第14話 ギルドでの出来事 ⑥

「ギルマス、お気を確かに。忍者ごときがS級なんて無理ですよ。奴はただのペテン師です。目を見たら分かりますって」


「なんと凝り固まった考えだ。では仮にこの方が本物の踏破者だとして、その経済効果はどれ程になると思います?」


「はははーあり得ない話ですよ。……でも、もしそうなら数千億円はいくでしょうな」


「そうですよ。それに新たなアイテムなどの供給で、日本の魔法技術は大きく発展し他国を大きく引き離すでしょう。そんな影響力のある人物が、無実の罪をきせられ亡命でもしたらどうなります。日本は全てを失うどころか、全世界から嘲笑の的となるでしょうな」


「えっ、ま、まさか。そんなはずは」


「あるのです! すこし考えればすぐ分かる事ですよ。日本は全冒険者から信用されず見捨てられ、破滅の道を辿ります。それら全ては偏見をもった君によって引き起こされる未来です。どうですか、歴史に悪名を残す気分は。さぞ愉快でしょうな」


「ま、待ってください。俺はそんなつもりではなかったんです」


「そうですか、策略というなら善悪を別にして、まだ見込みがありましたよ。それが天然とはがたい。早々にこの場を立ち去りなさい!」


 想像もしなかった現実を突きつけられ、大河内は涙目になっている。上司からの評価はさがり、自分のポジションが崩れたのだ。負の感情が入り乱れ、その怒りの矛先を俺に向けてきた。


「忍者ー、貴様のせいで俺の出世の道は閉ざされたぞ」


「自業自得だろ」


「なんたる言いぐさ。やはり貴様は悪。死んで詫びを入れやがれ!」


 半狂乱になり、無謀にも冒険者である俺に殴りかかってくる。

 返り討ちは簡単だが、それをえて棒立ちになり待っておく。撃退は俺の仕事じゃないからだ。


「いかん、警備員あれを止めろ!」


 言い終わるよりも先に警備員たちは動いていた。大河内が半分の距離も詰めることもなく取り押さえられる。


「嫌だ、嫌だ。なんで俺がこんな目に合わなくてはならないんだ。やめて、痛い、いやだーーーーパパーーーーーー!」


 どう騒ごうが身動きできない。そのまま奥へと連れ去られていった。


 うん、これでいい。

 大河内を止める役目はギルドでなくちゃいけない。そうでなければ、ギルドは俺との対立をしたままだと世間に思われる。


 逆に大河内の暴走を阻止をすれば面子だって保たれる。だから、俺は動かない。


 だけどこれで全て終わった訳ではない。ギルマスもそれは承知しているみたいだな。また大きく頭を下げてきた。


「今回の件、全てあの者の独断とはいえ、責任は私にございます。ですが我ら冒険者ギルドは、愛染さまと敵対するつもりはございません」

「「ございません」」


 他の職員と揃いすぎる謝罪だ。案外練習をしていのかも。そうなら遠慮せずに聞いてみるか。


「じゃあ、盗られた魔石は?」


「もちろんお返しいたします。さあ、お渡しをして」


 その言葉に嘘偽りはなく、木箱に入れられた魔石を差し出された。

 念のため鑑定をしてみても本物で、罠の類いもない。


「それと停止されたギルドカードはどうなるの?」


「て、停止ですと? そ、それも直ちに復旧させます」


 これまた大慌てになったが、モノの数分ほどで元通りになる。口座や履歴を見ても、不具合な点はなさそうだ。

 どうやらギルド側の誠意は本物だな。大河内の独断なのは明白なので、これ以上の追及はナシだ。


「まあ、これならいいか。それじゃあ俺は行くよ」


「お待ちください。ダンジョン採掘権の事でご相談があります」


「ああっ、そうか忘れていた」


 ダンジョンで一番大事な件を終わらせていなかった。合コンでのゴタゴタでそれ処ではなかったもんな。

 早めにしないと勿体ないし、ギルマスに言われるがまま後をついて行くことにした。


 通された部屋は、殺風景なギルマスの執務室だ。

 金をかけていそうなのは来客用のソファー位なもので、実に質素な部屋構えだ。


「改めまして、ギルドへようこそ。さて愛染さま、採掘権の事でお話を進めたいので、他のメンバー様をお呼び頂けますか?」


「他の?」


「はい、皆様の同意があればすぐにも開始できます。S級ですので動く額も大きくなります」


「いや、ソロだから仲間はいないよ」


「まさか、からかわないで下さい。はははっ、は、は、は……マ、マジで?」


「わ、悪い?」


「いやいや、偵察や討伐それに魔石の回収や休憩だってあるんですよ。それをお一人って、やれるはずないですよ、ね?」


 ボッチを馬鹿にしているのだろうか。でもムキになって反論すれば、余計に恥ずかしい想いをする。押し黙るしかなく、重たい空気が流れていく。


 忍者の特性上、ソロでの活動がやり易い。

 隠行で不意打ちや術での一掃、分身を使えば魔石などのアイテム人手だって問題ない。


 いや、問題なさすぎて気づけば寂しいボッチになっていたんだ。でもそれを他人に指摘されると恥ずかしいものだ。


 そんな想いがやっと伝わり、ギルマスは慌ててフォローをしてくる。


「す、すみません。余りにも大きな功績ですので、お一人でとは信じられなかったのです。そ、それでは進めさせていただきます」


 ギルマスからされる話は、ボッチの件などあっという間に忘れる内容だった。


 ダンジョンの採掘に必要な資材や人件費などの諸費用は、ギルドが持つと提案された。こんなの初めてのことだ、大盤振る舞いにもほどがある。

 しかもメンバーは既に集められているという周到ぶりだ。熱のいれ具合がすごい。


「ちなみに俺の取り分って、どれ位になりそうなの?」


「オリハルコン鉱石が見つかりましたので、概算ですがA級の100倍はいくかと。とはいえ出土する量によりますがね」


「えっ、待って。オリハルコンの鉱石って未発見だよね? まさか、からかっている?」


「いえ、鑑定した者も驚いておりました。これで魔法技術は格段に飛躍します。新時代の幕開けですよ!」


 金額もそうだけど世界が変わると言われても、俺の理解が追いつかない。

 だけど興奮したギルマスは止まらず、ドンと書類の束を出してきた。


「良ければ今すぐにでも契約を結ばさせて下さい。すでに残り90日をきっています。一分でも早い決断が明るい未来を作ります。ぜひ、ぜひ、是非ーーー!」


「は、はい。えっと、サインはここで?」


「はい、それとここにも。……はい、OKーーーー。丸山さん、ゴーゴーゴーーーーー!」


「はいーー、全作業者は行動開始しろ!」


 電話越しに聞こえてくる大勢の歓声にも熱がある。その声はしばらく続き、ここにいる二人も嬉しそうに抱き合っていた。


 俺は額の大きさにまだ夢心地だが、うっすらと良い判断をしたとだけは考えられた。


 沢山の出来事が起きすぎて、心はもう降参だ。はやく帰って休むとしよう。

 そう席を立ち帰ろうとすると、またもやギルマスに止められた。


「愛染さま、ありがとうございます。では次の話に入らさせていただきます」


「えっ、まだあるの?」


「はい、どちらかと言うとここからが本題です」


 何度もいうが、すでに俺のキャパは越えているよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る