第16話 世界と身内

 ギルド本部を覆う分厚い防御壁が、ゆっくりと収納されていく。

 壁が下がりきり中からギルマスが出ていくと、マスコミ陣に取り囲まれた。


「ギルマス、いったい何が起こったのですか。レベル5の最終防御発動とは尋常ではないですよ?」


 ギルマスは浴びせられる質問に、笑顔だけをむけて静まるよう言う。


「その件を説明するため、皆さんをお迎えに来ました。どうぞ中へお入り下さい」


 痺れをきらしていたマスコミだが、素直に会見会場についていく。そしてすぐに会見は始まった。


「喜ばしいお知らせです。この度のS級ダンジョンを踏破された人物が判明いたしました。まずはその報告です」


 ギルマスからの発言に一同静まり返った。

 謝罪会見だと構えていた分、予想外の報せにほうけているのだ。

 記者の中の一人がなんとか口をひらく。


「まさか、ずっと正体が掴めなかったあの超人集団のことですか?」


「ええ、そうです。ただ正確には集団ではなく、踏破はいち個人によるものでした」


「ま、待って下さい。いまソロでと捉えれる話しぶりでしたよ。そんな怪物がいるはずが……」


「いいえ、不可能を可能にした者がいたのです。その方の名は愛染虎徹。忍者のジョブを持つ、れっきとしたギルドメンバーです」


「それでは外の防御壁はその為ですか?」


「ええ、詳しくは話せませんが関係しているとだけ言っておきましょう」


「おい、聞いたかデスク。その人物の情報を集めてくれ」

「すげえ、すげえ、これは特集もんだぞ」

「それよりも、その人物は今はどこですか?」


 詰め寄る記者に対して、ギルマスは余裕を超えて、悟りの微笑みで受け止めている。

 あまつさえ、指を鳴らして丸山に合図を送った。


「丸山さん、データを皆さんに!」


「はいっ」


 騒然となるタイミングを見計らい、ギルマスは各記者にデータを送信した。

 各々が端末に釘付けになり、一心不乱に読み漁る。そして矢継ぎ早に質問が飛び交う。


 しかし主導権は、既にギルマスにより握られている。


 質問のなかには虎徹の個人的な情報や、きわどい物があった。しかし、それら全てを退けている。


 ただ中には流されない者がいて、否定的な質問もされている。


「その人物は本物ですか。踏破をかたる者が多く、世間はうんざりしていますよ?」


「ええ、私も始めは皆さんと同様に信じられませんでした。でもこれを見せられては、納得するしかありませんでしたよ」


 そう言い、出してきたのはボスの魔石である。

 虹色に輝くその美しさを見せられ、感嘆の声とため息がもれている。


「なんて綺麗な。これがS級のか」

「見たことのない輝きだよ。他とは比べ物にならないぞ」

「ああ、これは確定だな」


 この衝撃のニュースに沸き立つのは、何も会場だけではない。テレビやネットを通じリアルタイムで伝えられている。


 防御壁という前振りがあった為、かなり多くの視聴がある。そして先の内容により、更に数は増えていった。


 当初ささやかれた懐疑的なコメントも、ギルマスが取り出す魔石の大きさと輝きに口をつぐむ。


 その踏破者を知りたいと皆が願う。

 そのプレイスタイルや年収や人柄と、どんな些細な情報でもよいと。

 それをギルマスも承知しており、出来る範囲で答えていく。そして盛り上がった時点で、ここぞとばかりに昇格の話をきりだした。


「愛染氏の功績は大きく、今あるギルドでの評価では収まりきりません。よって、彼に相応しい地位を新たに設け、それを愛染氏に受け取っていただきました」


 予期せぬ発表に世界が固唾をのんで見守る。

 体感では長い沈黙ではあるが、皆が答えを想像するには短すぎて、ギルマスによって知らされる。


「それは人類初となるSSSトリプルエスランク。唯一無二の称号であります!」


