第3話 トレインA子 大ピンチ

 モテるとは、いと難しきことなり。ため息しか出てこない。


 あれから数日の間は脱け殻だった。

 なーんにもする気が起こらず、ベッドの中でダラダラと。


 長年合コンのためだけに修行を積んできたぜ。

 でも結果があれじゃあね。思い出す度に悶絶するし、黒すぎて封印しても、なんだかにじみ出てきそうだ。


 だけど落ち込んでばかりはいられない。

 今日はギルドからの定期依頼で、低級ダンジョンを潰さなくちゃいけないんだよ。


 ダンジョンってのは不思議なものだ。

 モンスターが外に出てくる事はないが、低級ダンジョンほどよく発生する。


 放っておけば、ニキビのように次々と出てくるし、見た目が悪く邪魔である。


 なのに低級ダンジョンは旨味が少ない。だから攻略する人が少なくて、増える一方なんだ。

 おかげで俺らBランク以上の冒険者には、その破壊の依頼がくる。


 一種のボランティアみたいなもので、今の俺には動く切っ掛けになってくれた。


 Ψ Ψ


 ダンジョンに到着すると人がいた。

 取り壊し予定を配信していたはずなのに。

 その旨を伝えようと近づくと、彼らの会話が聞こえてくる。


「A子さん、本当に入るんですか。私たちだけじゃあ危ないですよー」


「心愛ったらビビりすぎー。っていうか合コンのために少しでもネタを仕入れないといけないんだから、今さらビビりはマジ勘弁してよ」


 合コンで会った女の子たちだ。

 気絶しそうなのをこらえ、すかさず隠遁いんとんの術を発動させて姿を隠す。


「この前の忍者のネタだけじゃインパクトなかったしね。っていうかアレの顔も忘れたわ」


「そうですかね、真面目な方でしたし私は楽しかったですよ」


「馬鹿ねえ、だから心愛は男にモテないのよ。まあ、アンタみたいな低レベルの女には、あれ位がお似合いかもねー」


 気づかれそうで怖くて動けない。

 逃げるタイミングをうかがっていると、二人の装備が気になった。


 遊びついでなのか普段着だ。

 ギャルのA子に関しては、ミニスカートにハイヒール。とても狩りをする格好ではない。


「しかも棒キレかよ。……仕方ない、様子を見るか」


 怪我をしたら可哀想だし、姿を消したまま二人の後をつけることにした。


 二人は中に入ると、萎縮するどころか迷いもなく奥へ奥へと進んでいく。

 運が良いのか悪いのか、一度も敵と遭遇していない。もしかしたら熟練者なのかも知れないな。


「ダンジョン楽勝~。うちら最強じゃね?」


「A子さん、そろそろ帰りましょうよ」


「ビビんなって。初挑戦で初踏破目指すわよ、それーーー!」


「待ってくださいよーーーー」


 ルートの選択がめちゃくちゃだ。地図はおろか探索すらせずに決めている。本当にラッキーだけで進んでいるようだ。


 現に二人が立ち去ったその場には、入れ違いでスライム等がやってくる。

 ギャルの自由さが功を奏しているが、帰りが心配なので倒しておく。


 だけどその好運も最後までは続かず、悪い方へと傾きはじめた。


 現れたのは素人には難しい獣型のマッドドッグだ。素早くてフェイントをかけてくるから、初見だとなかなか厄介なモンスターである。


「あっ、見つけた~。ほら、あっちにも」


「危ないですよ、ここは一旦逃げましょう」


「なーに言ってんの、おいしいネタじゃん。そうだ、アレやろか。何体も連れまわすトレインってやつ。一度やってみたかったんだよねえ」


 心愛さんと同様に俺もその言葉に固まった。悲惨な未来しか想像できない。


 ギャルは返答を待たずして石を投げ、同時に二体の挑発を成功させた。


「な、な、何をしているんですか!」


「きゃはは、走らないと捕まるよーー」


 止めようとしたが、ギャルの行動は予測不可能だ。

 こちらに来てくれれば助けやすいのに、セオリーを無視して奥へと走っていく。


 しかもいく道の獲物を見つけては次々とタゲをとっているのだ。

 無駄に高い投石術のせいで、すでに10匹をこえている。


 逃げきれればいい。しかし二人の体力の方に限界が来た。息を切らし、スピードが落ちている。


「な、なんかコイツらしつこくね? もういいから来るなって!」


「だから止めようって言ったんですよー。どうするんですか、これ」


 声をかけるなら今しかない。


「二人とも待つんだ、いま助けるからな!」


「えっ、コテツさん? やった、これで助かりますよ」


「うわ、忍者かよ。ウチの事をストーカーしてたでしょ。キモいからこっちに来るな」


「はい?」


「やっぱりだ。この変態忍者め、どさくさに紛れて体を触ろうって魂胆でしょ。変態の考えることなんて、お見通しなんだからね!」


「そんな事をするはずないだろ。いいから止まれ、でないと殺られるぞ」


 俺を見て喜んだ心愛さんとは対照的に、ギャルが悪態をついてくる。顔が見えなくても、表情が想像できる口調だよ。


「A子さん、失礼ですよ」


「心愛こそ何を言ってるの。アイツはコンパでの仕返しをするつもりだよ。下手したら囮にされるかもよ。絶対に騙されるんじゃないよ」


「コテツさんは良い人ですよ。信じないでどうするんですか!」


「じゃあアンタ一人で囮になって、二人で仲良く殺られちゃいな」


 ギャルは心愛さんに足をかけて転ばした。勝ち誇るように見下している。


「な、何を!」


「何をだって? アンタ、自分の立場をまだ分かってない。ウチに何かあったら、アンタの母親なんてクビなのよ。パパが絶対に許さないもの。って事なんで頑張ってね~」


 ギャルはさっきまでの倍のスピードで走り去っていった。

 マッドドッグたちは一瞬戸惑ったが、残された狩りやすい獲物に集中しなおす。

 心愛さんを狙って取り囲んだ。

 それに恐怖し、心愛さんは青ざめている。


「あっ、あっ、あっ……。アレ、風?」


 横一線になぎ払い、囲いの内側へとすべりこむ。全ての敵は討ち取った。


「心愛さん、大丈夫?」


 差し出す俺の手をじっと見つめて、信じられない様子でいる。

 震える体と荒い呼吸で、俺の手をとるのでなく抱きついてきた。

 大胆すぎるその行動に固まってしまう。

 だけどこんなにも頼ってくれているのだ、引き離すことなど出来ないよ。

 


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