第15話 史上初のSSSランク

 採掘契約でキリがついたはずなのに、ギルマスに止められた。


「愛染さま、お待ち下さい。急を要するため契約を先にしましたが、それよりももっと大切な事がございます」


「なにそれ?」


 ギルマスの圧力がすごい。さっきまでも熱量があったが、それを上回っている。目は血走り鼻息が粗い。

 大金の話よりも大事な件とは想像もつかない。ボス戦よりも緊張があり、ついこちらも構えてしまう。


 それは何かと尋ねてみると、ギルマスは誇らしげに話し出した。


「愛染さまのギルドランクはSランクでしたよね?」


「ああ、一人だと出来るクエストが少ないからな。やっと最近なったばかりさ」


「それでもS級をソロで攻略されましたね」


「まあ、相性が良かったしな。大したことじゃないよ」


「いえいえ、何人かかっても一階層の確保すら出来なかったのです。愛染さまのお力は飛び抜けているのは明白。他の誰もかないませんよ」


「い、言いすぎだよ」


 否定しつつも『わかる?』とついニヤケてしまうのは許してほしい。

 それが伝わったのかギルマスは興奮し、鎮まるようなだめても収まらない。

 その熱は高まっていき、身振り手振りが大きくなる。そして、すこし間をためてニヤリと笑ってきた。


「そこでその功績を讃え、愛染さまには史上初となる『SSSランク』の称号をお受け頂きたいのです。それを全世界にむけて、華々しく発表させて下さいませ」


「はあ?」


 とんでもない事を言い出した。S級ですらこの国に数人しかいないんだ。それを超えるなんて飛躍しすぎている。


 何かしらのご褒美は期待していた。ギルド手数料の免除とか、トップクラスの美女たちとすげぇ楽しい合コンだとかだ。


 でもそれらは現実味があるからこそ、想像して楽しいんだよ。でも飛び抜けすぎているのはダメ、楽しめない。


 それに俺はギルドに所属する冒険者だからこそ、ランクの重みを知っている。

 Sランクの冒険者人口は全体の0.01%にも満たない。それだけ力量が求められるから、しごく当然の事である。


 だからそのSランクの面子は錚々そうそうたるものだ。

 直接対戦をしたことはないが、みんな化け物染みているらしい。個々のジョブを昇華させ、プライドだって超ど級だ。


 ギルドとしても極力接触させないようとしているとの噂があるほどだ。


 そんな長年トップを張ってきた人達を差し置いて、2つも飛び越したらどうなるか。

 答えは簡単、八つ裂きだ。


 雷帝の異名をもつソラ。バイオハザードことエミリン。ねじ曲げ屋台のこう太に狂犬重騎士のバンビ。

 ここら辺はヤバすぎる。絶対に黙って許してくれる輩じゃない。


 SSSランクなんて貰い損でしかないので、丁重にお断りをしておく。


「えっと、辞退させてもらいます」


「もしかして、まださっきの件を怒られているのですか?」


「いえ、そうじゃなくて。やっかみとか怖いですからねえ」


「最強なのに嘘でしょ?」


 ギルマスの立場ならそう望むのは分かるが、こちらの身の安全のほうが大事だ。

 それに心愛さんという弟子もできたし、彼女が巻き込まれたら大変だ。


「身バレは仕方ないとして、悪目立ちはさけたいかなあ」


「そこをなんとか。世界中から問い合わせや、インタビューのオファーが殺到しているのです」


「えっ、マジで?」


 驚き聞き返すと、ギルマスは少し得意気にタブレットを見せてきた。


 ニュースの内容はほぼ全て、S級踏破者のことで持ちきりだった。踏破者とは誰なのか、その価値は、目撃談話や死亡説など、憶測と夢で俺が語られていた。それは俺であり俺でない。


 だが世界が注目してくるのは、紛れもない事実であった。


 そして次々とニュースをめくっていくと、その中の一つに目が止まる。


『踏破者と合コンするなら、有りor無し? 〈有り99.9%〉』


 圧勝しているその記事に心を奪われていると、ギルマスが横からささやいてくる。


「いやー、ウチの職員のなかでも、この話題でもちきりですよ。仕事を休んでも絶対に行きたいって。困ったものですが、愛染さまの魅力には勝てませんからねぇ」


 口が乾きすぎて開けられず、表情だけで問いただす。


「本当ですとも。それに女子アナとかの間でも、インタビューの争奪戦らしいですよ。SSSランクとは、こうもうらやましいモノなんですなあ。あっ、これはオフレコでお願いしますよ?」


 し、知らなかった。

 時代はSSSランクに傾いてきている。

 最近ネットすら見ていなかったから、危うくチャンスを逃す所であった。


 それを気づかせてくれたギルマスに、礼を言おうとしたが何故か彼の表情が暗い。


「でもそれだけ固辞されるのですから、諦めるしかないのですね。いやはや残念です」


「ま、待って!」


 逃がす訳にいかない。腕をつかみ引き寄せる。


「ギルマス、SSSランクへの昇格を受けるよ。いや、こちらからお願いします」


「……でも、お嫌なんですよね。無理をしないで下さいよ~♡」


「違う、本当になりたんだ。だから、お願い、SSSランクにさせてくださいーーー!」


「おおおお、では記者会見を開きますので、派手にやってもらえますか? より良いお話が舞い込んできますよ」


「もっちろん!」


 春がくる、そうギルマスが言っている。

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