第10話 超えてはならない一線

パクリ商品を絶賛されるというある意味罰ゲームの様な苦しい時間を過ごしたあと、今回お呼び出しされた件である『必要な魔道具』の市場調査の結果の報告を受けた。


「こちらが調査結果となります」

「ありがとうございます。今見ても?」

「構いませんよ」

「では失礼して」


渡された羊皮紙を広げると商会の娘さんらしくかなり見やすく書かれていた。


(まぁ大体は予想通りだな)


『部屋が寒いから暖かくなる魔道具が欲しい』『お湯が湧き出る魔道具が欲しい』など生活に対する不満が多かったが一部には『金貨が永遠に湧き出る魔道具が欲しい』と欲に塗れた物も有った。


(金貨が湧き出る魔道具が欲しいって・・・そんなん有ったら金の価値が大暴落して鉄屑になるぞ?)


大半が碌でもない希望だがコレはコレで参考になりますね~と眺めていると最後の方に『空を自由に飛べる魔道具が欲しい』と書かれていた。


(空を自由にって言えば『たけ・・・』って!待て待て!それはアカンやつだよ!?いや、まぁ機動戦士の丸パクリした奴が今更か?とも思うけど・・・アレに手を出すのは駄目な気がする。

魔法が存在するのでこの世界でなら竹トンボ型飛行装置の再現は可能だと思うが・・・いや?別に作っても問題ないんじゃ?・・・イヤイヤやっぱりこの案は封印だな。例え異世界でも超えちゃいけない一線ってのは存在する気がするし)



「ご希望に添えましたか?」


タケ◯プター製作の可否を考えていた所でマーガレットが話しかけてきた、恐らく黙り込んでいたので何か有ったと誤解されていたらし。


「あぁ、いえ。素晴らしい調査についつい夢中になっておりました」

「それは良かったです!それでどれか一つでも実現可能な物はありますでしょうか?」


そう問い返すマーガレットは先程まで見せていた年相応の喜び具合は鳴りを潜め真剣な表情をしていた。


「実際に試してみないと確実な事は言えませんが構想は有るので部屋を暖めたり冷やしたりする魔道具やお湯を出す魔道具で有れば実現可能かと」

「ホントですか!?」


ガタッ!とテーブルに手を付いて勢い良く立ち上がるマーガレットに若干引き気味になりカタカタと端の機動戦士兜が揺れた。


「し、失礼致しました・・・喜びの余りつい」

「そ、そうですか・・・」

「因みに量産は可能ですか?」

「そこは構造的に簡略化出来ればある程度の生産性は確保出来ると思いますが?」

「そうですか・・・・・・・・・」


マーガレットは暫く考え込んだ後、大きく深呼吸をしてガバっと頭を下げた。


「暖かくなる魔道具を是非作って私の立ち上がる商会で販売させて下さい!」


(あーだから量産って話しを聞いたのか。なるほどなるほど・・・さてどうするかな?

今の所は金に困ってないからコレまで魔道具を売るって考えが無かったけど、将来の事を考えると金策は多い方がリスクは少ない。

それにいざ商売を始めたくても『販路』が無ければ儲けが出るまで時間が掛かる。その点マーガレット様ならローズ商会の娘さんで実家のコネもあるし、自分でも新しい販路を開拓出来そうだから将来性バッチリ。更にこのまま行けば熱血衛士長さんと結婚だろ?そうすればネタ兵器のテストも喜んで引き受けてくれるハズ!

もしダメなら夜逃げすりゃ良い話しだし、本当に最悪の場合は武力制圧も出来る・・・よし。受けよう)


「頭を上げて下さい。お受けしたいと思いますが幾つか条件があります」

「ありがとうございます、それで条件とは?」


頭を上げてたマーガレットが身構えた。


「性能試験に協力して頂きたいのです。実際の使用者からの意見は非常に重要ですので」

「勿論喜んで協力致します」


(よーし!言質頂きましたー!コレでネタ兵器もテストの名目で実験できる!)


「実際に売るかどうかとか価格は出来を見て判断して貰えれば良いので」

「え?」

「ん?」

「・・・・・・あの?私が決めるのですか?」

「え?違うんですか?(えー?相場とか一切知らないから高いか安いかな判断も出来ないのに価格を決めろって・・・鬼畜やん!)」

「いえ、そもそも私からお願いした話しですのでオーキス様が持ち込まれる品を購入する形になるので・・・」


(そっかぁー話しを持ちかけた方が不利になるって訳か・・・・・・それトラブルのもとじゃん!話しが違う!とか色が違うわ!とか普通に出てきそうだし面倒だな。ここは申し訳ないがこっちの都合を通させてもらおう!)


「あー私との取り引きに関しては現物を見て判断して貰いたいです。お互いに無様な諍いを起こすのは無駄でしかないですからね」


「判りました。その条件もお受け致します」

「では試作品の出来を見て満足行く出来栄えなら本契約と言う事で」

「些か私が得をしているのですが、本当によろしいのですか?」

「全ては無様な諍いを生まないためですから」

「判りました、完成をお待ちしております」

「ええ、お任せ下さい」


話しがひと段落した所で少し冷えたお茶を飲みつつ、まずは何から手を付けるかな?と考えながていると熱血衛士長が部屋に入って来た。

そして軽快な足取りでソファーの前に来てピタっと固まった。


恐らく彼は見てしまったのだろう『ソレ』を。


黄金に輝くV字ブレードの中心に妖しく光を反射する銀色のプレート。

細部にまで拘ったディテールとこめかみの部分の光る石ライトが存在感を示す。


そう機動戦士兜だ。


奴はそれを見てしまったのだ。


「そ、その兜‥‥は?」

「手土産だ」

「て、てみやげか…」

「ああ」

「もしかして・・・・・・俺の?」

「力作だぞ?」

「そうか・・・」


この時の熱血衛士長の顔は何かを悟った様な顔をしていた。

口パクとウインクで『似合うZE★』と伝えると熱血衛士長はガックリと肩を落としながソファーに座った。


「ともあれ、よく来てくれた。歓迎するぞ」

「ああ、世話になる」

「まぁ積もる話しもあるが、最近どうだ?」



そう言って世間話を始める熱血衛士長の態度に恐らく金貨を積む価値のある話しが聞ける予感がしたが、流石にこんな場所でする話しでは無いのはお互い判っているので、世間話に花を咲かせた。


途中で機動戦士兜の話しになり、盛り上がるマーガレット。微妙な顔の熱血衛士長に居た堪れない気分のオーキスと三者三様のテンションで話し込み、気づけば夜になってしまったので、一泊させてもらう事になった。

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