第6話 勇者とコンパ

 ゼニゲバ商会は俺もたまに使っている。値段は高い代わりに品数があり、困った時にはありがたいお店だ。


 ギャルの親とか言っていたし、一応ギルドには事情を説明しておいた。

 職員さんは災難でしたねと苦笑い。まあ、これ以上広がることはないだろう。


 それと今日は友達の山ちゃんに頼まれて、素材を集めにE級ダンジョンへと来ている。


 ここのが特殊なため、本ボスの討伐禁止令が出ているダンジョンだ。

 そのおかげで錬金術に使う素材を、安定して取りに来れる。俺にしたらとても有難い場所なのだ。


「あーーーっ、忍者だ。またストーカーって、アンタ本当に変態ね!」


 聞いたことのあるキンキン声がする。

 振り向くとギャル二人と、心愛ここあさんとが立っていた。


「こ、心愛さん、こんな所で何をされているんですか?」


「コテツさーん、助けて下さい。またダンジョンに行く話になっているんですよー」


「えー、またーーーーー?」


「こらっ、ウチの事を無視すんなーーーー!」


 あきれてギャルを見ると、文句あるのかと睨んでくる。

 あれだけ怖い目にあったのににだ。

 ただ懲りていないというよりは、何やら自信ありげな表情だ。


「ウチらこれから大事な合コンなの。インチキ忍者はお呼びじゃないのよねえ」


「えっ、コ、コンパ?」


「そ、ダンジョンコンパ。相手は売り出し中の勇者パーティよ。ほら、噂をすれば来たわ」


「イエーイ、A子ちゃ~んお待たせ。今日はいっぱい楽しもうねえ」


 見るとクーラーボックスを肩からさげたチャラけた三人組が近づいてくる。

 初期装備で身をかため、見えるギルドプレートもFランクの木目調だ。

 冒険者を始めたばかりの人達だ。


 そんな彼らが俺を一瞥して鼻で笑う。


「なになに~A子ちゃん。もしかして、からまれてるの? 勇者の俺が追い払おうか?」


「うん、三郎くんお願~い。こいつ本当にしつこいのよ」


 勇者はギャルに抱きつかれ、鼻の下を伸ばしながらイキッてくる。


「ふーん、おまえ忍者だな。くずジョブのくせに俺らに張り合おうとするな。見ていてこっちが恥ずかしくなるぜ」


「えっ、なにが?」


「だって忍者ってさ、隠れるしか能がないじゃんか。それに比べて俺たちは勇者に賢者と聖剣だぜ。そんなスター軍団の前で、女の子を口説こうだなんて笑えるわ。負け確定なのに、はしゃぐなよ!」


 この勇者くん、まるでミュージカルのように踊りながら喋ってくるよ。

 どこが良いのか分からないけど、ギャルたちはそれを見て大興奮しているな。

 かたや心愛さんを見ると、困り顔で首を横にふっている。


 よかった、変だと思ったのは俺だけじゃない。


「そ、それよりもさ、ダンジョンコンパって何。まさか中でやるんじゃないよな?」


「なになに~興味あるの? 勇者のこの俺が考えた画期的なコンパに参加したいってこと? でも残念ーーーー、君は参加できませ~ん。その理由は知り合いじゃないからとか~、メンツが足りているとかではないよ~。答えはかんたん、君がくずジョブの忍者だからだ。皆が憧れるヒーロージョブじゃないからさ。あー、かわいそう、かわいそう。くずジョブに生まれてかわいそう~」


 ジョブとはいわば天からの授かり物で、全員が得られるものじゃない。

 しかも運良く授かったとしたも、好きなのを選べる訳でなくランダムで決まる。

 それまでの経験や素質が影響するって話もあるが、実際のところよく分かっていない。


 その点でいくと俺はツイている。望んだジョブだなんて、他では聞いたことがない。


 彼らスター三人も俺同様にツイている。浮かれるのも分かるよ。

 ただし、あくまでもジョブは素質だ。神になった訳じゃないんだよなぁ。大丈夫だろうか、この人たち。


「いや、そうじゃなくてさ。ダンジョンでコンパって危ないだろ。悪いことは言わない、やめておきなよ」


「ぷぷぷー、危ないって勇者パーティに対してそれを言う? 君って自分にだけじゃなく、人への評価もできないんだね」


「そうよ、勇者の三郎くんがいれば安心なの。インチキ忍者とは比べ物にならないわよ」


「A子ちゃん、嬉しいことを言ってくれるねえ。お礼に何かアイテムドロップしたら、君にプレゼントをするよ」


「きゃーーーーーーーーー!」


 なんとも現実味のない話をしている。

 コンパが待ち遠しいのか、もう俺の姿が映っていないようだ。そのままダンジョンに入ろうとしている。


 俺は慌てて五人の前に出て、両手を広げ彼らを止めた。


「ちょっと待て。行くのはいいが、心愛さんは俺が引き取る。君らだけでダンジョンコンパとやらを楽しんできな」


「なんだとクソ忍者、モテないからって頭がおかしくなったのか? しつこいと余計にモテないぜ」

「英雄きどりってウケる~。本物を前にしてよく出来るよなあ」

「おれ限界だわ。忍者ボコッてさっさと行こうぜ」


 勇者パーティから、まるで敵を見るかのように睨まれている。

 ここまで話が通じないのは初めてだ。ごね方もスター級と言うしかないな。

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