第4話 心愛さんを中心に

「もう心配ないですよ。モンスターは全て倒しましたから」


「う、うわーーーーーーん」


 すがってくる彼女の頭を、ぎこちなく撫でておく。

 次第に力も抜けて、呼吸が穏やかになってきた、ふぅ~。


「あ、ありがとうございます。……おかげで助かりました」


 しばらくすると、消えそうな声で礼を言ってきた。温かいお茶とティッシュを差し出すと、コクンとうなずきうけとり、ため息をつきほうけている。


 友達に置き去りにされ、異形の魔物に囲まれたんだ。

 絶体絶命、まるで合コンでの俺のようだ。その気持ちは痛いほど分かるよ。


「あれは無いよなあ。いくら友達でも一人で逃げるのは良くないよ」


「そ、そうだ。A子さん大丈夫かな。わたし探しに行ってきます」


「まあ待ってよ、落ち着いて。それなら俺もついていくからさ」


 彼女の行動には驚かされた。

 おぼつかない足取りなのに、それでも行こうとしている。


 しかし心愛さんだけでは無理がある。彼女もそれを思い出し、ペコリと頭を下げてくる。


 とはいえ、そんなに慌てなくていい。

 ギャルが逃げたこの先は、ボス部屋までの一本道だ。

 その区間ではモンスターは湧かないので、危険などあるはずないんだ。


 いくら高飛車ギャルとはいえ、一人で放置は可哀想だ。

 それに帰り道で敵に遭遇するから、連れて帰らないといけないよ。


「何から何までありがとうございます。やっぱりコテツさんは頼りになりますね」


「いや、経験あるだけですから」


 そろそろ迎えにいこうと歩きだす。

 一応安全のため、横に並んでもらっているのだが、俺はあることに気がついてしまった。


「……あれっ、これってもしかして?」


 いま俺は女の子と一緒に歩いているよ。俺の人生で初めての経験だ。

 しかも通路が狭いから、時たま肩が触れている。


 汗ばむ手、早まる鼓動。合コンにはなかった緊張感だ。ヤバイです、沈黙が耐えられないよ。


 どう乗り切るかと悩んでいると、奥から悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃーーーー、グロモンスターこっち来るなーーー!」


「あの声はAエイ子さんだわ」


「嘘だろ。ゴメン、失礼するよ」


「きゃっ!」


 道中に魔物が湧くことはないのだから、この悲鳴の意味する事に慌ててしまう。

 この子を一人には出来ないので、お姫様抱っこをしてダッシュする。


 心配していた通りにギャルは、ボス部屋へと入り込みホブゴブリンをあおっていた。


「このブス緑、こっちに来るなって。匂いがうつる、臭いんだよー!」


「グボーーーーーーーッ!」


 ホブゴブリンがギャルと近すぎる。全力でいけば、ギャルを巻き込んでしまう位置取りだ。


 だいぶ手加減をしての体当たりで、ホブゴブリンをふき飛ばす。

 案の定ホブゴブリンは生きているが、両者を離すのに成功した。

 あとは一撃をいれるだけで終わりだな。


 そう体を沈ませ構えた瞬間、不意に後ろから肩を掴まれた。


「ちょっと忍者、またウチをはめたわね。絶対に許さないんだからーーー!」


「へっ、ちょい待って。意味が分からないんだけどさ」


「あー、そうやって逃げる気ね。ウチを危機に追いやって目的は何よ? 金それとも体? おあいにく様、ウチのパパはあの『ゼニゲバ商会』の社長よ。変な気をおこしたら、アンタの人生終わりだかんね!」


 近くで怒鳴られ耳鳴りがする。

 状態異常耐性を上げているのに、この威力には驚いた。


 それといわれのない話に混乱してしまう。そんな素振りを見せただろうか。

 心当たりはなく心愛さんの方を見ると、手を合わせ無言で俺に謝っていた。


「……そういうことね」


 そのつぶやきを見て更に謝ってくるのを笑顔で返しておき、ホブゴブリンを倒しておいた。


 危機を脱したのを悟ったギャルは、ますます騒ぎなじってくる。


「このマッチポンプのエロ忍者。どうせそのモンスターもアンタとグルなんでしょ。馬鹿のクセにエロい事にだけは知恵がまわるのね。本当にキモいわ、こっちを見るな!」


 ギャルからの評価がどんどんと下がっていく。

 これは想定通りの反応だから別に驚いたりはしない。

 ただやめて欲しいのは、礼を言ってくる心愛さんを止めている事だ。


「心愛、なにボーッとしてんのよ。アンタも何か言ってやんなよ」


「でもコテツさんは助けてくれたんだよ?」


「あきれた子。すっかり騙されて、天然にも程があるわよ。いい、こいつはウチらの後をつけてきて、合コンの仕返しをしようとしてたのよ。でー、あわよくば美味しい想いをって計画してたのよ。ホント最低の人間よ!」


「でも、トレインはA子さんが原因だよ?」


「忍者ー、アンタのせいでウチの友達が変になったじゃないのよ! この事をギルドへ報告するからね。覚悟してなさいよ」


 ボス部屋とはいえ、こんなに大きな声を出したらモンスターが寄ってくる。耳鳴りは続くし勘弁してもらいたい。


「あのさ、俺が悪いってのはいいよ。助けられたって感じないんだから仕方ないし。でもさ、友達を囮にしちゃダメだよ。あれって普通に犯罪だぜ」


「そ、そんなの言いがかりよ」


 俺の指摘にかなり焦り、口をパクパクさせている。

 また騒がれても困るので、反論できないよう畳み掛けておく。


「いや、さっきの事を俺が証言したら、かなり重い刑になるよ。ダンジョン法は厳しいぞ?」


「コ、コテツさん、私としては訴えるつもりはないんです」


「だとよ、優しい友達で良かったな。感謝して大事にするんだぞ」


 親同士の関係があるみたいで、心愛さんは諦め顔になっている。俺としても深く踏み込めず、了承したと肩をすくめる。


 ギャルには良い薬になったようで、プルプルと震えているよ。ちょっと効きすぎたかな。


「うるせえーー、この陰キャ野郎ーー!」


「うおっ!」


「黙ってたらいい気になって。ウチはそんな事をしてないもん。嘘をつくな、このインチキ忍者!」


「いや、そりゃ無理があるだろ」


「あーーー腹が立つ。何がダンジョンよ、何が忍者よ、クソッタレ。こんな所来るんじゃなかったわ。心愛、行くよ!」


「えっ、う、うん。コテツさんすみません。それと本当にありがとうございました」


 心愛さんのギャルとは正反対な素直さに、俺の方がぎこちなくなってしまう。

 変な手の振り方をして二人を見送った。


 が、すぐに考え直す。


 帰り道には危険がいっぱいだ。隠密をつかってサポートをしておく。

 もし見つかっても、ギャルに難癖付けられればいいだけさ。心愛さんに何かあるよりかはマシだからな。




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