第7話 ざまぁとさようなら
五人の入場を阻止すると、勇者パーティから一斉にキレられた。特に勇者が一番怒っていて、俺の胸をコツいてくる。
「モテない男のヒ、ガ、ミ。そんな妨害をして楽しいのかよ。俺だったら恥ずかしくて死ぬね」
「三郎くん、そんな生意気な忍者はボコッたら? 自分の立場を分からせてやるべきよ」
「A子ちゃんとは気が合うわ~。俺もそう思ってたところだよ。ということで、インチキ忍者は死んどけや、おりゃ!」
繰り出されるパンチをよける。
この手合いは避けるとキレてくるが、当たると調子に乗って際限がなくなる。
ヘタに反撃すれば怪我ではすまないし、どうにも扱いづらいタイプだよ。
「いや、自殺志願者は別にして、知り合いが危険な目に合うの見過ごせないよ。それに心愛さんは嫌がってるぞ」
今の動きで確信したが、彼らに格上のダンジョンは手におえない。
しかも素人の女の子を連れていくだなんて、集団自殺以外のなにものでもない。
ごくごく当たり前の事ではあるが、彼らは忘れているようだ。
ランクの壁はそう簡単には越えられない。冒険者ならみんな知っている常識だ。
「ぷぷぷー、さすがくずジョブ。思い込みが激しくて笑えるわ」
「えっ?」
「お前、自分がモテると思ってるだろ。でも残念だが雑魚は雑魚。ヒーロージョブにはなれねえよ。それに女の子はみんな、勇者である俺といるのが幸せなんだ」
「ダメだ、こりゃ」
この勇者はジョブの価値に酔っている。
FランクはFランク、それ以上でもそれ以下でもない。
もし仮に彼が言う秘めた力があるならば、ギルドがとっくに認めている。Eランクどころかもっと上になっているだろう。
つまり現時点でFランクなら、彼らの実力はF相当でしかない。それを彼らに伝えても、素直に受け入れないだろうな。
「いいか、忍者。今回の目玉は、ここのボスを燃料にしてのBBQなんだ。どうだ、こんなワクワクするコンパを、心愛ちゃんが嫌がる訳がない。その貧相な感性でものごとを決めるんじゃねえよ!」
この勇者の戯言に、周りで聞いていた野次馬たちがざわつき出す。何人かが勇者に食ってかかった。
「おい兄ちゃん、ここは攻略禁止のダンジョンだぞ。ジョーダンでも滅多な事をいうもんじゃねえ」
「ぷっ、誰が決めたか知らねえが、とんだ馬鹿げたルールだぜ。ていうか、それに縛られないのが英雄たる勇者だ。どちらにしろ、おっさんたちは黙ってな!」
「なんだと、ボウズが!」
今のはマズイひと言だ。
駆け出しのルーキーが、大勢の先輩たちにケンカを売った。
跳ね返す力があるなら良いのだが、勇者は未熟なFランク。
それが余計に癪にさわったようで全員がブチ切れ、武器に手をかけた。
いや、何人かは勇者たちの服や髪の毛をすでに切っている。血の気が多いにも程がある、
「いーーーーーーーーーっ!」
ここでようやく事の重大さに気づく勇者たち。
数十人から殺意を向けられ、言葉すら出てこない。
事を大きくしても仕方ないので割ってはいる。
「まー待てよ。アンタ達も他人のケンカに入ってくるなよ。それに今ので勇者たちも分かっただろうし、これでおしまい、退いてくれ」
「チッ、命拾いしたな、ボウズども。その人に感謝しろよ」
四方から押し潰される程に睨まれて、うなずくしか出来ていない。
トドメが効いたようで五人とも意気消沈だ。納得はしていないだろうが、それでもいい。
「心愛さん、こっちに来て。家まで送るよ」
「あっ、は、はい」
手を差し出すと取ってきた。勢いでやってしまったが、ちょっと気恥ずかしい。
「ちょっと心愛、アンタ何裏切ってんのよ。舐めたマネしてっと、あんたの母親はクビだかんね!」
このギャルだけは例外か。かなり元気にわめいている。
ただ彼女らの関係性は、見ていてあまり面白いものではない。手出しをするべき事ではないけど、何とかしたい想いはある。
「今すぐこっちに戻ってきな。でないと、お仕置きが待ってるかんね」
鼻息が荒く紅潮していくギャルに対して、心愛さんはえらく静かだ。
そしてゆっくりと頭をさげた。
「A子さん、ごめんなさい」
「ふん、今さら謝っても遅いわよ。さあーてどんなお仕置きにしようかしら」
「ううん、そうじゃないの。私は貴女とはもうお友達を続けていけないの」
「えっ!」
A子だけでなく俺も驚かされた。気の弱そうな心愛さんが、実に堂々としているよ。
「こ、こ、心愛、勝手なことをいうな。でないと母親はクビよ」
「うん、母さんに全部話したら良いよって言ってくれたの」
「ど、どういうことよ?」
「クビになるなら仕方ないって。でもそんないい加減な仕事はしていないから、私の思う通りにやりなさいって応援してくれたのよ。だからね、今までありがとう。わたし自分なりに頑張ってみる、じゃあね」
別れの挨拶を終わらせた心愛さんが、振り返らずにこっちにくる。『いいのかよ』なんて野暮なことは聞かない。笑顔で迎えるのみだ。
「すまない、頼まれた採取があるんだ。送るのはその後でもいい?」
「ええ、もちろんです」
呆ける五人を残し、俺らはダンジョンへ入った。
◇◇◇◇◇
~勇者サブロウ視点
クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソーーーー!
何なんだアイツ、おれの獲物をとりやがった。忍者め絶対に許さねえ。
あの子に近づくためA子を利用したのに、全てが台無しになった。
俺がどんな想いで、A子に取り入ったことか。好みでもないのにカワイイと連呼したり、馬鹿なのに無理やり誉めたりと、ガマンの連続だったんだ。
その努力でやっとこぎ着けた合コンだ。
心愛ちゃんにオレの戦っている姿をみせつけて、心底惚れさせようとした計画は完ぺきだった。
なにせワンランク上のE級ダンジョンだ。これを攻略するには、勇者の俺でなければ不可能だ。
世間の常識をくつがえしてこそ勇者、それを知らしめるつもりだったんだ。
なのに、何が自殺志願者だ。何が送るよだ。
心愛ちゃんをモノにするだけじゃ気がすまない。あの娘の前で忍者に赤っ恥をかかせて泣かせてやる。
そのためには計画と協力が必要だ。幸いヤツに怒る仲間がいる。ちょっと耳元でささやけばいいだけさ。
「みんな、悔しいよな。不甲斐ない勇者でゴメン」
「いや、三郎は悪くない。忍者が理不尽なだけだ」
「そうよ、友達との仲をさくし、楽しい合コンも台無しだもん。アイツは悪魔、誰かに討伐されればいいのに!」
「ああ、俺も同じ想いさ。このままじゃあ引き下がれないよな」
「えっ、何かアイデアがあるの?」
A子だけでなく全員が食いついてきた。ここまで来ればあとは楽だ。
「簡単だよ、ヤツの獲物を奪えばいい。無理だと決めつけたのに、目の前でサクッと倒されたらヤツの面子は丸つぶれだよ」
「おおお、いい。さすがは勇者だわ、どう謝ってくるか楽しみね」
ラストアタックは決めるとして、その時の
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