#36 新たなる大目標

 同性の部員が誰もいない、たった四人の少人数部活。たくさんの部員でにぎやかに活動している南高校のパソコン部とでは、やはり比較にならない。実紅ちゃんが寂しく思ってしまうのも当たり前のことだった。


「でも、南高校うちはみんな、音楽にちっとも関心ないのよ。シンセ用にパソコン入れてくれるってすごいよ。わたしがこっちに移りたいくらい」

 直子さんはそう言って、ちゃんとフォローしてくれた。さすがの気遣いである。

「そうですよね! すごいですよね、うちの部って」

 実紅ちゃんはうなずいてくれたが、ただシンセ機材を入れた、というだけではだめなのだ。部活というのはそういうものではない。

 彼女が楽しく活動を続けていくことができるように、部長である順が何か考えなければならなかった。少人数部活なりに雰囲気を盛り上げていくことができる、そんな工夫を。


 何か分かりやすい目標を立てて、その達成を目指してみんなで活動する、というのが良いかもしれない。窓の向こうで降り続く雨を眺めながら、彼はそう考えた。南高校の鈴木新部長が昨年獲得した、「マイコン・マガジン」の「ベスト・プログラマー賞」を目指す、という目標があるにはあるのだが、これはどうしても地道な取り組みにならざるを得ない。もっと目に見えるような形で取り組める、そんな目標がいいのではないか。


 横山くんと直子さんが帰ったあと、彼は西郷副部長に、新たな目標について相談してみた。

「ああ、目標を決めて活動するっていうのはいいな。里佳子先生もきっと喜ぶぞ」

 乗り気の顔で、西郷はうなずいた。

「音楽活動で目標と言えば、そりゃ一つしかないだろう。ライブだよ、ライブ。何と言っても、演奏を聴いてもらうのが一番だ」

 なんと、あっさりと正解が出た。なるほど、そりゃそうだ、とうなずいた順だったが、しかしライブなんてどこでやればいいのか。シンセの実演となると、ギター一本で緑町の駅前で演奏するようなわけにはいかない。

「それも簡単だよ。文化祭のライブに出ればいい。10月まではまだ日があるし、準備もばっちり行けるだろう。なんなら、直子先輩にも頼んで助っ人に来てもらおうぜ」

 おお、と順は喜んだ。それは良い。盛り上がることは間違いないし、活動目標としてパーフェクトではないか。パソコン部の知名度も、一気に爆上がりが期待できる。


「文化祭ライブ、ですか?」

 順の提案を聞いた実紅ちゃんは、少しだけ緊張した表情になりつつも、

「やってみます! 頑張って練習しなきゃ……」

 と前向きなところを見せてくれた。

「我がパソコン部としての目標ということは、ライブに出るのは鞍馬口さん一人、というわけではないのですよね?」

 一関くんにそう訊かれて、順は答えに詰まった。確かにその通りなのだが、自分たちが何をするのか、何も考えていなかったのだ。

「もし先輩方が良ければ、メインボーカルをやってみたいのですが。ステージで歌ってみたかったのですよ、前から」

 そう言って、長い髪をかき上げる彼は、すでにフロントマンをつとめる気が満々のようだった。確かに見た目はミュージシャンぽく、さまにはなっている。

「ほんとうですか? じゃあ、選曲を考えないとですね」

 実紅ちゃんがそう言うのなら、順と西郷に文句はない。音楽には無縁な先輩二人が何をやるのかはまた考える、ということでごまかして、ライブ出場という目標がこうして決定したのだった。


 ライブに出る、ということには直子さんも大賛成で、北高校パソコン部に何度も顔を出してくれた。直子さんが住んでいるのは南高校の近くにある昔ながらの集落で、北高校がある緑町の中心市街までは結構遠いはずなのだが、それだけ力を入れてくれていたわけだ。直子さんとしては、音楽にあまり関心のない南高校パソコン部よりも、こちらのほうが応援のし甲斐があるということなのだろう。

 ぜひ、ステージにも一緒に出てほしいと順たちは頼んだのだが、

「うーん、それはちょっとやりすぎかも」

 と、直子さんとしてはあくまで裏方のサポートに徹するということだった。

 残念だったが、他校の文化祭のステージにまで出るのはさすがに目立ちすぎてまずい、彼女はそう考えているようだった。


(#37「県道沿いの最先端スポット」に続く)

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