第四話:私の心(ノエル視点)①
目が覚めた後、うつろにだけ救世主さんのことを話した。お説教を食らったことや、何かのおまじないをもらったことなどなど。どういう人なのか聞いたら、「そういう人だ」と言われてしまった。
それから私たちは、街道をひたすら歩き続けた。一人増えただけで、道中はかなり賑やかだった。流石に景色も少しずつ変化していって、退屈はしない。連日歩きまくっているせいで足が棒になってはいるけど。
「ねえ、まだ歩くの?」
「まだだな」
「まだだね」
「ひええ……田舎だったんだなあ」
「ま、秘境ね」
「地図に載ってすらいないからな」
「え?」
「ん?」
地図に載っていないというのは、初耳だ。驚く私に、ルミが丸めた紙を渡してきた。広げてみると、地図だった。福岡の地図だ。竹下を見つけて、今私たちが歩いている竹下街道を見つける。そこから南下して……精霊の森。迷いの森のことだ。この近くに私たちの村があるはずだけど……ない。たしかに、地図にない。
「本当だ」
「私も村があることには気がつかなかった」
「森まで行ったのに?」
「森の入り口、村のすぐそばよね」
「それなのにどういうわけか、村が見えなかったんだ」
そういうことが、あるんだろうか。私たちの村の門からすぐ近くに、森の入り口がある。森の入り口からは村の門が見えるはずだ。それなのに、誰にも気づかれないなんてことがあるんだろうか。森が地図に載っているのに、なんで村はないの? 考えれば考えるほど、わからなくなる。
私は頭痛を感じながら、ルミに地図を返した。
「言うか迷ってたんだがな」
うつろが影から出てきた。
「なに?」
「あの村には、強力な結界が張られてる」
「え?」
「村人が認めた者しか入れないようになってたんだ」
「どうしてそんな結界が……いやでも、あいつは?」
そう、あいつだ。私のお父さんを殺したあいつは、普通に村に入ってきた。行商人は毎回同じ人が来る。だから村の人が認めたということになると思う。というか、村長がお願いして来てもらってるんだしね。
お父さんの仕事関係の人も、お父さんに認められていると言える。
じゃあ、あいつは? あいつは誰にも呼ばれていない。認められてなんか、いないはずだ。
「奴は謎だな」
「謎よね」
「ただ、その結界が認識に影響を与えてるのかもしれん」
「村人との接触があれば認識できるみたいな?」
「そんな感じだろうな」
誰が、なんのためにそんな結界を張ったんだろうか。あの村に、何か守りたいものでもあったんだろうか。迷いの森の近くにあるということ以外、普通の田舎の村だと思うんだけど。
「まあ、今考え込んでも仕方が無いだろう」
「んー、まあ、それもそうだね」
今は、ひとまず置いておくしかないか。今度救世主さんに会ったときにでも、聞いてみよう。あの人なら、何かを知っているかもしれない。なんと言っても神様だしね。
「それにほら、見えてきたぞ」
「お?」
言われて目をこらしてみる。お、おお。見えてきた。建物が見える。街だ! ようやく到着したんだなあ。長かった気がする。歩くしかやることがない数日間というのは、こんなに長いんだね。ありがとう行商人さん。こんな道を往復してくれて。
「ノエルには初めての街だね」
「その割に、感動が薄そうだな」
「いや、疲れてて……」
「ははは。到着したら宿を取ろう」
ああ、ベッドで寝られる。ベッドで寝られる!? そう思うと、なんだか元気が出てくるようだった。足が軽く感じる。ベッドで寝られるというのは素晴らしい。魔法で適当にこしらえた壁と天井と、固い床に寝袋の日々としばらくさよならできる。
そして、ようやく始められるんだ。復讐の旅を。
「よし、みんな! 走ろう!」
「え」
「え」
「え」
私以外の全員が明らかに嫌そうな声をあげたけど、私は気にせず走った。下り坂だから走るのはしんどいけど、それでも走った。早く街に行きたくて仕方が無い。追い風が吹き、私の体を前へ前へと急かす。というか、うつろは私の影に入れるからいいじゃん。
そうして、私たちは竹下に到着した。竹下には門などは特になく、街道から地続きで何の手続きもなく入れた。塀などもない。通りを歩く人の数が、私の村の人口を優に超えている。すごいな、世界にはこんなに大勢の人がいたんだ。そんなことすら、私は知らなかったんだなあ。
「はあ、はあ……」
追いついたらしいアイコとルミが、私の横で息を切らしている。
「急に走りだすんだもん、勘弁してよもう」
「行き倒れた翌日に走ることになるとはな」
「いや、ごめんって」
うつろは私が走り出してすぐ、私の影に入った。街の中では、決して姿を見せないだろう。私は人前では、精霊術士ということにするらしい。悪魔も魔法使いも、嫌われているから。私としてはあまり良い気分ではないけど、円滑に情報収集などを行うには必要なことらしい。
それにしても、街はすごい。ルミの案内で宿までの道を歩いているけど、見えるもの全てが大きい。これで福岡では都市と呼べるところではないのか、と驚いてしまう。オーパーツっぽい建物も、何度か見た。継ぎ目のようなものが見えず、木材にも鉄にも見えない建物。どういう素材で、どういう建築様式なんだろう。気になってしまう。
人々が忙しそうにしている。私たちを見ても、さして気にしている様子はない。人が多いから、よそ者かどうかなんて気にならないんだろうな。
「で、どうよ? はじめての街は」
「うん、すごいね。なんというか、こう、すごい」
「いやあんた語彙力どこに置いてきたのよ」
「いいじゃないか、感動してる証拠だ」
感動。たしかに感動しているかもしれない。アイコから街の話は聞いていたけど、話に聞くのと実際に見るのとでは大違いだ。これが復讐の旅じゃなければ、もっと感動できたのかな。そうも思ったけど、そうでもないのかもしれない。復讐でも、旅は旅。楽しいと思うこともあっていいんだ。
そうだよね、お父さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます