忍者って、合コンでモテるらしいよ

桃色金太郎

合コンでは風林火山のどれですか?

第1話 華々しいデビュー戦

 中学二年の夏。

 休み時間になると、必ず喋りにくる山ちゃんだけど、その日のはいつもと様子が違っていた。


 目はバッキバキで鼻息は荒いくせに、他に聞かれてはいけないよう、こっそりと耳打ちをしてきたのだ。


『なあ、なあコテツ、知ってるか? 忍者って合コンでめっちゃモテるらしいんだぜ。それってスゴくね?』


『く、詳しく話を聞こうか』


 思春期まっ只中ただなかの俺たちは、そんな馬鹿げた話で盛り上がっていた。

 まあ、最初は半信半疑だったよ。

 でもよくよく聞いてみると何とも真実味があり、気づけば正座をしていた程だ。


 世界にダンジョンが出現してから四半世紀。

 生活の中にも冒険者稼業やジョブが溶け込んでいる、そんな時代に俺は生まれた。


 そのジョブで誰もが憧れるのは、勇者や賢者といったヒーロー的ジョブだ。


〈ではもし、その勇者が合コンのメンバーだったとしたら?〉


 答えは簡単、みんな萎縮をしてしまう。チャラけた場にはそぐわない。自分なんかには勿体ないと。

 かといって一般職の戦士や盗賊だと『へぇ~』で終わってしまうだろう。


 しかしレアなジョブである上に、多才なスキルを持っていて誰もが知っている忍者なら話は別だ。

 わーきゃーわーきゃーわーきゃーと、めっちゃ騒がれて収拾がつかなくなる。友はそう熱弁してくれたのだ。


 完ぺきな未来が見えればあとは簡単だ。忍者を目指して頑張ればいい。

 毎日毎日千本ダッシュや、永遠かくれんぼ等の修行に励んだよ。ギュッとつまった青春だった。



 そうして月日は流れ、今宵こよいは初の合コン本番を迎えている。


 お相手はギャル二人に清楚系の子が一人だ。成果をみるにはうってつけのメンバーだな。


 合コンの基本は、まず明るいあいさつから入ること。

 そして自分を出しつつ、相手の事も興味ありますよぅとのアピールが大事だ。


 いざ!


「どーもー、忍者のコテツと言います。今日はよろしく~!」


「すごっ、本物?」

「黒装束に頭巾を被ってるしぃ、マジもんじゃん!」

「もしかして、忍術とか使えたりするんですか?」


「部屋の中だし、分身の術だったらイケるかなあ」


「すげえじゃん。見せて、見せてーーー」


「そ、そうですか。では少しだけ、『分身術・参』!」


 でも向こうの方からアピールがきた。ここは流れにまかせて笑顔でこたえる。


「「「「こ、これでどうかな?」」」」


 女の子三人を両サイドから挟む形に三人の影分身をだす。

 若干声がふるえたけど、ステレオ音声は効果的だ。影の独立した動きにも驚いていて、三人とも反応がいい。


「きゃー、すごーい!」

「え~もしかして~、ベッドでもこの人数なの~?」

「キャハ、Aえいったらエローーーい」


「ちょっと、二人とも止めなよ。コテツさんが戸惑っているよ」


「い、いえ、お気になさらずに」


 ありがとーーーー、時代は完全に忍者です。すべてのことに感謝だよ。


 でも俺一人だけの合コンじゃない。

 あまりはしゃぎすぎるのは他の男メンバーに悪いので、影たちには消えてもらう。


「えー、なんで消しちゃうのよ。もっと、もっとー」


「A子の言うとおりぃ。忍者~もっと見せてよ~」


「はははっ、じゃあ次ね」


 リクエストが来てしまったよ。

 内心はとび跳ねたいほど嬉しいけど、悟られないよう平静を装う。


 三人の興味は尽きず質問ぜめだ。

 特にギャル二人が止まらない。

 ダンジョンについてアレコレと聞いてくる。


「ねー忍者ー。S級ダンジョンとかってクリアしたことあんのぅ?」


「A子すごーい、S級なんて専門用語使ってるじゃん」


「まーねー、だいぶ興味あるしー。で、どうなの忍者?」


「世界でもA級が限界って言われているからね。もしクリアできたら奇跡だよ」


「へえー、なんかショボーい」


 だいぶ軽めなのが気になるが、本当に知らないんだからしょうがない。

 できる限り噛み砕いて説明するが、いかんせ慣れない事なので、りきんでしまい上手く伝わらない。


 そんな二人とは対照的に、大人しめの女の子は真剣な眼差しだ。


「でもコテツさんってすごいですね。努力されて望みのジョブを得るなんて、わたし尊敬しちゃいます」


「い、いや、運がよかっただけですよ」


 ギャル二人との話も楽しいが、心愛ここあさんだったよな。この子と話すとほっこりする。

 おれ自身を見てくれているようで、こんな楽しい時間は人生はじめてだ。


「あー、心愛ここあ。二人でなに良い雰囲気作ってんのよぅ、ストップ~」


「えっ、私は何も……ぽっ」


 お酒とは違う赤らむ顔を心愛さんは隠そうとする。その仕草に見とれてしまい何も言えない。


「忍者ー、うちらトイレに行くわ。その間盛り下がらないようにねぇ」


「はいーー」


 下がるはずがないよ。

 かかりすぎて失敗しないか心配なほどだ。

 少し気を鎮めるために、俺もトイレへ行き顔を洗うことにした。


「ふぅー、極楽浄土とはこの事だな」


 鏡の中の俺がニヤついている。気を引き締めてもすぐ崩れてしまい、軽薄感がにじみ出ているよ。

 頭巾で隠していて良かったな。



「コテツさんって凄いですよね? わたし感激しちゃった」


 女子トイレから会話が聞こえてきた。この声は心愛さんだ。


 でもこれはわざとじゃない。

 常人ではあり得ないけど、身体強化された俺にはどうしても起きてしまう現象だ。


 とはいえこれはマナー違反だから、出来るかぎり聞かないようにする。


「はあ、どこが? っていうか今日ハズレじゃん」


「そうそう、何が忍者よ。キッモ!」


 あれっ、これって俺の事じゃないよな?