 地を震わせるうなり声。今までのどの歓声よりも大きく沸いた。対魔大戦を想定され作られたギルド本部が振れている。

 その興奮はおさまらず、地域によっては通信がひっ迫しサーバーダウンがおきている。


 その最高潮のボルテージのなか、ギルマスが高らかに宣言をする。


「それでは唯一無二の存在にして、不滅の情熱をもつ忍者。愛染虎徹の登場です。みなさん、入り口をご注目ください!」


 ドラムロールが鳴りやんだ瞬間、スポットライトが当てられて愛染虎徹の姿が浮かびあがったのだ。


 ◇◇◇◇◇


 あの会見により、俺の人生は大きく変わった。

 実に6時間ものあいだ質問攻めにあい、俺という人間は丸裸にされたよ。


 ギルマスはプライベートだと突っぱねた事を、あとになって理解できた。マスコミという人種は容赦を一切してくれない。


 ただその対応が良かったらしく、彼らとは良好な関係を築けれた。書かれる内容は全て好意的で、あのバズーカ週刊誌でさえ、1ミリの嫌味も書いていない。


 もしかしたら書かれたのかもしれないが、それすら目に入らないほど毎日が忙しくなった。


 連日、冒険者関係や経済界のお偉いさんとの会合のほか、海外からも面会の依頼がある。


 とはいえ全てに応えるのは無理だ。

 ギルドに窓口になってもらい、スケジュールなどはお願いしてある。不要不急な件が多すぎるからね。


 そんな合間をぬって、今日は友達に会いに来た。


「おいーーすっ、例の魔石を持ってきたぜーー」


「遅いよーーコテツ。でも、ありがとなー」


「いいって。心愛さんの忍者衣装も作ってもらったし、こんの物じゃ足りない位だよ」


 親友の山ちゃんとのワチャワチャとした挨拶を終え、ボスの魔石を手渡す。

 この山ちゃんとは小学以来の付き合いで、いまも錬金術でサポートをしてくれている大事な仲間だ。


 彼の作るアイテムは様々だ。実用的な忍具から、ヘンテコな発明品まで幅広い。前に使った魔法マジックも山ちゃんの道具である。


「でも忙しいだろ。ちゃんとその女の子との時間は作れているのか?」


「当たり前だよ。修行の約束をしたんだから、何をおいてもしっかりやるよ」


「はあー、愛の力は偉大だねえ」


 本当に色んな事が増えすぎて、目の回る忙しさだ。でも心愛さんとの時間は大切なので、最低でも8時間は彼女のために空けている。


 心愛さんは減らしても良いというが、弟子なんだから気にするなと返してある。まあ本音をいえば、逆にそれがなかったら普段のハードスケジュールをこなす気になれない。


 なにせ聞いた話だと、オファーとしたら今後3年先までビッシリだ。ダンジョン攻略もあるし、その大半は断ってある。

 それでもムーブメントには逆らえず、最初だけは辛抱してくれと、今の忙しさになっている。


「それでその女の子とはどうなったの? いい感じに進んでるのかー?」


「違うよ、そんな関係じゃないって。……まあ、かわいいとは思うけどさ」


「ほらみろーーーー」


 変な所をくすぐってくる。良い奴なんだけど、こういう所が困る。いつまでも思春期のノリのままだ。


「それよりも魔石を渡したんだから、心愛さんへの新しい武器は頼むぞ」


 切り上げるため真面目な話をすると、山ちゃんは顔を曇らせてくる。


「うーん。やっぱさ、最良ってなると、今までの素材だと厳しいわ。少しでいいからさ、伝説のアイテムとかって手に入らねえ?」


「おっ、タイムリー。もしかしたら例のダンジョンで期待できるかもよ。オリハルコンが出るらしいぜ」


「おおお、タイムリー。コテツ愛してるーーーーーーーーー」


「にゃはははは、こそぐるなーーーー」


 一緒に飲むため特別なお酒を持ってきたけど、このノリだとヤバそうだ。

 明日は心愛さんとの約束があるし、早めに切り上げよう。

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