第5話 ギルドでの出来事 ②

 S級ダンジョンの攻略から6日がたった。

 しかし未だに踏破者からの連絡はない。


 ギルドマスター室には、プレッシャーで押し潰されたギルマスと丸山だけがいた。


 他の者は交代で休みをとっているが、この二人は意固地いこじになってここを離れないのだ。


「ギルマス、探索チームからの報告は信じられませんねえ。ボス部屋にもいないなんて、彼らはどこにいるのでしょう」


「ええ、てっきり動けずにいるかと思いましたがね。これはいよいよ打つ手が無くなりましたよ」


「ですね、はあーーーー」


 深いため息に苦悶と悲しみが入り交じる。


 ダンジョンの所有権とは別にして、モンスター討伐には何の規制はかからない。

 それを盾にしてギルドは、中の様子を調べることにした。


 そしてすぐ一階層の報告が届き驚かされる。

 動いているモンスターがもいなかったのだ。全て倒され魔石がはぎ取られている。


 階層が深くなればモンスターは強くなるが、浅い階層のが弱い訳ではない。なのに全滅させている。見てきた冒険者でさえ、信じられないと笑いながら熱弁していた。


「モンスターの同士討ちではなく、やはり冒険者によるものでしたね」


「ええ、かなり力のあるチームなのは確かですよ」


 死骸から読みとれるトドメの様子も報告に挙がっている。


 一太刀で首をはねたものや、丸焦げで四肢がないもの、はたまた全身穴だらけと様々だ。バランスのとれたチームであるが、それをやり遂げるのに該当する者たちがいない。


 その強者たちが起こした奇跡は一階層だけではない。全階層でやってのけていた。これには探索チームも驚いている。


 倒れているのはデーモン族や上位精霊である。もし出くわしたら、即死は確実の相手ばかり。それと戦わなくて済むのだから、探索はスムーズに進んでいった。


 そのおかげで今朝、43階の最下層にたどり着いたのだ。

 A級ダンジョンよりも浅い階層で拍子抜けだが、それは階数のみのこと。

 解除された凶悪な罠の数々やモンスターを考えれば、奇跡としか言いようがない。


 そしてボス部屋にあったのは、貴族級デーモンの死骸。角やら目玉など使える素材と魔石は取られており、冒険者の姿はどこにもなかった。


 冒険者たちは生きている。


 決定的なのは外部への転位装置を使った形跡があった。無事に外に出たのは確実だ。中で得た大量の魔石と共に。


「貴族級デーモンですか。どんな魔石なんでしょうねえ?」


「ええ、それは全世界が知りたがっていますよ。それよりも丸山さん、売られた様子はないんですよね?」


「はい、オークションにも出品されていません。残る可能性としたら外国勢力の介入とか」


「うーむ、S級はそれぞれの自国にあるのにわざわざ来ますかねえ? それに魔法先進国の我が日本を敵にまわすのも考えにくいですな」


「いや、逆に中国やアメリカならあり得るかと。かつての大国が覇権をと企んだのかもしれませんよ」


「それこそ憶測です。疑う範囲を広げたらキリがありませんよ?」


「そうですかねえ」


 実際にアメリカからは幾度となく協力要請がきている。

 アメリカの懐事情を知れば納得ではある。


 不思議なことにダンジョン発生前、レアメタルやエネルギー資源が多くあった国や、国土が広いほどダンジョンの恩恵が少ない。

 数が少なかったり、あっても質が低かったりと格差ができている。


 そのまま前の資源を使えばよいのだが、新たに出た物の方が良すぎた。前文明は太刀打ちできず、あっという間にすたれていったのだ。


 その点、日本はバランスがよく、冒険者は育ち魔法技術も発展している。世界がうらやむ成功例だ。


長田おさだギルドマスターはいるか?」


 ノックもなしに乗り込んできたのは、ゼニゲバ商店の大河内社長である。

 すでに顔を赤らめており、ギルマスを見下ろしまくし立てはじめた。


「一体いつになったら採掘を始めるのだ。これでは経済に悪影響をおよぼすぞ。いいか、原価だけでも飛び交う銭は、1日で億を超えるのだ。株価やその他への経済効果となればその数倍。我われ上級国民の予定を崩す事は許さんぞ!」


「そう言われましても踏破者と連絡がつきません。彼らの権利をないがしろにはできませんよ」


「何を弱気なことを。奴らなど学のない肉体労働者だろ。少し小難しい事を言ってやればクチをつぐむ。それすら分からないとは大丈夫か?」


「ははっ、言葉がすぎますよ。まずは正式な謝罪を求めますね」


「しゃ、謝罪だと? この一大事に訳の分からん。そんな事より……」


「いいえ、私は体を張っている者達の代表者です。彼らを馬鹿にされて黙っているはずないですよ。それともギルドと事を構えますか?」


「な、なんと無礼な!」


 ギルマスからの反抗を、この社長は犯罪レベルの理不尽な要求だと怒っている。

 故にその反乱をぶっ潰すのが当然であると吠えるのだ。


「貴様、ワシが誰かどれだけ偉いか分からんのか。ワシがNOのいえば、お前のクビなど簡単にとばせるのだぞ!」


「はあ、そうでしたか」


「ぐわははは、今さら謝っても許さんからな。お前に出来ることはただ一つ。今すぐ採掘をはじめ、わが社にすべての素材を卸すのだ」


 良くない噂をきくゼニゲバ冒険者商会ではあるが、その規模は国内屈指の大きさだ。

 経済界のみならず、政界ともつながりがある。クビとはいかなくても、圧力をかけてくるのは容易たやすい。

 度々ギルドでも見かけるし、好かれてはいないが重鎮であるのは間違いない。


「ではギルドして正式に返答させていただきますね。それはできませんのでお帰りください」


「な、な、なんだと。そんなワガママが通じるとでも思っておるのか!」


「ワガママかどうかは知りませんが、一刻も早く進むように私達は動いております。それまでご辛抱ください。では忙しいのでさようなら」


「ま、待て。話はまだ終わってはおらん」


「おーい警備員さーん、侵入者さんがお帰りですよぅ。出口までご案内してくださいね」


 抵抗する社長を屈強な男たちが取り囲む。沈黙のあと、毒を吐いて出ていった。


「くそー、覚えておれよ。我が一族を敵に回したことを、かならずや後悔させてやるからな!」


 わめき散らす声がいつまでも届くが、それを無視して二人はまた打ち合わせを再開させるのであった。

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