第9話 心愛からの告白

 実力に見合わない階層にまで来た勇者たちは、無謀にも中ボスに挑みピンチになる。

 それを助けたのだけど、彼らから非難されている。


「忍者が俺らの獲物を盗った。これは完全に違法だぜーー、イエーイ」

「くず野郎、だから下級ジョブは嫌いなんだよな」


「おいおい、救ってやったのにそれはないだろ」


「それはないだろー、だってよ。ダッサーー」


 彼らの命もそうだが、女の子たちに怪我があれば、勇者たちに傷害罪が適用される。それが無謀な挑戦への代償だ。

 でもそこまで考えていないようだな。


「三郎くん、今のもバッチリ撮ってあるからね」


「サンキューA子ちゃん。さあどうする忍者、動かぬ証拠があるからな。下手な言い訳はできないぞ」


 勝ちを確信した勇者の暴走は止まらない。何が気に入らないのか聞こうとしても、耳をふさいで舌を出してくる。


 いい加減うんざりしてきた。


「あー、わかったから。ここの中ボスはアンタたちの物だ。手を出して悪かったな。この後も一切手を出さないよ」


「はははー、ヒヨってやんの。この根性なし」

「でもー、警察につき出すのは勘弁しないからな」

「そうよ、パパに言って一番重い刑にしてもらうからね。富裕層の権限をフルに使ってあげるわよー、はん!」

「おおお、それいいねーー」


 調子にのった勇者たちは、後ろの変化に気づいていない。とても楽しそうに煽ってくる。


「そうかい、じゃあ俺らは邪魔にならないよう上にいるよ。行こうか、心愛さん」


「えっ?」


 心愛さんを抱えて、垂直に切り立つ壁を登っていく。30mはあるだろう、ここなら下からの攻撃は届かない。


「ははは、逃げてもムダだぞ」

「降りてきて土下座しろーーーー!」

「そのオッパイを置いていけ!」


「なあ、俺にかまっていて良いのか? 次のボスがそろそろ出るぞ」


「へっ?」


 部屋の中央地面が光だし、モンスターの頭部が見えてくる。

 姿形こそはコロポックルだが、その大きさが尋常ではない。下手したらオークを超える程だ。


 それにチビでは分からなかったディテールも、大きくなればやけにリアルになる。


 太い髭に鋭い牙、そして刻まれた皺が目立つ。実に恐怖心を駆り立てる風貌だよ。


「ヒィッ、な、なんだこれ。ボスは倒したはずだろ」

「こんなの無理だ、逃げろーーー」

「ドアが開かないよ!」

「か、貸してみろ。……あっ、開かない、なんで、嘘だろーーーーーー!」


 五人は開くはずのない出口に向かいパニックになる。

 実体化がすすむギガントコロポックルを指差し、こちらへ怒鳴ってきた。


「おい忍者、はやくやっつけろ」


「いや、それは無理」


「へっ!」


「だって横取りになるからな。それだとアンタらに悪いだろ」


「ふざけんなーーーーーーー!」

「ばか、大声だすなよ」

「いやー、死にたくなーい」

「だから騒ぐなって。こっちに来るじゃないか!」


 準備ができていくギガントコロポックルが、唸り声をあげている。それを心愛さんは心配そうに聞いてきた。


「コテツさん、あれって本物なの?」


「ああ、ここは中ボスが二体出てくるんだよ。だからEランクの腕試しに人気でね、ここを超えればDランクも近いって言われているんだ」


「それだとマズいわ。みんな死んじゃうよ」


 心愛さんは巻き込まれても尚、相手を気遣っている。その優しさに笑顔でこたえる。


「その点は安心して。あらかじめ影分身を忍ばせてあるからね。E級ごときに遅れらとらないよ」


「そ、そうなんだ、良かったわ」


 聞いているこっちの心が洗われる。それに比べて五人のヒドイこと。我先にと、押し合いへし合いし自分だけ助かろうとしている。ここらで助け船をだすか。


「なあ勇者、助けようか?」


「当たり前だろ、早くしろよ」


「じゃあ確認なんだけど、さっきのは俺が横取りしたの?」


「えっ?」


「助けたのに、また言われるのは勘弁してもらいたいんだよ。で、どうなの?」


「あ、あれは俺たちの勘違いだ。権利は忍者のだよ。なっ、みんなそうだよな」

「うんうん、そうだよ。だから早くしろよ!」


「ふーん、あとギャルの撮った映像も渡してもらおうか。下手に加工されても嫌だしね」


 一瞬ためらったが、コロポックルの太い唸り声にビビり差し出してきた。

 データ送信が終わったと同時に、ギガントコロポックルが動き出す。勇者たちは泣きさけぶが、俺にとったらなんて事のない存在だ。


「E級って激弱だったよなあ、これは火力調整がいるか。じゃあ、弱めで火遁術かとんじゅつ・とろ


 魔力をおさえ、豆粒大の炎をとばす。

 敵に着弾した瞬間に、業火となって燃え広がる。だいぶ威力を抑えたつもりなのに、あれほどの巨体が真っ黒こげの炭になってしまった。


 激しい熱気にあてられたか、五人は目を見開きへたりこんでいる。さっきまでの騒がしさは何処どこにもない。


「これで討伐は終了だな。っと、心愛さんどうしたの?」


「……わ、わ、わ」


 心愛さんまでも放心していて、涙までうかべている。刺激がだいぶ強かったようだ。


 無理もないか、一般人にとってダンジョンとは戦場と同じだ。

 縁の遠いもので日常とはかけ離れている。特に剣、血、死が身近で、受け入れられないのも納得できるよ。


 ダンジョンデートだなんて浮かれていたが、心愛さんとの仲もどうやら可能性はなさそうだ。


「コ、コテツさん」


 そう考えていると心愛さんは、勇者たちよりもいち早く持ち直した。


「私をコテツさんの……」


「えっ、は、はい」


 さようならを覚悟する。


「コテツさんの……弟子にしてください」


「はい?」


 心愛さんからの意外なお願いに、今度は俺のほうが放心させられた。




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