第9話 オマージュ?

熱血衛士長の婚約者であるマーガレットと遭遇してから数日が経ったある朝、拠点に設置した光る石が割れていた。


光る石は読んで字の如く自ら発光する石でそこそこ高価な代物だが結構長持ちするので需要は高いく光源として広く普及しており、この街でも取扱っている店も有る。

この拠点も当然ながら光る石を光源として使っていたが、魔力切れなのか寿命なのか判らないが割れて光を失っていた。


夜までにはどうにか光源を確保しないと不便だなと思いながら割れた石をかき集めている時に割れた破片の再利用は出来るのか?と思い至り、試しに割れた破片に魔力を流すと光り出したのでふと閃いた。


「これ‥‥ライト付きヘルメットにしたら売れるんじゃね?夜間活動に必須なアレ」


ライト付きヘルメット、ヘルメットの頭上に付いたライトが視界と連動して動く事により暗い中でも視界の確保が容易になる。何より両手が空くのが素晴らしい。

夜間に本を読むのにも最適だ!


「試しに作ってみるか!」


この世界に来て初めての魔導具作りが始まった。



用意するのは割れた光る石とヘルメットだが‥‥この世界にヘルメットは存在していないので代用に鉄兜を用意した。


「さこの鉄兜だが‥‥ド◯に似てるな・・・モノアイにしてみるか?」

そして暴走が始まった。


魔法を駆使して鉄兜を加工し辺りが暗くなる頃にようやくド〇ッぽい何かが完成したが…

「これじゃ前が見えない」

デティールに拘り過ぎて自分の目のあたりに光る石が有るので前が見えない。


「仕方ない、公国系のモノアイは諦めて普通に作ろう」


前が見えないのは本末転倒なのでまず顔を覆っている部分をカットし顔が見える様にする。

次に切った面を『整形』の魔法で滑らかにし、切り取った廃材で筒を2つ作る。

作った筒に加工した光る石を埋め込み、兜の頭に左右対称付けて完成だ。


「完成‥‥したけどコレは微妙だな」


光源として使用している光る石の光量が少なくて手元がすこーし見易くなった程度なので失敗作と言ってもいい出来だ。


「がしかし一度で満足の行く結果は出ないのは世の常だし…明日からは改善だな」


翌日から改善に取掛かった。



まず改善点として光量の増加を図る事にした。

解決策は単純で光る石の周りを半円で囲み光を反射させ一点に集中させる構造を取れば少ない光量でも十分な明るさを確保出来るしある程度の指向性を持たせることが出来る。


「と言う訳で早速改善をしたいのだが・・・結構難しいな」


光る石を銀貨を整形させて半休状にするのは簡単だか反射率や反射角の問題もあり整形にはかなりの時間を費やす事になってしまったが拘った結果どうにか形にはなったが‥‥


「生前のライト付きヘルメットと比較すると重いし光量も少ないし指向性も弱いしコストも掛かるし‥‥ゴミとは言わないが酷い出来だな」


勿論この世界の魔道具と比較すれば凄い出来なのだろうが‥‥今以上に便利な世界に居た者からするとどうしても劣っている様に思えてしまうのだ。

しかも本末転倒なのだが兜の改修の為に別の光る石を店で買って来ていたので、正直な所不要になってしまった。


「まぁ邪魔になったら熱血衛士長さんに上げよ・・・いや待てどうせ自分で装備しないならネタに走るのも悪くない!」


ついついネタに走ってしまった。



そしてその数日後…


「ついに完成してしまった」


兜の表面を銀貨を使って薄くコーティングし、贅沢にも金貨で作り上げたV字ブレードを額に取付け接合部には五角形の銀プレートを取り付けた。頬に当たる部分にも排気口を模した装飾をし、こめかみの位置に光る石ライトを装着しあの特徴的なモヒカンも再現した。



「なりきり変身セットの頭部だよこれ‥‥」


出来上がったのは機動戦士を大分意識した兜だ。

元々の目的で有ったライト付きヘルメットは見る影もなくこめかみに設置された光る石ライトはただピカピカするだけの子供のおもちゃレベルになっている。


「まぁ渡す機会もないだろうし全て忘れて寝よう」


ネタとしては文句ない出来なので満足した結果、蓄積した疲労と睡眠不足であっという間に寝入ってしまった。

翌日、冷静になって改めて見ると流石にやり過ぎたかな?と反省することになったのは余談だ。


★★★★★★★★


機動戦士兜(勝手に命名)の完成から数日。

マーガレットに頼んでいた市場調査の結果が出たそうでメイドが訪ねてきた。


「オーキス様ですね?マーガレット様の使いのメイドです。先日ご依頼された調査結果が出たとの事で是非お招きしたいと言付かっています」

「そうですか。では少しお待ち下さい、準備をして来ます」


急に訪ねて来てこっちの予定を無視するやり方は感心しないが、悲しい事にこの国は貴族社会だ。

平民が大商人からの誘いを断ることは残念ながら認められていない。


(なので大人しく従った方が利口だ。自ら波風を立てる必要もないしな)

そんな事を思いつつ、余所行きの服に着替えていると機動戦士兜が目に入った。


「せっかくだし手土産にこれでも持っていくか」


流石にむき出しでもって行くのは失礼になるのでそこそこ綺麗な布に包んだ。



表に止まっていた迎えの馬車に乗り込み、脇に抱えていた兜を横に置く。


「‥‥あの?その包は?」

「私が作り上げた魔道具です」

「魔道具ですか?」

「マーガレット様のご主人にはお世話になっていますのでその手土産にでもと思って」

「魔道具を手土産ですか?」

「良ければ機能を説明しますよ?」

「お願いします」


揺れる馬車の中で機動戦士兜のプレゼンをした所、かなり気に入った様で光る石ライトの件では画期的な発明です!とかなり興奮していた。


メイドさんは魔道具に対して思う所があるのか、揺れる馬車で酔いそうなこっちとは違い元気一杯と言った様子で到着まで篤い思いを聞かされた。


「到着しました」

「あ、失礼しました。少し熱が入ってしまいましたね」

「お気になさらず…(あれで少しかよ!)」


メイドさんの熱量に圧倒されたが、目の前にある家にも圧倒された。


門と玄関を繋ぐ道の中央に大きい噴水があったりキレイに整備された庭園が有ったりとまさに豪邸と言っても過言ではないだろう。


そして玄関を潜ると


「「「「いらっしゃいませ」」」」


沢山のメイドさん達にお出迎えされた。前世ではまずお目に掛かれない対応をされ内心では感動しっぱなしだったが、表情には出さない様に努めた。



メイドさん達のアーチを抜けて少し歩くと大きな扉の部屋に案内された。


「オーキス様をお連れしました」

「どうそ」

「失礼します」


中に入ると応接室の様な部屋で高級そうなソファーとテーブル。調度品も気品がありこの部屋で例の機動戦士兜をお披露目するのは躊躇う程には完成されている部屋だ。


「お待ちしておりました!オーキス様」

「お招き頂き光栄に思います、こちら手土産です」


時間を置くと絶対切り出せなくなりそうだったので、早々に切り出す事にした。

メイドさんに手渡し、包を解いて貰うとピカピカに光る兜が出てきた。


「これは!?」

「こちら私が作成した魔道具で‥‥」


馬車の中でメイドさんにしたプレゼンを今度はマーガレットにすると


「素晴らしいです!暗い中でも見渡せる光に勇ましさを感じさせる形!」

「え、ええ(え?この人も絶賛するの!?このパチモンを!?)」


まさかマーガレットにまで絶賛されるとは想定外だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る