第8話 横取り疑惑

 心愛さんと二人で俺たちは、目当ての素材のため三階を目指している。


 そこはコロポックルのたまり場で、その影響から土属性のアイテムがとれるのだ。


 そしてそこの良い所は遠いこと。その分心愛さんと話せる時間があるということだ。


 ダンジョンのせいだろうか、いつもなら聞けない踏み込んだ話題をふってみた。


「でも心愛さん、合コンが無くなったけど良かったの?」


「もちろんです。ダンジョンでコンパなんて浮わついていますしね。それと知らずに連れてこられたから、正直にいえば嫌だったんです」


 あぶら汗をかいてでも聞いた甲斐があったよ。彼女は無罪だ、悪くない。

 これで合点がいった。でなきゃ2度も同じ過ちを繰り返さないか。命をかけてまでやる事じゃない。


「でもコテツさんといると不思議ですね。危険なダンジョンでも、こうやって楽しくおしゃべりが出来ますもの。自然と守られているみたいで安心できます」


「こ、光栄です」


 俺としても楽しい時間を、モンスターなんかに中断されたくはない。でも空気を読まないモンスターは、構わず次々と寄ってくる。


 かといって、それを討ち果たすのもダメだ。高ランクの俺が低級ダンジョンで暴れたら、みんなの獲物がなくなってしまう。

 荒らしほど嫌われる連中はいないからな。


 そんな事故がおきないよう殺気オーラを全開にして、敵を近づけさせない。これが一番の対策だ。


 と自分に言い訳をするけども、本音はおしゃべりを楽しみたいだけだ。


 そう、楽しいおしゃべりを……あ、あれ。

 待てよ、これってもしかしたら、ダンジョンでデートしていないか?


 ……完全にそうだよ。

 コンパで知り合った女の子と、おしゃべりしながら歩いている。このシチュエーションはデートだよ。


 2回もピンチを救ったし、そのうえ俺といると安心だなんて言っている。

 何気ないけど散歩って、嫌いな男とはしない。むしろ好意があるかもだ。


 そう考えると、急に喉がかわいてきた。奥がへばりついて上手く話せない。ヤバいとポーションを水代わりに飲む。


 地に足のつかない俺とは対照的に、心愛さんはダンジョンを楽しんでいる。アレコレ見つけては、教えてとせがんでくる。


「コテツさん、あの部屋ってもしかしてボス部屋ですか?」


「いや、途中だから中ボスって所だよ。でね、ここのは特徴があって、ちょっとした名物になっているんだ」


「へえー、物知りなんですねえ」


「それほどでもないよーー」


 さ、最高だよ。心愛さんとの楽しい会話で、俺の全てが満たされる。

 心愛さんはいまも中にいるコロポックルを見て、かわいいとはしゃいでいる。

 その反応の方が可愛いよと教えてあげたい。でもニヤケがバレないようしなくては。


「かわいい、触りたいなあ。でも入っちゃダメなんですよね?」


「ああ、倒すとリポップに時間がかかるからね。でも倒さないと出られないし、他人に迷惑をかける事になるんだよ」


「そっかー、コテツさんって強いんですね。倒せる前提なのがカッコいいです」


「お、おう」


 ダンジョンの入り口で、倒すぞって意気込んでいるパーティがいた。

 このコロポックル戦には仕掛けがある。それを超えてこそ、次にいける目安になるんだ。


 その為に、ここのラスボスは倒されずにいるダンジョンなんだ。

 そんな話にも耳を傾けてくるので、つい説明に力がはいる。


「っと、その獲物おれらが貰ったーーーーーーーーーーーーー!」


 心愛さんの横顔に見とれていて、人が来るのに気づかなかった。入り口の俺を押しのけて、男女五人が突入した。


「きゃっ」


「こ、心愛さん!」


 まずい、心愛さんが押されて中に入ってしまった。すぐにボス戦がはじまってしまう。


「へっへー、獲物とられてバカみてーー」


 笑っていたのは勇者パーティとA子たちだ。心愛さんが巻き込まれて入ったのは偶然ではなさそうだ。


「忍者の間抜けヅラさいこ~。A子ちゃん、いまのはちゃんとカメラで撮れている?」


「バッチリよ、ポカーンって超笑えるの。バズるの確定だわ」


 A子が持っているのは、ダンジョン用のカメラだな。それを呑気にふりかざしている。


「心愛さん、早く出て。ボスが動く前ならまだ間に合う」


「おっと心愛ちゃん、どこ行くの~。特等席で俺の活躍を見ててよねえ」


 勇者は心愛さんの腕をとって引き寄せる。あと数秒、これでは全員を助けられない。


 仕方ない、俺はボス部屋へ飛び込んだ。


「忍者め、俺らの邪魔をする気だな」


「ボスが動き出す。よそ見をしていると殺られるぞ」


「ふん、余計なお節介だ。こんなチビなんて一撃で終わりだよ」


 小さくてデフォルメされた体のコロポックルを完全に舐めてかかっている。

 勇者ら三人はそれぞれスキルの準備をしている。開幕ぶっ破で殺るつもりだ。


 しかし。


「ぎゃーーーーーーー!」

「えっ、えっ、えっ。なんで効かないの、嘘だろ」

「む、無理だ。勝てねえーーーー」


 予想通りの結果である。


 勝てる処か、コロポックルに傷ひとつをつけることもなく、反対に鼻息だけで蹴散らされている。

 それを想像できなかった彼らは、パニックをおこし怯えるだけだ。


「仕方がない、代わってやるか」


 通り抜けざまにコロポックルを真っ二つにする。


 E級ごときに刀を使うまでもないんだけど、素手だと下手したら衝撃で肉体が爆発してしまう。肉や血が飛び散るのは、レベル差があると起こってしまうのだ。


 だけどそれはさすがに見せられない。

 只でさえ怯えた人たちに、そんなグロいのを見せてしまったら一生物のトラウマだ。


 だから、早くてショックの少ない方法を選んだのだ。


 それでも腰を抜かした勇者たち三人は、ほうけて俺を指差している。

 ガタガタ震えているのに、動きがシンクロしたいるよ。


 そして何故かゆがんだ笑いを、みんな同じように浮かべてきた。


「「「よ、よ、よ、横取りだーーーー!」」」


 一斉に同じ言葉で責めてきた。期待した真逆の言葉に戸惑ってしまうよ。

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