第11話 噂


「最近南の奴らが戻ってきていて蓄えているらしいぞ」


屋敷のテラスでワインを楽しんでいる所で熱血衛士長さんが唐突に切り出した。


「南?西じゃなくて?」

「ああ、今回帰ってきたのは南の奴らでどうやら『魔剣』を見つけて来たらしい」

「『魔剣』か・・・・・・」


魔剣、正式には魔法付与剣の事で剣に魔力を流す事で剣に込められた魔法が発動する。

コレも亜空間収納袋と同じで現在では再現出来ない代物らしい。

物によってはかなりの値が付くので王侯貴族や豪商などがコレクションしているともっぱらの噂だ。


「なんでも西の果てにある多民族国家への輸送隊を襲撃したたらしく南の奴らは珍しい魔剣が手に入ったと言っていたぞ」


「魔剣‥‥ん~興味は有る。けど欲しいかと言われると微妙」

「そうか・・・そうなると後は裏が取れてない情報くらいしか無いぞ?」

「一応聞くだけ聞いてみたい」

「判った・・・噂では西の連中が追っている『魔女』を横から掻っ攫うつもりで今回の遠征をしたらしい。だからもしかすると『魔女』に関する情報を持ってるかもしれない」

「魔女か!」


コレはもしもが有るかもしれない!

古今東西、魔女と言えばロリババアである場合も多く十分に期待を持てる。

更にどんな容姿をしていたかを聞いて幼い感じだったら西の奴等が帰って来た時に襲撃すればイイ。


「いや、情報感謝するよ。明日早速挨拶に行ってくるさ」


トータル6枚の金貨を積んで部屋に戻ろうとすると待ったを掛けられた。


「あーそれなんだが・・・一緒に行っていいか?」

「何で?」

「実はな南の連中がローズ商会を陥れてマーガレットを唆したんだ。だから!」


悔しそうに下唇を噛みやり場のない怒りで震える熱血衛士長を見てオーキスはニヒルに気取った口調でどこかで聞いた事の有る様なセリフを口にした。


「皆まで言うな。家族を想う女性の純真を汚し私服を肥やす!我ら首狩り一門が正義の一閃を持って奴らの罪を断罪する。共に行こうぞ!同志!」

「お、おお!」

「奴らに天誅を!」


さも義憤に駆られたかの様に叫ぶオーキスに対して若干引き気味な熱血衛士長だった。



★★★★★★★


「ハーッハッハッハ!」

「・・・」

「ヒッャハァー!」

「・・・」

「ヒーーハーー!!」


逃げ惑う盗賊達を追いかけ右へ左へ。

月明かりを反射してキラキラと光る何かが盗賊に襲い掛かりその度に首が宙を舞い鮮血が飛び散る。


その光景を呆然と立ち尽くしながら見つめる熱血衛士長。


「FHOOOO!!!テンチュー!」


何処で仕入れたのか青い服を着て頭に布を巻いた少年が発狂している。



「どうしてこうなった・・・・・」


熱血衛士長は天を仰いだ。



事は数時間前に遡る。

この日はあくまで下見がメインで魔剣の存在を確認したら改めて作戦を練る予定だったのだが・・・オーキスが潜伏先に向かう途中で南の盗賊、ブラッドブラッドのボスとアジト近くで衝突事故を起こしてしまった。


偶然オーキスが躓いた時に向かいから歩いていたボスに激突、『おっと失敬』と軽く謝ってその場を去ろうとしたがボスはおちょくられたと思ったらしく「殺されてぇのか?」と脅しをかけたらボスの首が宙を舞った。



・・・・そこからはもう大騒ぎだ。

傍に居たお供の二人も誅されオーキスに身包み剥がされた挙句「先に仕掛けて来たのは奴らだ!やはり奴らは断罪すべし!テンチュー!」と単独でアジトに乗り込んで血を撒き散らし今に至る。



「さてさてー?所持金の方は・・・ッケ!しけてんな!コレだから社会のゴミは度し難い」


悪態を付きながらも死体の腰に付いていたお金が入った袋を毟り取り中を見て亜空間収納袋に中身だけ入れて袋は捨てる。


「さて、此処ら一帯は天誅を下した。後は奴らのアジトを残すのみだ!と言いたい所だけどすまん。調子に乗り過ぎて疲れた。だから選手交代で」

「え?お、おう・・・頑張るのは良いけど・・・この剣じゃちょっと心許ないな・・・」


(わかるぞ、カチコミに行くのに鈍らでは相手に失礼だかならな!やっぱ熱血衛士長さんは同志だな!ならこの剣を渡して更なる天誅を下すべし!)


