第2話 ギルドでの出来事 ①

 ここは日本冒険者ギルド本部。

 ギルドマスター室に、慌てて報告に入る職員の姿があった。


「ギ、ギルマス。つい先ほど新宿にあるS級ダンジョンから、通常ではあり得ない1000万GGPもの魔素が放出されました!」


「丸山さん、それは?」


「はい、ボスが撃破された証です!」


 職員は自分の手柄のように高らかに言いはなつ。

 しかし、ギルマスからは期待していた反応が返ってこない。普段より感情の起伏が少ない男である。丸山はすこし目をほそめ語尾を強める。


「S級の踏破ですよ、ギルマス分かっておられますか?」


 丸山が苛立つのも当然だ。S級踏破は人類の悲願で、夢物語とされていたからだ。


 S級に出没するモンスターの強さは尋常ではなく、トップパーティでも一体を相手にするのが精一杯だ。

 数年前にも名だたる者を集めて、攻略しようと試みた。しかし一階層を確保できるも、その時間はたったの17分。わき出るモンスターに押され撤退した。事実上の失敗である。


 当然世界でも成功例はなく、S級ダンジョン攻略とはそれほど難しいとされている。

 だから、それが何の計画もなく達成されたと聞かされたとしても、ギルマスはもちろん、他の誰も鵜呑みになんて出来ないのだ。


「それは何かの間違いではないですか?」


「いえ、数値は確かです。A級と比べても約一万倍もの値ですし、その後のダンジョン活動の停止も確認されました!」


 端末で確認してもその通りである。動かぬ証拠にギルマスも目を開いている。


「どこのチームがこの偉業を?」


「いえ、まだ連絡はありません。ですがその前に報告をと上がった次第です」


「なるほど、さすがは丸山さんですね」


 喜ばしい事態ではあるが、ギルドとして早急に動かなくてはならない。


「まずは踏破者との契約後すぐ動けるよう、採掘班とアタック班を集めておきしょうか。冒険者ランク100位までのすべての者に召集をかけてください」


「はい、忙しくなりますねえ」


 ボス討伐後、魔力供給を失ったダンジョンは滅びていく。その期間はきっかりと100日間。

 その間に新たなモンスターが湧くことはない。


 つまりここでしか得られない鉱石やアイテムが、安全かつ確実に手に入れる事ができる期間なのだ。


 だが個人でそれら全てをやるには無理がある。単純にマンパワーが足りない。

 その点ギルドには人や資材があり、その代わりができる。そのための機関といっても過言ではない。冒険者とギルドは、持ちつ持たれつの関係である。


 それに新しいアイテムの供給が進めば、世界の魔法技術は進歩する。冒険者にとっても新時代の幕開け、その言葉を胸に行動をはじめた。




 ~そして12時間後、ギルドマスター室は重たい空気に包まれていた。


「丸山さん、名乗り出はまだないのですか?」


「は、はい。何処からも連絡はきておりません」


 ギルマスは焦っていた。


 なぜなら現時点でダンジョンの全ての権利は、その踏破者に移っているからだ。

 モンスターの討伐以外を無許可では行えない。


 中には手つかずの鉱石やアイテムがあるのだが、それを指をくわえているしかないのだ。


 しかも、先走りして関連方面へと知らせてしまい、先方もS級から得られる恩恵に沸き立っている。

 なのに肝心の踏破者との契約がとれないのだ。


「丸山さん、該当しそうなチームに声をかけてくれましたか?」


「はい、主だったのには全てです」


「ギルドにあまり関わろうとしないチームには?」


「はい、ユニコーンヘッドや大島連合とかにもです。遠くにいたり他のダンジョンを攻略中との事です。逆になんのジョーダンかと笑われました」


「そ、そうですか」


 無駄と知りつつも思いつく限りの名を挙げていく。しかし何処もウチではないと返事がかえってくる。

 手づまり状態である。これでは採掘を始められない。

 これは二人だけの問題ではない。リミットとなる100日目は待ってくれないからだ。


「ギルマス、この際ですし事後承諾にして、採掘を始めてはどうでしょうか?」


「それをしたあの国の末路をあなたも知っているでしょ?」


「そ、そうでした。軽率な意見をお許しください」


 海外で同じ事案が発生した。

 現地のギルドと政府はしびれを切らし、本人らの承諾無くはじめてしまったのだ。


 後日それが火種となり踏破者たちと大揉おおもめとなった。


 それが所属する全冒険者とギルドの対立にまで発展し、最後は大勢の人材が国外へと流れていったのだ。

 これはつい10年前の出来事である。


「でもどうしましょう。集まったメンバーが指示を待っていますよ」


「待つのです」


「えっ、待つとはいつまでですか?」


「踏破者が見つかるまでです。1日だろうが100日だろうが私たちは待つのです!」


「それでは資源がムダに……」


 丸山は度肝をぬかれて立ち尽くす。

 ようやく叶えられる人類の夢を、ギルマスは捨てても良いといっている。

 過度のプレッシャーにより、ギルマスが壊れたのかと疑ってしまう。


 だがギルマスの目に狂気は見られない。


「いいですか、丸山さん。この世界にS級ダンジョンは沢山ありますし、これからも増えてくるでしょう。でも、そこを踏破できたのはその者たちのみなのです。重きを置くべき方を見誤ってはいけません。しくじれば破滅です。それに出てこないなら何か理由があるのでしょう。だから待つしかないのです!」


「お覚悟よく分かりました」


「そう言ってもらえると思っていましたよ」


「では名乗り出があったらすぐ動けるようよう各支店には通達をしておきます」


「ええ、頼みましたよ」


 ギルマスの気迫に染まり丸山は足早に退室していく。


 そして残されたギルマスとともに時間だけが刻まれていくのであった。

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