第四話:私の心(ノエル視点)③
気づくと、また明るい場所にいる。目を開けると、救世主さんが私の顔を覗き込んでいた。また呼び出されたのか。まさか、さっきの醜態を見られていたんじゃ……。神様だもんね、見てるよね、そりゃね。わあ、なんか気まずい。
「ええと、はい、なんかごめんなさい」
「なんで謝るんですか?」
「なんででしょう」
「私はむしろ嬉しいくらいですよ」
「そうなんです?」
「あなたは自分の感情を知りましたね」
まあ、そうだね。知った。うん、思い知らされた。救世主さんは、ニヤニヤと笑っている。なんだこの人。いい性格してるじゃん。
「嫌味です?」
「素直な喜びです。思ったより早かったので」
なんだか引っかかる口ぶりだ。まるで予期していたように思える。まさか……。
「あの、もしかしてなんですけど」
「はい、なんでしょう」
「あのおまじないって……」
「素直になるおまじないです」
「ええ……」
つまり、あれはお酒のせいというより、救世主さんが私に流し込んだおまじないのせいなのか。なんてものを仕込んでくれたんだ。目の前の神様とか救世主とか呼ばれてる女性が、絵に描いたような温かい微笑みを私にくれている。
「あ、強制力はありませんよ。お酒がトリガーになったみたいですね」
「はあ……」
「あくまでも、あなたの心の引き出しを開けやすくしただけですから」
それでも、結構怖いんだけどな。そうまでして、私の感情を引き出したいのはどうしてなんだろう。私に何を求めているんだ、この人は。
「あなたの心には何重にもプロテクトがかかってます」
「ぷろ……なに?」
「ああー……何者かに、強制的に閉ざされてる感じです」
「え、何それ怖い」
「それを開きやすくした感じですね」
救世主さんは穏やかに語るけど、じゃあいいかとは思えない。そもそも、心が強制的に閉ざされているってどういうことなんだ。誰がそんなことをしたんだろう。可能性があるとしたら、私自身? でも、救世主さんのように他人が心に介入できるとしたら、何かまた別の誰かの仕業という可能性もあるのかな。
だけど、私がこれまで接してきた人なんて、数えるほどしかいない。その誰も、そんなことをするとは思えなかった。
うーん、わからん! 今考えてもしょうがないことだね、きっと。
「何かのきっかけがないとダメなんですけどね」
「んんん……なんだかなあ」
「心が開かれると魔法も強くなりますよ」
「え、それはありがとうございます!」
魔法が強くなるなら、いいか。むしろありがたい。力はどれだけあっても、足りないだろうから。魔族で悪魔という京都市長とも戦わなきゃいけないし、私の仇はそれ以上に強いんだろうしね。快く受け取っておくことにしよう。そもそも、返品なんてできないだろうし。
「あ、最後にこれだけ」
救世主さんが人差し指を立てて、自身の唇に当てた。かわいいと思ってやってるんだろうか。実際かわいいのだから、たちが悪いなあ。私と似た姿で、私ができないかわいいポーズをされると、なんだか不思議な気持ちになる。
「夢を忘れないでください」
「え?」
「またお会いしましょう」
そんな、意味深なことを言い残して去るなんてやめてほしいんだけど! 気になるんだけど!
意識がぼやけていく。逆だ、覚醒しているんだ。体が透けて、私は天国から追い出されるように目が覚める。
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