第50話 一部エピローグ/解放
それから幾ばくかの時間が経ち、ミトラは微かに誰かが自分に呼びかけている声を聞く。
「……ラ! ……トラ! ミトラ!!」
ミトラが目を覚ますと、そこには見知った天井と、自身の顔を覗き込む万有と碧の顔があった。
「……二人共」
「生きてた! よ、良かった~!」
「寝てるだけって言っただろ」
「で、でも不安でさあ! 万有が白塔から持ち帰ってきたばかりのミトラちゃん、すっごいボロボロだったから……」
「まあな。だが、その傷も半日で全快したってんだから驚きだ」
「ふふん! それもこれも、私の手当のお陰なのさっ」
「いや、生まれつきそういう体質なんだと思う」
「余計なこと言わないの!!」
体を起こし、胴体のあちこちを触るミトラ。痛みがないことを確認したミトラは、ベッドから飛び降りて深々と頭を下げる。
「どうもお騒がせしましたのら。お陰さまで、村の皆の仇を取れましたのら」
「本当にお騒がせだったな! まさか半年もお前に振り回される事になるとは」
「でもあっという間だったよね。私が途中から合流した身だからかもだけど」
「だがこれで、契約は完了だな。はぁ~長く苦しい戦いだった、本当に!」
「じゃあアタシは……」
「面倒見るに決まってるだろ。半年前に協会でそう言った事、忘れたか?」
「これからもここに居て良いのらか!?」
「ああ。まさか三人で暮らす事になるとは思ってなかったが、同居人がいるとスローライフが出来ないかっつったらそうじゃねえ。どうにかやるさ」
「よかったねミトラちゃん!!」
しゃがんでミトラの手を取る碧。そんな碧に、ミトラは微笑みかける。
「目覚めて早々だけど、ちょっと出かけてくるのら」
「私も一緒に行こうか?」
「いや、こればっかりは一人で行きたいのら。なぜならそれは……」
ミトラは机の上に置いてあった刀を取る。
「アタシが災いの子として、最後にやり残した事のらから」
「……そっか、気をつけてね」
山小屋を出たミトラは、それから電車やタクシーなどを使い3時間かけて目的地へ移動する。そうしてミトラが向かった先、それは――
「ただいま」
かつてハル街があった、瓦礫だらけの平原だった。
ミトラは瓦礫をかき分けて穴を掘り、そこに日本刀を鞘ごと突き刺す。それから数歩後ろに下がったミトラは目を閉じ、両手を合わせる。
(みんな、終わったのらよ。苦節二年半、ようやく普通の女の子として生きられる環境に身を置けるのら。アタシがこうなれたのも兄ちゃんのお陰だから、彼の事存分に褒めてあげるのらね)
存分に祈りを捧げたミトラはゆっくり目を開け、両手を下げる。
「……じゃあね、みんな! 行ってきます!」
墓標に背を向け、帰路に就こうとしたその時――
「頑張れよ」
背後からそんな声がして、ミトラは振り返る。そんなミトラの視界には、刀を背に座るアレンの影がうっすらと映っていた。
しばらく呆然と口を開けて居たミトラだったが、我に返り、一回頷く。するとアレンの影はスッと消え、後には何も残らなかった。
両目を右手で乱雑に擦り、再び振り返って歩き出す。その足取りは軽く、まるで肩の荷が下りて自由になったようだった。
重力術者はスローライフが出来ない 熟々蒼依 @tukudukuA01
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