第10話:お前ヒーラー向いてないよ、やめときな
「えっ!? わたしも帝都に? どうしてバスター?」
「お前、ヒーラーなんだろ?」
「あっそっか! 旅に回復役いたほうがいいもんね!」
「お前の回復、下手だよな」
「ええええええええええええ!!?」
バスター……その言い方はないぜ……バスターのやつ、急にカトリアのことを屋敷に呼びつけて、一緒に帝都に行くと提案してすぐこれだ。
「ちょっとバスター! 失礼じゃない? これでもわたしは平均よりちょっと上ぐらいのヒーラーなのよ?」
「お前ならもっとスゲー回復ができるはずなんだよ。でも、新魔族との戦闘で怪我した奴ら……お前が治した奴ら、治り方が微妙だった。多分お前はヒーラー向いてねぇ」
「しょんなぁ……! わたし、バスターの役に立ちたいと思ってぇ、ずっと頑張ってきたのにぃ……」
「コラ! バスター! 未来のお嫁さんを泣かせちゃダメでしょ!! 殴るわよ!」
「うるさいな母様……でも、母様から見てもカトリアの回復は微妙、ってか変でしょう……? オレはずっとカトリアのことはツエー奴だと思ってたから、あんな程度の回復力、納得いかねぇんだよな。オレがカトリアから感じてた魔力の強さからは考えられねぇ」
カトリアは新魔族襲撃事件の際、沢山の領民達を治療した。回復魔法の出来は、カトリアの言う通り、平均よりちょい上程度だと思う。ナイネムと比べるとゴミ同然かもしれないが……マザコンなバスターの中では、母親のナイネムの回復魔法が基準になっているんじゃ……?
「そうねぇ、確かに変ね。魔力量で言ったらカトリアちゃんて天才クラスだし、あの程度の回復魔法になるのは不自然ね。それこそ本来なら初級回復魔法で上級回復魔法クラスの効果が得られてもおかしくないわ」
「えっ!!? そうなんですか!? ナイネム様!」
「そうよぉ? あーそういうこと? バスターがなんでカトリアちゃんを帝都に連れていきたいかわかったわ。帝都でちゃんとした適性診断を受けさせるためね?」
「そうです母様。オーグラムはど田舎ですからね、こっちで受けられるジョブの適性診断は簡易的なモノ、多分カトリアは簡易版には存在しないジョブが適正なんじゃねぇかって」
「えーでも、わたしずっとヒーラーの修行をがんばって……」
「まぁまぁカトリアちゃん。バスターと旅行するついでと考えればそう悪くもないでしょう?」
「そ、そうですね!」
不満げだったカトリアが急に元気になる。それにしても、ナイネムの方はカトリアがバスターと結婚するのは認めてる感じなんだな。となると結婚に反対してるのはスミスだけか……
◆◆◆
そして、バスターの帝都行き当日。待ち合わせ場所の馬車乗り場に、予定外の人物がいた。
「と、父様!? なんで? え? 父様も帝都に行くんですか!?」
「ああ、そうだ。ワシも帝都に用がある。それに、お前達に間違いが起こらぬように監視する必要もある」
「ま、間違いだなんてそんな。スミス様、わたし達はそんなつもりは……へへへ、まぁそういうことがありえても仕方ない気はしますけど……」
赤面して挙動不審になるカトリア。こいつ……大丈夫か?
「けど父様、帝都に用って、一体なんの?」
「バスター、お前と共に、マグニアス皇帝陛下に謁見するためだ。すでに謁見の予定は組み込んである。必ず顔を出せ、出さなかったら殺すからな~~~!」
スミスはそう言ってキレながらバスターの頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。どういう情緒だよ……
こうして帝都行きの旅は始まった。道中は特に何の問題もなく順調だった。賊の襲撃や魔物、動物の襲撃はあったが、バスターとスミスがすぐに蹴散らしたので、時間のロスすら発生しなかった。
それどころか賊から物資を奪い、食べ物のレパートリーが増えたと喜んでいた。もちろん殺した魔物や動物も解体し、その肉を食べている。スミスが狩り好きで、達人レベルの解体技術を持っているため、動物も魔物も超速で肉と皮へ変換された。スミスの技にバスターもカトリアも舌を巻いた。拍手で褒められたスミスも気を良くして張り切ってしまい、襲ってきていない無関係な動物まで狩ってしまう始末。
旅が始まって二週間、バスター達は帝都に到着する。
「うお……デッカ!? 帝都って巨人でも住んでんのか? 建物デカすぎんだろ! つーか、建物多くね? どうなってんの? 人多くね?」
帝都ウレイリード、ウレイア帝国でもっとも発展した都市らしい。しかし凄いな……俺が下界に関われた時とは発展具合がまるで違う……レンガや木材、石でもない、よく分からない建材が使われた滅茶苦茶背の高い建物が大量に立ち並んでいる。人の数もえげつない……これだけ人が多いと、誰が誰だか分からなくなりそうだ。見渡せば必ず人が目に入る。
みた感じ、ウレイリードは芸術の街のようだ。特に服飾や絵画、宗教画に力を入れているようだ。教会らしき場所をチラッと覗くことができたが、綺羅びやかすぎて最早教会というより王族の屋敷のようだった。この街の宗教は相当儲かっているんだなぁ。
「おいバスター、恥ずかしいからやめろ。ったく、お前達なんか帝都で用事があんだろ……? 今のうちに済ましてこい。謁見に遅れたら殺すからな、早くしろよ」
「了解です父様! よしカトリア! 適正診断所いくぞ!」
◆◆◆
ジョブの適正診断所へとやってきたバスターとカトリアは早速適性診断をカトリアに受けさせた。職員の指示に従い、カトリアが石板に手を乗せると、石板の横にある紙に文字が浮かび上がった。
「……ちょ!? え、えーーっとぉ、これはヒーラーですねぇ……それじゃあ次の方ー、こりゃ聖騎士様に連絡しないとなぁ」
ジョブ、人々には様々な才能があるが、その才能はある程度の方向性、向き不向きが存在する。そんな方向性、向き不向きを統計的に類推、種類分けしたのがジョブだ。あくまで才能の方向性はコレですよという指標であり、職業というわけではない。
珍しいジョブが適正だったり、今までにない才能を持つ者がいたとしても、その方向性だけはなんとなく掴める。それがジョブであり、カトリアのヒーラーという評価も、おそらく方向性としては間違ってはいない。しかし……この職員、なんだか怪しいな。
「ちょっと待て、その紙見せろ」
いいぞバスター! そいつ怪しいからな!
