第9話:守護神
「あ、あああ……もうやだ……静かに暮らしたい……」
「母様、こいつずっとこの調子なのか?」
帝都にいるクレイモアを連れ戻しに行こうとした所をスミスに止められたバスターは、スミスからとりあえず領地の状況を把握してからにしろと言われた。
ということで、バスターは母、ナイネムに状況を聞くことにしたのだが……ナイネムはバスターに敗北し、意識を強化された結果、恐怖の感情で動けなくなってしまった新魔族達の調査を行っていた。
「そうねぇ……この子達のメンタリティは本当にまだ生まれたばかりの子供、三歳児ぐらいかしら……こんな子達が自分からこんなことをしでかすとは思えないし、黒幕がいるんでしょうね」
「ふーん、こいつらってこのままにしといても大丈夫なんです? また暴れたりしない?」
「……一応対策はしたから大丈夫だと思うわ。この子達には、かつての私達魔族のように、邪神への服従因子が刻まれているわ。絶対者の命令を意思に関わらず必ず聞いてしまう……けど、魔族が服従因子を克服したように、この子達に私達の……サイモア家の抵抗術式を組み込めば完全なる自由意志を獲得するはず」
かつて魔族を操り、俺と敵対関係にあった邪神……魔神ザ=マン。奴が今回の件にも関わっているというのか? ちょっと待て……魔族が完全な自由意志を獲得している? そういえばバスターの母、ナイネムは魔族だった。その血を引くバスターも半分は魔族ということになる……けどバスター達には邪神の影響が見られない……
魔族達が服従因子への対抗策を編み出したとして……本当にザ=マンが復活しているのなら、少しは影響を受けるはずじゃないのか? かつて俺の敵対したあの者は強い力を持っていた。純粋な力で言えば俺よりも少し上だった……なんだかもやもやするなぁ。
「新魔族達が自由意志を獲得したとしても、こいつらが悪さをしない保証はないんじゃ……? 味方につける算段はあるんですか?」
「少なくとも今は戦う気はないんじゃないかしら? この調子ではとても戦えるとは思えないわ。それに味方するしないはともかくとして、新魔族に関する情報は少しでも多く欲しい状況よ。生きたサンプルがあるのならそれが最大の情報源となるわ」
「なるほどねぇ……母様が無事で、本当によかった。身内としてもそうだけど、情報面でもそうだ。こういう研究が得意なのは家では母様とクレイ兄だけで、クレイ兄は帝都だから……」
「そうね生き残れて本当によかった。危ない所だったわ……きっと、剣聖賢者グランド様が助けてくださらなければ……スミス以外は、屋敷にいた者は全滅だったでしょうね」
「え? あのばば……剣聖賢者グランドが?」
「そうよ、真なる勇者が守れない者を守るのが役目だって……すごかったわホント、スミスよりも強かったんじゃない? こう剣でファサーってやると魔力の刃がビビビーって、魔法剣士の究極の姿よね」
真なる勇者が守れない者を守る? 剣聖賢者グランドがそんなことを? 奴の意味深な立ち振舞……グランドはもしかして、この戦いが、バスターと新魔族、新魔王が戦うことを知っていたのか? けど戦いが起こるのを知っていたのなら、バスターの方を助けに来てくれても……
いや、それじゃダメなのか? 結局バスターは、追い詰められた状況で、命懸けの真の勇気を示すことで真なる勇者に覚醒した……グランドがバスターを助ければ、勇者の覚醒を邪魔してしまうから、助けられなかった?
何にせよ、剣聖賢者グランドは俺達の知らない重要な事を知っていそうだ。俺としてもバスターの家族が助かったのは嬉しい、グランドには感謝だな。
「あ、そうだバスター! 帝都に行くんでしょ? だったら荷物私が用意しておくからそれを持っていきなさい」
「えー? でもオレ、ちゃんと自分でしっかり荷物作ったけどなぁ……別にいらな──」
「──いいから持ってくの! 分かった?」
「はい……」
ナイスだナイネム。バスターの旅はこれで快適になるだろう。
◆◆◆
「バスターの兄貴! 何してんの?」
「ああ、ミロッポか。いやできるかなーって」
バスターはナイネムの荷造りを持つ間、オーグラム領における聖地、グラムの丘へとやってきていた。
「オレの力、まだよくわかってねーんだけどよ。なんか意思? を強くしたりとか、そういう方向性っぽくて。それだったら作れねーかなって、守護神」
「しゅ、守護神を作るつもりなの!? 兄貴?」
「オレ達、このグラムの丘でよく遊んだろ? なんかさ、ここ来るとなんだか頼もしい気分になったんだよな。守られてる感じがしてさ……だから守護神を作るならここだって……! かつて魔剣グラムを使ってこの地を守った英雄、ご先祖様が眠る丘。みんなの憧れと絆が集まる場所だ。どうか守って欲しい、このオーグラムと、オレの大事な人達を」
バスターは祈りを捧げる。グラムの丘にある大木と石碑に。しかしまぁ、なんとも不格好な祈りだ……力み過ぎて、祈りというよりは脅迫だ。けど思いの強さはよくわかる。
──カッ、一瞬、何かが光った。
『……──』
「え……? マジで!? ここを守ってくれるのか!?」
マジか……なんか本当に守護神らしきモノがバスターの眼の前にいる。石碑に背をもたれ、白い鎧に身を包んだ半透明の騎士。
「うわー、兄貴……本当に守護神作っちゃったよ」
「よし、これでオレが帝都に行ってる間も安心だな……はぁ……なんか、めっちゃ、疲れたぁ~~~頼むぜ! 守護神オーグラム!」
──バタリ。バスターは言葉を言い切ると同時に、疲れからか倒れてしまった。そんなバスターをミロッポが重そうにしながらも背負って運ぶ。
「兄貴……今日は頑張ったもんね。倒れもするか! はは……おいらも、もっと役に立てたらなぁ……」
ミロッポは新魔族達との戦いであまり役立てなかったことを悔やんでるのか……ミロッポ、それはきっと比較対象が悪い。バスターやグランド、スミスと比べれば、大抵の者は、あの戦場において役立たずだった。実際、この三名がほとんどの新魔族を倒したようだしな。
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