第29話 オリハルコン ①
ダンジョン内では、近代的な道具は使えない。だから採掘自体はすべて手作業になるため、冒険者と同様に鉱夫は大事な存在だ。
今回たずさわってくれた鉱夫は熟練者ばかりで、作業は早く活気にあふれている。
「親方ー、差し入れ持ってきたよー!」
「いつもすまんな。よーし、休憩にするぞ」
「「愛染さん、あざーっす」」
菓子と飲み物を配るのは心愛さんにお願いをし、俺は親方と話をする。
「上級鉱石はやはり無理ですか?」
「ああ、技術班も頑張ってくれてるが、
「やっぱ、オリハルコンですかぁ」
分かっちゃいるがため息がでる。あれから何も進んでおらず、つい罪のないつるはしを睨み付けてしまう。
「どうだ、一度試してみるか? ヒントになるかもしれねえしよ。なーに、壊してもかまわんよ」
特殊鋼のつるはしを渡され振ってみる。通常の岩などは気持ちいいほど掘れていく。しかし、目的の鉱床だとまるでダメ。飴のようにひしゃげてしまった。
対して鉱床はまったくの無傷で、変わらず涼しげに光っている。
「……なんちゅー馬鹿力だ。でも力じゃねえってのは分かっただろ?」
「ええ、ちゃんとした道具がいりますね」
いつも困った時には山ちゃんに頼るんだけど、今回は専門外だと断られ、ほとほと困っているんだ。
こうなると奇跡と技術班を信じるしかない。
足げに通い出土品をチェックするが、出るのはA級以下の品ばかりだ。
見る度にため息をつき、心愛さんに
「コテツさん、元気を出して。きっとその内うまくいきますよ」
「だと良いんだけどねぇ。はあ、オリハルコンの装備って夢なのかなあ」
「大丈夫ですって。コテツならどんな無理な事でも実現できますよ。私は信じていますよ」
「またまた~、そんなおだてないでよ」
「いいえ、コテツさんなら出来ますよ。だって私利私欲を捨てて、世界の為に戦うコテツさんが失敗するなんてあり得ません。鉱夫や他のみんなも、そんなコテツさんを信じているからこそ頑張っているんです。絶対、絶対うまくいきます。だから、コテツさんはデーンと構えていればいいんですよ」
「お、おう」
い、言えない。
オリハルコンが欲しい理由が、格好いいからだなんて絶対に言えない。
オリハルコンを揃えて活躍したら、めっちゃモテるからだなんて心愛さんには言えやしない。
最終的に合コンで見せびらかすためだなんて、口が裂けても言えるはずがない。
嗚呼、嗚呼、あーーーーー。
「そ、そうだね。みんなの期待は俺が背負うよ」
「はい!」
合コンの事は一旦忘れよう。それが今は一番大事なことだ。
◇◇◇◇◇
そして、とうとう遂に100日目となった。
トロッコやらの資材の回収が始まっていて、みんなダンジョンの終焉にむけて準備をしている。
「オリハルコン、採れませんでしたね」
「……ああ」
「残念ですが、そろそろ撤収しましょうか?」
「……そ、そだな」
寄り添ってくれている心愛さんが声を掛けてくれるけど、生返事になってしまう。
すぐそこにオリハルコンは見えている。キラキラと誘うように光っている。
なのに、たったひと
「はぁ、これじゃあS級ダンジョンをやる意味がないよ」
「そんなに落ち込まないで下さい」
そう励ましてくれたはものの、これは俺だけの問題じゃあない。
A級のアイテムしか採掘できないのであれば、難易度の高いS級でなくてよい。A級ダンジョンで十分であり、冒険者の強さもそれに合えばいい。
そう、SSSランクなど無用の長物。単なるお飾りでしかない。
「装備一式とは言わないよ。でもせめて道具を作る分は欲しかったよ。ねえ心愛さん、これって贅沢な望みかな?」
