第7話 2度目の訪問。慣れた真司
「またか」と俺は思った。
夕方まで寝ていた為睡魔が襲ってこず、やることもないので布団に潜りながらスマホをいじっていた所に昨日も見た光。
この現象がなんなのか分からない。それでも父さんのおかげでこの手の現象には慣れてしまっているので、2回目ともなれば驚きもしない。
「タノシさんこんばんわ」
俺がそう声を掛けると、神宮さんの寝床に横たわるタノシさんはあれ?と声を出す。
「あ、天井さん、でしたっけ?こんばんわ」
ゆっくりと体を起こし、困惑しながらも挨拶を返してくれるタノシさん。
昨日は急に光って消えたものだから、もしかしたらなにも覚えていないかと思ったが、俺の名前を呼んだという事は、昨日の記憶は残っているのだろう。
よっこいしょとおじさんのような掛け声で立ち上がり、冷蔵庫から麦茶を取り出す。それをコップに注ぎタノシさんに差し出すと、喉が渇いていたのか、ありがとうございますとお礼を言って、それを一気に飲み干す。
「ご馳走様でした」
タノシさんは、ふーと息を吐いて落ち着いたように見える。
深夜の静かな時間。2人して時計の針が鳴らす音を聞いて過ごすわけにもいかないので、なにか話をしようと思う。
色々と聞きたいことはあるが、昨日の様子から察するに、何をしていたのかなどを聞くのはNGなのだろう。
なにか思い出したくないことがあるのかもしれない。
「タノシさんって漢字はどうやって書くんですか?」
「えっとね、憑依の憑に子供の子で憑子って書きます。珍しいですよね」
名前の話は問題ないようだ。
それにしても変わった苗字だな。
「じゃあ趣味とか聞いてもいいですか?」
「趣味・・・ですか?」
憑子さんはうーんと考え込むも、なにも思い浮かばなかったのか、フルフルと頭を横に振る。
そして、テーブルに置かれた俺のスマホを見て、あっと声を出す。
「その機種、私と同じものです」
俺の持っている機種は2年前ほどに出たモデルである。
高校入学を期に母さんに買ってもらったものだが、裕福ではないうちの家計の事を考えて中古品を購入したのだ。
「ちょっと触ってみますか?」
俺の言葉に、彼女はこくんと頷くので、パスワードを解除してスマホを差し出す。
スマホを持っていたと言うことは、憑子さんは神宮さんの二重人格などではなく、神宮さんに取り憑いた霊なのでは?と1つの考えにたどり着く。
もしかすると、スマホを持っていたという憑子さんの記憶が作られた記憶、もしくは神宮さんの記憶とごちゃ混ぜになっている可能性もあるが、神宮さんの持っている機種は俺のものとは違うものなので、その可能性は低いだろう。
俺のスマホを一通り触った憑子さんは、「ありがとうございます」と言いながらスマホを返してくれる。
「なんだか年季が入ってますね?物持ち悪いんですか?」
「いや、これは買った時からこんな感じでしたよ?2年も前の機種の中古品ですし、前に使ってた人が結構荒っぽく使ってたのかもしれませんね」
「2年・・・?」
俺の話を聞いた憑子さんは考え込むように顎に手を当てる。
これはまずい。
そう思った時にはもう遅かった。
昨日と同じく、「2年・・・?私が買った時は最新で、1年しか使ってないの・・・に・・・・・・。今って何年だっ・・・け?」とどんどんと言葉がバラバラになっていき、最後は奇声を上げて光に包まれてしまう。
あまりの眩しさに一瞬目を閉じてしまい、再度開いた時には机に突っ伏して眠る神宮さんがいた。
「ううーん。妾はもう食べきれないと言っておろう」
口をむにゃむにゃと動かし、なにかを食べている夢でも見ているようだ。
幸せそうな寝顔の神様を起こすのは気が引けて、背中に布団を被せて俺も自分の寝床に潜り込む。
憑子さんには、年の話もダメだったか。
過去のことに繋がる話は全面的にNGなのかもしれない。憑子さんの事を知ることが出来れば、神宮さんとの関係もわかるかもしれないのに。
隣の席の自称神様な美少女の家が無くなったらしいので、同居することになりました ゆとり @moon1239
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