第13話:すり抜け回避
「あんたが勇者? 闇ギルドのリーダーで八腕……リーダーってことは、八腕っていうのは腕が増える程つえーってことか」
「裏に関わる人間なら、勇者である僕が闇ギルドを取り仕切っている事を知らない訳がない。君はまるで関わってこなかった人間ということになる……それで、ドランボウの坊ちゃまは何が望みでここに来たのかな?」
八腕にして勇者、ノーブラッド・ヒュージンだったか……この男がやってきて、場の空気感が変わった。緊張感があって、気を抜けば死が待っているかのような、そんな空間になる。
しかし、やはりそんな空気でもバスターはマイペースで、まるで気にしていない。
「おい! みぃは三腕で下から数えた方が早いけど、新入りのおめぇに舐められる筋合いはないにゃ! 舐めるにゃ! そうだノーブラ様! こいつ、バスターは真なる勇者って名乗ってたにゃ、こいつも勇者なのかにゃ?」
虎の威を借る狐ではなく猫、ヒュージンがやってきてから、露骨に調子に乗り出す三腕ことシャクリン。なんとも分かりやすい小物仕草……
「おいバカ猫! 僕をノーブラと呼ぶな! 誤解されるだろうが!」
「えー? でも実際ノーブラッド様はノーブラだにゃ?」
「おい! だから僕は元からブラジャーなんてしてないだろ!? そんな言い方したら、僕が元々ブラジャーしてた人みたいに思われるだろうが!! ぜぇ、はぁ……あああ……!? おい! バスターとやら! 僕をそんな目で見るな! おいおいおい! このバカ猫、どうすんだよ! 新入りが信じちゃったじゃないか!」
「すげー早口での言い訳……こりゃ信憑性ありだな。まぁお前がノーブラであろうとなかろうと何の問題もない。オレには関係ない。で、オレがなんの目的でここにやって来たかだっけか? それを話す前に、こちらとしても聞きたいことがある。さっきそこの猫が言ってたんだが、闇ギルドは勇者とアレンコード教の干渉を受けないようにしてるって、これはそいつらと敵対してるってことでいいのか?」
「お前、頼むから信じるな……ったく……そうだ、僕ら闇ギルドはアレンコード教と勇者に敵対してる。まぁ僕も勇者だから正確に言えば他の二勇者と敵対してるって感じだね。その敵対も、それほど強い敵対関係じゃない、お互いに嫌っていて、時々喧嘩が起こる程度と認識してもらって構わない、まぁ今の所は、という注釈はつくが」
「そうなのか、じゃあその敵対理由はなんだ?」
「質問攻めだな、まぁ仕方ないか。敵対の理由は単純な話、アレンコード教や勇者によって生命、生活を脅かされる者たちの保護を闇ギルドは行っているからだ。その中には犯罪者やその身内、異教徒、少数民族、特殊なジョブ適性を持つ者が含まれる。闇ギルドの目的は、このウレイアの闇側の秩序を保つこと、暴走しないようにすることだ」
なるほど闇の秩序……必要悪ではないが、彼らなりにこのウレイア帝国のバランスを保とうとしているってことか……
「なるほど……言うかどうか迷う所だったが、あんたを信用して、ここに来た目的を言うか。オレ達がここに来たのは、あんたがさっき言った保護対象の一つ、特殊なジョブ適性を持つ者、に関すること。そう、ダークウォッチャーに会いに来たんだ」
「なに……?」
バスターがダークウォッチャーの名を口にした瞬間、ヒュージンは剣呑な眼差しをバスターに向ける。反応がある、ということは、ヒュージンにとってもダークウォッチャーは特別な存在ってことか?
「オレの横にいるカトリアはダークウォッチャーの適性があるらしい、適性診断所の奴はこの事をオレ達に隠し、聖騎士に通報しようとしていた。聖騎士ってのは、ウレイア帝国の国教であるアレンコード教が有する、帝国の命令系統からは独立した騎士団。そこがどうやらダークウォッチャーの適性を持つモノを処理しているということだった。だからオレはダークウォッチャーに会って、それがどういう存在が確かめたくなった」
「確かめてどうするつもりなんだ?」
「ダークウォッチャーが悪いものでないなら、カトリアにダークウォッチャーとしての修行を頼む。ダークウォッチャーがオレ的に良くないものなら、何もしない。ダークウォッチャーとは関わらないようにするだけだ」
ああー、バスターがヒュージンにダークウォッチャーのことを言おうか迷ったのはそうか、そういえばバスターは言っていた。
ダークウォッチャーを探す時、後ろ暗い背景を持つ者が集まる組織か、聖騎士と敵対関係にある組織が考えられる。この時、できれば聖騎士とは敵対関係にない後ろ暗い方の組織で探すのが望ましいと。
聖騎士と敵対している組織では、ダークウォッチャーに関する客観的な視点が得られない可能性が高いからだ。
実際の所は、闇ギルドはバスターの考えた二つが混ざりあったモノだった。後ろ暗い者が集まった、聖騎士と敵対する組織。けれど、それでもバスターはこの組織、正確に言えばノーブラッド・ヒュージンという男を信用して話すことにした。どうして信用できたんだ……? そんな判断材料があっただろうか?
「そうか、なるほどな……それは納得だ。そして、お前の判断は正しい。よくやったと言える。お前はその娘の命を守った。聖騎士は帝国領を5年で一巡する形で調査を行っている。きっとお前達の領地にも来ていたことだろう」
「そういやそうだな。確か五年前に聖騎士が調査に来て、今年もまた聖騎士の調査があるって聞いたぜ」
「ほう、運のいい。丁度すり抜けたというわけか……あの調査はダークウォッチャーを探すためのものだ。ダークウォッチャー適性を調べるというのは高精度なジョブ適性診断の力が必要になる。そのため聖騎士は帝都にあるジョブ適性の大魔法陣、それと小型の魔法陣とを繋げ、力を借り受けているのだ。見たことはないか? 聖騎士は小型の石板を持って、人々の調査をしている。聖騎士の調査は成人から五年までのものを対象として調査を行う、だから……その娘、カトリアは今年で聖騎士に捕まるはずだったんじゃないか?」
「そうなるな。カトリアは今年で17だから、成人から5年の15から20間ドンピシャだ」
「そうか、ダークウォッチャーが……真なる勇者と共に、闇ギルドへ……ははは、運命を感じるな。歓迎しようバスター、カトリア、ここはお前達にとって有意義な組織であると約束する。お前達に、会わせたい人がいる」
「会わせたい人? それって……」
「ああ──ダークウォッチャーさ!」
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