答えにくい質問をしてしまい、心愛さんを困らせてしまった。落ち込んでいるとはいえ、そんな自分がいやになる。
その負の感情はどんどんと溜まり、俺の心をかき乱す。訳も分からず刀を抜き、罪の無い壁に八つ当たりをしてしまう。
「なんで! 一個も出ないんだよ! この、この、この!」
ありっ丈の魔力をこめて叩きつける。
壁は崩れ四散する。
無駄なことだと分かりつつも、何度も何度も繰り返す。
「きゃっ!」
やりすぎた、飛び散る欠片のひとつが心愛さんに当たってしまった。
「ゴ、ゴメン、怪我はない?」
「ええ、大丈夫ですが、早くしないと本当に出られなくなりますよ?」
「ああ、そうだね。……行こうか」
見上げる光景は静かなものだ。モンスターや鉱夫もいなく、
柄でもないが、最後の別れとして床に手を当て礼をいう。
「夢を見させてくれただけでも感謝するよ、ありがとな。それじゃあ行くよ。……んんん、なんだこれ?」
手元に青白く光る鉱石がひとつ。まさかと思うが鑑定をしてみる。
「こ、これはオリハルコン!」
「えっ、えっ、ほ、本当です。それ、本物ですよ!」
互いに見つめ合い確認する。奇跡が起こったのではない。
俺の魔力を込めた攻撃が、破壊不可能だとされていた鉱床を打ち崩したのだ。
「うおーーーーーーーーーーーーー!」
あがき苦悩したのが馬鹿らしい。答えを見つかれば後はガムシャラに掘るだけだ。ここにもあそこにも大量のオリハルコンは埋まっている。装備一式なんてケチ臭いものじゃない。
どんどん掘り進め、どんどんインベントリへ詰め込んていく。気持ちが高ぶれば高ぶるほど、スピードは増していく。
「ちょっとコテツさん、ダメですよ。時間がもうありません。このままだと生き埋めになっちゃいます!」
「もう少し、あと少しだけ。ここらを掘り尽くしたら行くからさ」
「ダメーーーーー、本当に死んじゃいます。何が大事なのかを見失わないでーー!」
「そ、そうか」
少年の頃、俺は合コンに憧れて忍者を目指した。
忍者になる事は叶い、次のステップでは最高装備を揃えることに夢中になっている。
でもそれは夢の途中経過でしかない。
そう、俺の目指す物は合コンの成功であって、オリハルコンを手に入れることではない。
まだ小さな頃の夢を叶えていない。ここで死んだら元も子もない。
例え納得いく量でなくても引き上げるべきだ。
「ごめん心愛さん、おれが間違っていたよ。出よう、今すぐ出てこのオリハルコンを世に届けよう」
「はい!」
「よーし、じゃあ失礼するよ」
「きゃっ!」
心愛さんをお姫様抱っこして猛ダッシュする。階段を飛び越え、壁を壊し一直線に突き進む。
そうして外に出た瞬間、出口はスーッと消えていった。
「あっぶなーーー」
「はい、間一髪です。それと抱き上げられてすごくドキドキしましたーー」
「お、おう」
必要だったからしただけで、何もやましいことはない。でも言われると照れくさく、誤魔化すため別の話をふる。
「でも心愛さん、なんで一緒に残ってくれたの。怖かったでしょ?」
「だって大事な人を放っておけないですよ」
「えっ!」
余計に赤くなってしまった。
心愛さんを女性として意識したことはある。いや、四六時中しているのが本当だ。
合コンをした仲だし、師弟としても良好で何より今も大事だと言われたよ。これは脈ありと捉えていいだろう。
今まで勇気が出ずにいた。でも今なら言える。よし、言うならいまだ。好きだって言ってしまおう。いま言わなきゃ他では無理だ。
そう決意して背筋を伸ばした。
「心愛さん、お話があります」
「……はい?」
さあ、勢いでもいいから言ってやる。
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