癒しの巫女と十二神将はいつも腹ペコ三昧

櫛田こころ

第1話 巫女様だった

 他者にはない、特別な力が有ると幼い頃より両親から言い聞かされていた。



「あなたがいるから、誰かを癒せる」

「手をかざせば、傷がたちまちに治る」

砂羽さわにしかそれが出来ないの」

「お前は、都波となみ家の誇りだ。人の為に尽くすのだ」



 そのように言い聞かされ続けたのだが、自由は無かった。


 当たり前のように、義務教育を受けさせることもされず。家庭教師らの教育指導で常識はひと通り学んだが、友達と呼べる相手は誰一人と出来なかった。


 勉学を受ける時間以外は、常に『癒しの巫女様』として寝る間もない程の依頼が押し寄せてきていたから、友達を作る時間すらなかったのだ。眠くても、気付け薬を投与されて傷などを癒す仕事を与えられた。


 それが十年以上続くと、段々と『癒しの巫女様』の仕事が当たり前になり過ぎて、自分などどうでも良くなったかもしれない。ただ依頼者の傷、稀には心の傷を癒す事を義務だと思うようになっていくくらい、己が麻痺してきたから。



(……私はこのまま誰かを癒やし続けて、死んでいくのかな)



 そう思い続けるしか出来ないのか。そうあるべきことが正しいのか。


 癒しへの依頼をこなし続けるしかないと思っていたのだが、ある日、家の方に異変が起きたのだ。


 使用人のひとりがほこりだと思っていたのが、靄だったことと。それをうっかり吸うと身体を蝕む痛みが襲い、私の力に縋ろうと集まって来るのだ。両親が依頼でもないのに癒しの力を使うことを許さず、だが、次第に増えていくことで使わざるを得ない状況になったのだけれど。


 しかし、使用人の中でも一番重傷だった男に施しを与えた後に、私の力は一気に効力を失ってしまった。何度手をかざしても、何度言霊を放っても誰も癒せなかった。


 そうして、私の力が誰にも効かないとわかった時に、父親が動いたのだ。



「……役立たずであれば、次の巫女を得るのに『荒神様』に捧げねば」



 いきなり私の髪を無造作に掴んで、そのまま廊下を引きずるようにして、どこかへと連れていく。


 逃げようにも非力な女の力など敵うはずがなく、あちこちに初めて痛みを感じながら辿り着いたのは。


 裏庭にある古井戸だった。



「あそこに、己を捧げよ。審神者さにわになる砂羽よ」



 そう言って、私が答える時間も与えずに。その中に、私を何のためらいもなく、突き落としたのだ。



「いやぁああああああ!?」



 人生で初めて大声を出したのに、このような死に方で人生を終わるのかと。今までの仕事を思い返しても、何も感情を覚えなかったことにショックを受けた。


 私はあの人たちに利用されただけの道具だったと、足りない頭で浮かぶことしか出来ず。


 古井戸の底で死ぬのだとわかった瞬間には、意識が恐怖に塗りつぶされていくかのように閉ざしたのだった。

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