GEMINI〜宮崎QUEST〜

鷹山トシキ

第2話 地獄の研修

 親には相談出来ず、英治にだけ相談した。

 英治と浦和駅近くの喫茶店でささやかなクリスマスパーティーをした。

 ポカポカ暖かく、英治はスタッドレスにしたことを後悔したと言っていた。

「化け物退治か、面白そうだね?」

「反対されるかと思った」 

「君がやりたいならやればいいさ」

「仕事はどうなの?」 

「正社員にしてもらえないか、課長に聞いてみたけどまだほど遠いって……」

 窓の外にはクリスマスツリーが赤や青、緑とピカピカ明滅してる。店内では稲垣潤一の『クリスマスキャロルの頃には』が流れていた。

「この曲を稲川淳二が歌ったら面白そうだね?」と、突然英治が言ったので彩葉は口に含んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。

 この店のモンブランはとても美味しかった。


 家に帰って自室でテレビを見た。

 今年起きたことを振り返っていた。夏だけでなく秋になっても夏日で、彩葉も11月は半袖で過ごした。


 ユーキャン新語・流行語大賞

 年間大賞

 アレ(A.R.E)(岡田彰布)


 トップテン入賞

 新しい学校のリーダーズ/首振りダンス (新しい学校のリーダーズ)


 OSO18/アーバンベア(佐藤喜和)


 蛙化現象


 生成AI(落合陽一)


 地球沸騰化


 ペッパーミル・パフォーマンス


 観る将


 闇バイト


 4年ぶり/声出し応援


 両親には宮崎の介護施設で働くこととなったと話した。今日の昼、岡崎に相談して受け入れ先を介護施設『ひなた』にしてもらった。『ひなた』で持ってるホテルに滞在することが決まった。

 最初は反対されたが、「このままだったらお父さんやお母さんに迷惑かけるし、結婚もしたいと思ってる!」と力説したら、父親が「そこまで言うなら」と賛成してくれた。コタツがやたら熱かったので、彩葉は『中』から『弱』に切り替えた。

 小池栄子主演の『コタツのない家』は最初は面白かったが、最後は尻切れトンボだった。

 母親はワンワン泣いた。

「兵隊を見送る両親は余程ツライだろうね?『ブギウギ』って朝ドラが戦争中が舞台なんだけど、あれは面白いよ」

 その時間はバイトと嘘をついて研修をしているから見ていない。今日は刀や銃の使い方、ブーメランの使い方を学んだ。あのブーメランは悪い人間を5人倒すと怪物と戦うようになれるそうだ。


 翌晩、9時に岡崎たちと大宮駅前にいた。  

 ブリーフィングをロータリーに停めたワンボックスカーの中で行っていた。運転してるのは岡崎だ。

 セミナーの参加者は彩葉の他に4人。

 京極鯨きょうごくくじらという名前のわりにガリガリで低身長の男。彩葉と同い年の29歳。以前はカラオケボックスで勤務していたがコロナの影響でリストラされたそうだ。鯨は学生の頃に空手をやっていたそうだ。

 蹴上浩二けあげこうじというオタクっぽい眼鏡を掛けた26歳。中学校のとき壮絶なイジメに遭って以来、家にひきこもるようになり一度も社会経験はない。趣味はパソコンと思いきや、格闘技観戦らしい。