 まさかと思うが自信がない。

 ……これは確めるべきだ。


 聴力拡張、準備よし!


「えっ、二人ともあんなに盛り上がっていたのに、どうしたの?」


「それはそれ~。あの格好でコンパ来るなんてあり得ないわよ。コスプレおたくなんて引くわー」


「え、A子さん?」


「A子の言うとおり。キャラに徹しているか知らないけどさ、飲み食いすらしてないじゃん。毒なんか盛ってないつーの! それとも頭巾がとれないほどのブサメンかもねえ、キャハハー」


「あり得る~、モテない男の典型な」

「赤ら顔ってのもないわ」

「チラ見連発のキモ忍者」

「筋肉だけで暗くて華もないしねえ」

「童貞なのがバレバレよ。もうイカ臭くて嫌になるわ」

「「きゃはははははーーーーー」」


Bさんまで……。コテツさん優しいし、何気ない事にも気を使ってくれているよ? そんなことを言ったら失礼だよ」


 ギャル二人の高笑いが突如やんだと思ったら、強めの壁ドンが響いてきた。


「心愛、来週の勇者との合コンが本命だって言っておいたよね。ウチがどんなけ掛けてるか知ってるでしょ? 忍者は捨て石、ダンジョンあるあるや情報を引っ張りだすのが目的よ。それを忘れてんなら、あんたマジでぶっ殺すよ?」


「あれでイケメンなら遊んでやっても良かったけどねえ。貧乏オタクには用はないし~」


「そうそう、ウチを落としたきゃそれなりの格がないとねー。世界一とかぁ、インフルエンサーとかぁ。とにかく自慢できない男なんて、ゴミの価値もないわ」


「でも一生懸命な人を悪く言うのは……」


「心愛、自分の立場忘れてない? お情けで連れてきてやってるのに。役に立たないなら、アンタの母親なんてクビよ。今すぐパパに電話してやろか?」


 少しの沈黙のあと、心愛さんのか細い声が聞こえてきた。


「ご、ごめんなさい」


「プププー、良かったー。心愛が聞き分けの良い子で。よーし、残りガンバろか」


 A子の低かったトーンでの声が、何事もなかったかのように明るくはねている。

 トイレのドアが閉まり、三人は席へと戻っていった。

 そうして2つのトイレには、俺以外だれもいなくなった。静かすぎて耳鳴りがし目も霞む。


「あの頃の俺、知ってるか。未来ってかなり残酷だわ、グスン」


 ぜんぜん勇者っておそれれ多くない。女の子は完ぺきにノリノリ、やっぱヒーロージョブだけあるわ。


 モテていたのは幻想で、それを勘違いをして浮かれまくっていた。逃げ出したいほど恥ずかしい。


 でも他のメンバーがいるから、逃げれば迷惑をかけてしまう。

 無理をしてでも精一杯の笑顔をつくり席に戻るしかない。


「……みんなお待たせー。俺がいなくて寂しくなかったー?」


「もう、忍者遅~い」


「ごめん、ごめ~~~ん」


 冷静になった今ならわかる。

 ギャルたちの目は笑っておらず、会話もスマホをいじりながらでおざなりだ。

 でも俺なりに精一杯やるしかない。ここからの逆転だってあり得るんだから。


「それでね、フェンリル族ってのは魔法防御が高い種族でね、とても……」


「へえ~、マジ~」


「う、うん。あっ、そうだ。ドリンク追加する?」


「へえ~、マジ~」


「は、ははは。要らない、よね? ……あああっ、こぼしちゃった。ゴメンすぐ拭くよ」


「チッ、ったくよー!」


 でもそんな期待もむなしく合コンは終了。きっかり2時間なのも驚かされた。

 連絡先の交換だが、他の二人はしていたみたいだ。

 俺も声をかけるが無視されて、女の子たちは『終電がー』と爆笑しながら帰っていった。

 さらに視界が狭くなる。

 手を振ると誰か返してくれたような気もするが、幻覚かもしれないか。


 残念だけど俺の初めての合コンは、こうして幕を閉じたのだ。


 ◇◇◇


 初の合コンにやぶれ、自暴自棄になった愛染あいぜん虎徹こてつ

 彼はその足でダンジョンに向かい、モンスター相手にその悔しさをぶつけていった。


「うおおおおおお、俺は、俺はーーーー!」


 叫び、打ち、放ち、切り刻む。ただ我武者羅がむしゃらに暴れまわる。爆発したとしか言いようがない勢いで、ダンジョンを突き進んでいった。


 そして数時間後、彼は奇跡をおこす。


「こんな事ができてもー、こんな事ができてもー何にもならないぜーー!」


 S級ダンジョンの最深部にて、血みどろで横たわるボス。報告例すら上がらない最強部類のデーモン属を、虎徹は泣きながら見下ろしていた。


 虎徹がしたのは史上初となる、S級ダンジョンの完全攻略だ。

 人類では到底不可能だとされていた快挙なだけに、すぐさま拡散され世界中を激震させる。


「うおおおおおおおおーーーーーー!」


 これが魅惑的な夢に振り回される、愛染虎徹の甘くて激辛な合コン人生の始まりであった。

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