「えっ? いやぁ、ダメですよお客様! 困ります! そういう決まりですので!」
「そういう決まりだぁ? ダメだって言われると俄然見たくなるぜ! オラァ!!」
──バシッ! バスターが超スピードで職員からカトリアの適性診断の紙を奪う。職員よ、その男にダメだやめろは逆効果だ。
「あん? なんだこのジョブは? ダークウォッチャー? なんだか物騒な響きのジョブだな。おい職員、これはどういうことだ」
「えぇ!? いやぁその……ダークウォッチャーというのはですね。危ないジョブなんです……邪神と関わりのある危険ジョブだと言われていて、ダークウォッチャーとしての能力を鍛えていくと、世の平和のために良くないんですよ……ははは。だからぁ、そのー、ダークウォッチャーが適正と診断された人は、ヒーラーであると伝えて、ダークウォッチャーの才能が伸びないようにしとるんです」
「あーそういうこと? じゃあ聖騎士に連絡しないとなっていうのは? そっちはどういう意味だ」
「あっ……いや……その、そういう決まりとしか」
「はぁ? 決まりってどんな決まりだよ! はっきり言いやがれ!!」
──バンッ! 診断所の机を叩くバスター。迷惑クレーマーだこれ……
「ひぃ! ああだから! 危険なジョブらしいからってんで、ダークウォッチャーの適正持ちが現れたら聖騎士様に連絡するっていうのが決まりなんです! 聖騎士様が適正者を連れてくんですよ!」
「聖騎士がダークウォッチャーの適正持ちを連れて行く? 聖騎士に連れてかれたらどうなんだよ?」
「ああもう! そんな詳しいことは私にだってわかりませんよぉ! ただ……連れて行かれた人は、帰ってこないとかそういうことは、噂になってますね」
「はぁあああああああ!? 連れて行かれたら帰ってこないだぁ!? テメェ! オレの大事なカトリアが! ああもう! 聖騎士に連絡したら連れて行かれるって知ってて、テメェぶっ殺すぞ!?」
「ちょっとバスター、可哀想だよ。この人だって上から言われた通り仕事してるだけなんだし……」
そうは言ってもなカトリア、バスターが納得できるわけないだろう。聖騎士に通報したらカトリアが死ぬかもと分かっていたけど通報しました。これじゃあ職員はカトリアを間接的に殺すようなもんだ。普通の人間だって納得しない、バスターなら尚更だ。
「ひぃ! やめてください! 殺さないでください! その……じゃ、じゃあそちらの方を絶対にダークウォッチャーにしないと約束してください。もうその紙あげるんで……」
「おう、分かった。じゃあこの紙は貰ってくぜ」
あれ? バスターがあっさりと要求を呑んだぞ?
それからバスターとカトリアは適性診断所を後にし、人気のない寂れた宿近くまでやってきた。
「よし、じゃあダークウォッチャー探すか。カトリアの才能を伸ばすのにも師匠が必要だしな」
「えっバスター!? 職員さんと約束したでしょ? わたしをダークウォッチャーにしないって。オーグラムの男は嘘をついちゃダメなんでしょ? わたしだって危険なジョブの才能なんて伸ばしたくは……」
「はぁ? オレは紙をあげるって話に分かったって言っただけだが? あいつもオレがわかったって言って、どこがどーわかったのか聞かなかったしなぁ! ははは」
屁理屈だ……
「大体変な話だぜ……ダークウォッチャーが本当に危険だってんなら、オレらだって知ってるはずだ。それがどうも聖騎士だとか適性診断所の内輪で処理するだけ、人に知られないよう、隠れてコソコソと。そういう隠れてコソコソってのは後ろめたい事のある奴がすることだぜ」
「まぁ確かに……それは一理あるかも。ダークウォッチャーが危険て話どころか、ダークウォッチャーっていうジョブがあることすら知らなかった……おかしなことよね。だとしても、このダークウォッチャーというジョブには関わらない方がいいんじゃない? やぶ蛇というか……おかしいのがあっちだとしても、関われば危ないかも……」
「心配なのはわかるけどよ。そもそもダークウォッチャーがどんなもんか知らない段階じゃ判断のしようがねーだろ。それに、ダークウォッチャーが本当に危険だったとしても、オレがいるだろ。お前がワルになったとしてもオレが止めてやる、だからなんの問題もねー。オレからすりゃぁ納得いかねーんだ。母様が言ってたろ? カトリアは魔力で言えば天才クラスだって、その才能が輝く場所、そいつを腐らせるなんてオラぁ嫌だぜ」
「ば、バスター……」
「カトリア……」
はぁ、やれやれ……またイチャイチャしやがって……あれ? バスターがカトリアを抱き寄せた……だとっ!? まさか……ついに進展するのか? 10年間まるで進展しなかった関係が!! キス……するのか!?
「ぴゃぁー……っッ──!?」
──バタ……カトリア沈没。カトリアは恥ずかしさに耐えられず、倒れた。
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