第28話 100日目が間近

 山ちゃんが作った魔道具のなかに、絶対捕縛縄というものがある。

 使い方は簡単で、対象者にただ投げるだけで自動で縛り上げてくれる。

 しかも対象者の魔力に応じて縛る力が増していき、決して自分ではほどけない仕様なのだ。

 無理に外そうとすれば、更に締めつけが強まる親切設計。

 犯罪者二人を連れて運ぶには、うってつけの道具である。


「お、おい忍者、なんで電車に乗るんだよ」


「んん、歩いて行くには遠いぞ?」


「バカヤロー、タクシーとか他にあるだろ。これじゃあさらし者じゃねえかよ!」


 ここまでの道のりでも目立っていた。なにせSSSランクの俺が、二人の男を縄で縛ってひきつれているんだ。

 嫌が上でも人々からの注目を集めるよ。


 そしてこれは何かと尋ねてくる人に、丁寧に説明をしてあげる。

 すると面白がって、みんな動画を撮りはじめた。


「みなさーん、面白く仕上げてくださいねー」


「嫌だ、頼むからさらすのだけは止めてくれ。おい、聞いてんのかよ、クソッタレ!」


 犯罪者の贅沢な願いを聞き流し、ギルド本部へと向かう。

 ぎゃーぎゃー騒ぐ度に縄をひくと、きつく締めつけるから自然と静かになる。

 撮っている人達にもウケて、アップし甲斐があると喜ばれた。



 予定よりは時間はおしたが、無事にギルドへとたどり着いた。


「愛染さま、今度は何事ですか。何処を開いてもあなたの事で持ちきりですよ!」


 有り難いことにこの引き回しを、道行く人々がSNSや動画で上げてくれている。面白半分ではあるが、こちらからギルドに連絡を入れる手間が省けた。


 とはいえ、説明は必要だな。


「前に引き抜きの件を言ったよな。今度は心愛さんを人質に取ろうとしたんだよ。で、返り討ち。合衆国ギルドもムチャするよなあ」


「ひ、人質ですと!」


 丸山さんは卒倒し、ギルマスもまた与太よたっている。


「ほら、外は危険だと言ったでしょ。ああああ、聖女さま、ぜひギルドにお戻り下さい」


「いやいや、俺を心配しろよ。危うく海外に拉致らちされる処だったんだぜ」


「何を言っているのですか。Sランクなんて束で来ても問題ないんでしょ? 貴方なんかよりも聖女さまですよ」


「うわ~、根にもってるよ」


 散々嫌みを言いいつづけてくる。

 でも今回の拡散で、聖女には愛染虎徹がついているとアピールができた。心愛さんに手を出してくる馬鹿は失くなるだろう。


「はあ、平行線ですね。愛染さまも強情だ。それよりも少しお話があります」


「んん、アメリカ大使館から抗議でも来たの?」


「それは突っぱねておきましたよ。そうではなく、オリハルコンの件です」


 少し声色こわいろが変わったな。いつになく険しい表情だ。

 先方の要求アイテムの集まりは悪くない。なのに相談ときた。


「用意できている素材の先渡しを、企業側が求めてきたのです」


「おおお、いいじゃん。それでこちらが貰える量は?」


「……ゼロです。向こうからは取り決め通り、素材が揃ってから渡すとのことです」


「はあ?」


「残りの日数が少ないですからね。足元を見てきたのでしょう」


 ギルマスとしても納得していないようだ。つり上がる眉の意味が、今になって理解できた。


 始めから不公平な取引だった。ただ他に選択肢がなかったのだから仕方がない。

 ここに来て、こちらが採掘に失敗すると踏んだのだろう。あわよくば、要求したアイテムだけでもかすめ取ろうて魂胆がみえみえだ。


「ですがオリハルコンが必要なのも事実。ここは私情をすてて、要求をのむのが最適かと」


「まあ、分かりました。では、そことの契約は打ち切りにしましょう」


「悔しいですが、飲むしかないですな。背に腹はかえられませんから。……って、打ち切りーーーーーーー!?」


「ええ、先方には今後一切の取り引きをしないと、そうお伝え下さい」


「そ、それはまずいです。外交上でもめますよ」


 口では困ると止めてくるのに、なんとも嬉しそうにしている。余程腹にえかねるものがあるのだな。それを誤魔化すためか、わざとらしく部屋を歩き、笑うところを見られないよう必死になっている。


「これは個人での取り引きだぜ。外交上って、国際手配でもされるのか?」


「それはないですが、オリハルコンを諦める事になりますよ?」


「それは百も承知。ただこっちが大量ゲットした時に、どんな反応するか楽しみだな」


「ぷっ……きっと分配を求めてくるでしょうね。でも今回の事を盾にしてきますよ」


「いや、売らないよ。もし欲しいなら今持っている分を全てタダで引き渡せって言っておいて」


「ますます怒りますよ?」


「それで怒るようならあっちに未来はない。付き合う価値もないよ」


 それに契約内容の変更を申し出てきたんだ。その時点で先のものは無効だ。書類はあくまで内容明記であって、互いの信頼を表すものじゃない。


「ははははー、先方に伝えておきます。どう返してくるか楽しみですね」


 もう相手への侮蔑の感情を、隠そうともしていない。大股で意気揚々と出ていった。


 後は任せておけば、面倒な駆け引きはしてくれるだろう。


 でも呑気に休んではいられないか。

 採掘のための解決策がないのに変わりはないのだから。とりあえずヒントを探しに、ダンジョンへ向かうことにした。

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