


「オリハルコンの実用性は確かなのでしょうか? 名前負けとかではありませんか?」


「はい、鉱夫を伴いS級ダンジョンで試してあります。これがその採掘品ですが、誰か鑑定スキルをお持ちの方はいませんか?」


 つるりとした50cm角の立方体を取り出し、テーブルの上にゴトリと置く。その形と重量感のある音で、記者たちは固唾をのんだ。


「そ、それはアダマンタイトの鉱石! そんな物が存在するなんて嘘だろ!」

「ああ、本物だよ。私にもそう見えているよ」

「神話の金属、とんでもないのが出てきたぞ」


 何人かはカメラを覗くのも忘れ、心を奪われている。

 実にありがたいリアクションだ。何人かスキル持ちがいたようで、説明する手間がはぶけた。


「見ての通り道具の効果は絶大です。格上と思われていたアダマンタイトでさえ、問題はありませんからね」


「そ、それではアイテムの普及は容易いのですね?」


「いやいや、今回は成功しましたが、加工技術はまだまだです。さらなる研究が必要で、今ある鉱石は売却をせずに、全てをそれに当てるつもりです」


 ここで海外記者が強く反応した。


「そうやって外への流出をさせないつもりですか? それだと日本による独占になりますよ」

「そうです、各国は平等を願っていますよ」


 同調する声が相次ぎ騒然となる。

 俺はかまわず話を続けると、聞き逃すまいと静かになる。


「いえ、独占しようにも不可能ですよ。なぜなら用意ができ次第、掘削道具一式を貸し出すつもりですからね。そうすれば不平等はなくなります」


「オリハルコン製のを貸し出すって嘘だろ。あっ、もしかして法外な手数料で儲けるつもりですか?」


「いいえ、手数料は取りますが、採掘量の1%だけです。まあ、ほかの保証金とかも貰うつもりはありませんよ」


「マジかよ、気前が良すぎだろ。採取不可能といわれた金属だぜ」

「たった1%なら、十分に価値はあるよな」

「すごい、世界が動くぞ」


 答えに一段と騒ぎが大きくなる。指名制だというのに、それを忘れて興奮しているよ。


 一番の感心は『どの国が初めに貸し出されるのか』だろう。

 記者の中には諜報機関もいるらしいので、その手の質問が多い。


「その順番はもう決まっているのですか? やはり一番は大国である我が国ですよね?」

「ふん、あんたの所に貸したら返ってこないだろ。何でも思い通りになると思うなよ」

「ほざくな、弱小国め!」

「バーカ、今は魔道大国になってるんだよ。いつまでも過去の栄光にすがるんじゃねえ」


 何やら記者同士で言い争いをしはじめた。

 互いに一歩先んじたい想いだろうが、中身は薄っぺらい子供のケンカで、放っておけばいつまでも続けそう。


 静まらせようと手を叩く。

 腹に響く太い音を出したら、他のみんなも身をすくめて固まった。

 中には気絶している人もいる……やばっ。


「えーっと、やりすぎた?」


 無言で首をふってくるのを見ると、ビビらせてしまった証拠だな。でも、ここはしれっと話を続けておく。


「借りパクは起きません。だって俺を敵に回す事になりますからね。それでもって言うのなら、まぁ仕方ないですよ」


「敵対するなんて滅相もない。我が国は愛染さんと共に歩みたいのです」

「うちも同じです」


 順番については未定だと説明しておく。さっきの流れもあり、素直に納得してくれている。


 しかし、みんな勘違いをしているよ。

 S級ダンジョンを前提で話している。道具さえあれば、オリハルコンを大量ゲットできると思い込んでいる。


 でも実際にはモンスターをい潜っての作業はむずかしく、手に入れるには相当の労力がいる。


 まあ、その時になれば気づくだろう。


 この後も幾つかの質問に答えていき、今回は五時間ほどで終了した。


「ではこれで会見を終わります。みなさん、ありがとうございました」


 そう締めくくり立とうとした時、先ほど揉めていた二人が手を上げてくる。何かと促してみると、声を揃えて言ってきた。


「愛染さん、サインをください」


「へっ?」


「この記念する日に是非ともお願いしたいのです」


 他の記者たちは何を言ってるのって顔でポカーンとなっている。

 それには俺も賛成だ。

 俺はアイドルではなく一般人で、そもそもサインの練習なんてしていない。


 そして記者全員が顔を真っ赤にして怒鳴った。


「あんた達だけはズルいだろ!」


「はあ?」


 おかしいだろと突っ込む前に何やら列が出来始め、各々が紙とペンを用意しだした。


 ほぼキャラクターショーのノリだ。きゃっきゃっと浮かれている。

 それは記者だけでなく他の人達も伝染した。施設のスタッフとかも参加して、目を輝かせているよ。


 こうなっては簡単に断れず、急遽サイン会を行う羽目になってしまった。

 残業二時間、握手と写真撮影つきの大サービスとなりました。

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