 酒匂翔子さこうしょうこという元柔道選手、年齢はヒ・ミ・ツとのこと。前職は警備員。

 周防星夏すおうせいかという27歳のポニーテールの元ヤン。趣味はバイクで全国を旅することらしい。前職は解体業。

 助手席に彩葉は『ジェミニ』の由来を岡崎に尋ねた。彩葉は酔い安いから前を選んだ。

「ジェミニマンって知ってるか?」

 彩葉は首を傾げた。

「もしかして、ウィル・スミスが出てる映画?」と、星夏。

「よく知ってんな? ボスがあの映画のファンでな?」 

 岡崎は大きなあくびをした。

「アレってスナイパーとクローンが戦うんだよな?  コロナが流行る前くらいだよな?」

 星夏はアラフォーの岡崎にタメ口だ。

「2019年だ」

 岡崎は横目で星夏を睨みつけた。

 岡崎の前職は刑事。全国に巣食う犯罪者や前科者の情報に詳しい。

「ここから歩いてスグのところにギャングのアジトがある」と、岡崎。彼はどことなく岡田准一に似てるな?と、思った。

 ギャングの名前は『スペンサー』。中でも恐ろしいのは相馬匠そうまたくみという男。ニックネームはスペンサー、冷徹なギャングの頭脳。街の裏側で操り、彼の影響力は絶大。しかし、彼の過去には暗い秘密が潜んでいるらしい。


 アパートの一室でジェミニのメンバーが集結。突如、南銀座の夜がギャング『コブラ』の影に包まれた。

彩葉:「用心して。始まるわよ」

岡崎:「仕方ないな。準備はいいか?」

星夏:「Let's do this!」

京極:「コブラとの戦いは容赦ない」

翔子:「私たちの力、見せてやる!」   

 5人はワンボックスカーから降りた。

 アジトは207号室。岡崎は以前、アパートの管理人に扮して207に潜入。電源タップタイプの盗聴器を仕掛けていた。 

 敵の数は4人。相馬以外の名前はチュウジ、ツルギ、テツヤ。

 5対4……数の上ではこっちの勝ちだった。

 

 岡崎がインターホンを押した。

『はい〜』

 ツルギって奴がやす子の声真似をしながら出た。

「ユーラシア住販の岡崎です」

『下の階から騒音の件で苦情が来ています。ちょっと開けてもらえますか?』

「少し待ってください」

 カチャリ……アクションが始まり、ジェミニの連携プレイとコブラの策略が入り乱れ、アパートは戦場と化す。彩葉の一撃、岡崎の的確な射撃、星夏の驚異的な戦術、京極の冷静な指揮、翔子の素早いアクションが交錯し、南銀座の夜に轟音が響き渡る。

 浩二は怖気づいてワンボックスカーの運転席で待機してる。免許は持ってるがペーパー、岡崎はイザというときに助けに来るよう浩二に命令した。

 アパートのベランダからゴミステーションへと飛び降りたドレッドヘアを翔子が待ち受けた。ドレッドヘアは折り畳みナイフをダウンジャケットのポケットから抜いて襲いかかってきた。翔子は水色のゴミ箱の蓋を盾にして防御した。

「グググ……」

 彩葉がベランダからブーメランを投げて、ドレッドヘアの頭にヒットさせた。鮮血が迸った。

「テツヤ!」

 ツルギがドレッドヘアの本名を叫びながら本棚の陰からトカレフってヤクザがよく使うオートマチック拳銃を撃った。しかし、岡崎は鍛え抜かれた元刑事だ。彼が撃つより早く、ベレッタM92を撃ちツルギの脇腹に炸裂させた。

 チュウジは星夏とトイレで戦った。星夏のカンフー技に圧倒され、トイレの水にゴボゴボと顔を突っ込まれ溺死した。

 スペンサーはニックネームの由来となったスペンサー銃を天井裏からぶっ放した。

 バンッ!!リビングの壁に突然穴が開いて、巨漢が隣の部屋から現れた。鯨は裏回し蹴りを巨漢に喰らわせ倒した。

 鯨の肩にスペンサーの撃った流れ弾が炸裂した。

「京極!」

 彼に惚れていた星夏が啞然としながら叫んだ。

 スペンサーは天井裏から飛び降りると、アパートの外に一目散に逃げた。

 キキッ!ブレーキ音が響いた。

 駆けつけた浩二がスペンサーを轢き殺したのだ。

 木偶の坊だと思っていた浩二の活躍に彩葉はおったまげていた。

 鯨は病院に搬送されたが助からなかった。



 

 

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