「ならば同志よ、この剣を使うとイイ。きっとお前の天誅道に力を貸してくれるだろう」


そう言うとオーキスは亜空間収袋から精緻な装飾がされた剣を無造作に投げた。


「ちょっ!・・・オット!!危ないじぁ・・・ってコレ魔剣じゃないのか!?」

「そうなん?」

「は!?知らないのか!?」

「あー興味薄くて・・・・・・今の今までに忘れてた位だ」

「そ、そうか・・・まぁ今だけは有り難く使わせて貰う」

「うむ!では・・・天誅組、否!今だけは『しんせんくみ』を名乗っても許されるだろう!とっかーんー!!」


謎の集団が屋敷に向かって走り出した。


アジトには盗賊にしては珍しく魔導師も居た。

屋内では使い勝手が悪いのでは?と思ったがどうやら幻惑を使ってくるタイプの様だが無駄だ。


「ハーッハッハッハ!この俺にその幻惑は逆効果だ!効かん!」

「なっ!?」

「術は確かに掛かっているバズ!それに相手はガキだ!囲んじまえば楽勝だ!」

「ホントか・・・・ぐはぁ!」

「お、おい!?」


幻惑系は幻を見せて相手の動きを鈍らせる魔術で術者の技量によってはよりリアルな幻惑を見せる事が出来る。

なので大抵の男相手なら裸の女性の幻を見せれば動きが止まるし、止まらなくても確実に鈍る。そしてそれがいい具合に刺さる。


命のやり取りで本能が刺激されている状態で劣情を煽られればオスとしての本能が刺激されて途端に動きが止まる。そしてその間に仲間が後ろからズブりだ。

それに判っていても本能に訴えてくるので確実に動き鈍るので厄介な攻撃として猛威を振るっていた。



が残念な事にロリコンやロリババァ趣味には効果がなかった模様。


「迫ってくるならもっと熟れてからにしろ!」

「ヒャガァァァ!!」

「ついでに!侍らせるならもっと幼くしろー!」

「ひ、ひ、ギャー!!」


術者としても予想外の結果だろう。

年頃の男の子なら異性に興味を持ってもおかしくないはずが一切効果がない。


「まさか!!?ロリこ・・・んか・・・・・・」


驚愕の事実に勘づいた術者は『次こそは絶対に幼女の幻惑を掛ける!』と考えながら事切れた。


幻惑系魔導師の所持品を漁っていると別方面を制圧していた熱血衛士長が近寄ってく来た。


「お、おい!大丈夫か!?結構名の知れた術師だったぞ!?」

「ん?ああ、アレは悪夢だぞ?幼くも無く熟れても無い女が沢山いるとか、あの術師は愚かだな」

「そ、そうか・・・まぁ無事ならいい。取り合えず行くぞ?」

熱血衛士長はなんとも言えない表情を浮かべた後、剣を構えながら奥に進んだ。



奥に進むと大きなホールに出た。恐らくダンスパーティーとかに使うホールなのだろう結構広い。


そして部屋の奥には遠目からでも判る程の魔力を放つ刀が有った。


「あれって・・・・・違うか」

「?」

「いや何でもない(細身だったからもしや日本刀かと思ったが違った)」


ホールにはなぜか組織の長であるボスがいなかった。


「ところでボスはこんな時に無ししてるんだ?」

「え?」

「え?」

「覚えてない・・・のか?」

「何を?」

「お前さんが一番最初に処理したのが『ボス』だぞ?」

「・・・・・・あぁ!アレか!(すまんイキってたからモブかと思ってた!済まない名も知らぬボスよ。君の活躍は・・・まぁ記憶にとどめておこう)」


何故か両手を合わせて祈りを捧げ始めるオーキスを後目に熱血衛士長は辺りを調べ始めた。

部屋の中には小さな机と大きなベッドが有るだけなのでボスの部屋にしては質素だ。なので隠し部屋が有るのでは?と疑う熱血衛士長は壁を触ったりしているとオーキスが動き出した。


「さーてまずは禍々しい奴を回収して・・・・あ、ところでさー」

「お?お祈りは済んだか・・・・でなんだ?」

「この剣いる?」

「?」

「どうせなら二刀流でもすればカッコイイじゃん?」


そう二刀流だ。

全世界の男の子が憧れるアレだ。両手に持った剣で敵をバッサバッサと切り伏せる。

手数が多くて派手な感じは二刀流であれ何であれ総じてカッコイイ。


「・・・・・」

「え?二刀流ダメ?」

「単純に扱えない」

「訓練有るのみ。まず愛剣に名前を付ける所から始めよう!」

「は?」

「えー今持っている方は・・・・全体的に豪華だし聖剣『えくす・・・』いや待て。ここでその名前はいけない。オリジナリティが無いからな・・・・・なら聖剣・・・・聖剣・・・・・は!決めたぞ!この剣は『聖剣エターナル・デス』でもう一本が『魔剣エターナル・デス・ツヴァイ』だ!」

「・・・・・」

「おい、聖剣なのに『死』が付いていると突っ込めよ!」

「・・・・・」

「まぁそれはともかく・・・・・腰に付ける?背中に背負う?」

「・・・・・・腰で」

「この天才魔道具師の力を見せてやろう!」


ふふふ~ん♪と鼻歌を歌ながら腰に付ける頑丈な剣帯を作る。

素材としてベッドと机を借りた。


「できたー!はい」

「・・・・・ああ」


なぜか遠い目をしながら出来立てほやほやの剣帯を装備し右に聖剣エターナル・デスを左に魔剣エターナル・デス・ツヴァイを装備する熱血衛士長。


「素晴らしい!普段は一刀流だが本気の時は二刀流になる!素晴らしい!」

「そうか・・・・」

「うむ、これぞロマンだ。さてお宝を探すか!」


なぜか遠い目をしている熱血衛士長と一緒にくまなく探したのだが…


「ない…だと?」

「ないな」


壁どころか床も調べたのだが、隠し部屋が発見できなかった。

最終手段の壁破壊を試そうとしたが、建物倒壊の恐れがある為今回は不採用となった。


「どうする?」

「ん~一応成果はあったし、金に困ってる訳じゃないから引き上げるか」

「わかった」


机の引き出しに入っていた数冊の本を脇に抱えてアジトを後にした。


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