All in the name of love ④
「ゲーム機は、家に置いてきちゃったんだよ!」兄さんがいよいよ泣きそうになってる。
「はあ? あんた、なに云ってるの?」妹はたたみかけにはいった。この子は、兄さんを追いつめる気なのか。「『家に置いてきちゃった』って、ここがあんたの家なんでしょう?」
「そうだよ、家だよ!」兄さんが
「もうひとつの家?」妹は
「そうだよ!」
「ハッ!」妹はバカにしくさったように笑った。「強がるのもここまでくるとあきれちゃうわ。いい? こうゆうときの〝もうひとつの家〟っていうのは〝べっそう〟っていうの! それにあんた、べっそうを持つほどのお金持ちには見えない。
すねちゃまにでもなった気でいるの? どら焼きがあるのはネコ型ロボットのため? ──バッカっバッカしいっ! ゲーム持ってないなら持ってないって、ハッキリそう云ってくれれば、わたしだってこんなにムキにならないのに! こうゆうのが〝おうじょうぎわがわるい〟ってやつなのね!」
ぼくは体を起して下の階に行くことにした。ぼくが、洗いざらいぜんぶを話そう。
妹は口が
口べたな兄さんが──この妹の前だけでは口べたになっちゃうな。なんせ、兄さんは〝ええかっこしい〟だから──出る
ぼくは
足もとを
まずおばあちゃんは、療養中の母さんに電話をいれるだろう。それからは……パニックとヒステリックの嵐だ。考えただけで身ぶるいがする。
下からは兄さんがメソメソやってる声と、
「紫穂! あんた云いすぎだよ! かわいそうに、泣いちゃってるよ!」
「ふん! ぶったり
妹の捨て
日ごろ、ぼくがさんざ云われてきた言葉を、兄さん本人が云われてる! 正直なところ、ざまーみろっ! と思った。
「あ! 階段みっけ!」突然、妹がドタバタと足を
妹は、ヒョロっとした
だけど、ぼくとは肌の色が決定的に違う。
日に焼けた、浅黒い小麦色の健康的な肌。
その肌の、そこかしこに
肩にかかる程度の短い髪も日に焼けていて、
どうするか、なんて云おうか。
ぼくがめまぐるしく言葉を探していると、妹は顔を
つぎの瞬間、耳をつんざくほどの大声が家じゅうに
「──ねえっ! ここにもうひとり子供がいるーっ!」
「えぇ! なに云ってるの紫穂。ほかに子供なんているわけないでしょう。ねえ、あんたこっちに戻ってきて、ちゃんとあやまってよぉ。じゃなきゃこの子、泣きやまないよぉ」
お姉さんが心底困りはてた声で助けを呼んだ。ぼくは思った。……兄さんの泣いている顔を見れるなんて、始めてなんじゃないか?
「えっ!」妹は叫んだ。その大きく見開いた目は、ぼくを
「だから紫穂はなにを云っているのよう!」お姉さんはどうもお疲れ様らしい。
声の色に疲労がにじみでている。
兄さんが……かわらずメソメソしているんだな。
たぶん、お姉さんの
妹はソワソワしたようすで、また声をはりあげた。「だからここに子供がいるんだって! わたしが見ているのは座敷わらしかなんかなのっ? それなら大発見じゃん! ──ねえちょっとそこの泣き虫! 泣いてばかりいないでなんとか云いなさいよ! ほかに友達を呼んでいたのっ?」
──座敷わらしだってぇ? なんだよ、ひどいじゃないか、妹。
ぼくは幽霊なんかじゃないぞ!
……まだ。……かろうじて。
「えぇ? 座敷わらし?」お姉さんの好奇心にも火がついたみたいだ。
「いかないでっ!」兄さんがお姉さんを引きとめた。兄さんがスカートにしがみついている姿が想像できる。──まったく、なにをやっているんだ、兄さんは。
妹は、ぼくをジッと見つめたままで声だけを飛ばした。そんな目で見つめられたらぼく、体に穴があいちゃうよ。
「お姉ちゃん! そんな泣き虫ほっときなよ! こっちにきて! いっしょに見て! わたしの見ている物がお姉ちゃんの目にも見えるか、確かめようよっ!」
「物じゃないよ」ぼくはついムッとして口をすべらせた。
「あぁっ! しゃべった! おねーちゃーん! この子、しゃべったよ!」
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