第3話:最強の初級スキル

 腕の一つを断ち切られた悪魔熊デーモンズベアーはその痛みに狂いそうに喚きながらも、残りの腕を振るおうとするも、リオスの短剣捌きで全て斬り落とされ、脳天をかち割られ、倒れた。

 しかし、その隙をすかさず、血狂大狼ブラッディヴォルフが襲いにくる。

 血狂大狼ブラッディヴォルフ。血のように赤い体毛を持つ大狼で、生きた血肉を求め、彷徨うほどの貪食な獰猛さを誇る。

  リオスはそれでも、焦らず、手を翳し、唱える。

空調エアーコントロール着火ファイヤースターター

 その手から空気が噴出したかと思えば、噴炎に変わり、血狂大狼ブラッディヴォルフを燃やし尽くした。

 ミーナスは彼の魔法を見て、驚く。

「ありえない…、零級魔法である空調エアーコントロールで空気を集めて放ち、同じ魔法レベルの着火ファイヤースターターの微かな火を火炎に変えるなんて。」

 空調エアーコントロール着火ファイヤースターターは共に生活でしか応用出来ない零級魔法の分類に入るものであり、前者は自分が触れる空気を操り快適な温度と湿度の空間を作り、後者は火種を燃やす程度の小さな火をつける。

 リオスはそれらの魔法を上手く組み合わせ活用したということになる。

「でも、あの威力はどうやったて、ただの零級魔法じゃない。」

 ミーナスが疑問に浮かぶが、その彼女の背後に鎧を着た小鬼王ゴブリンロードが剣を振るい、襲い掛かる。

 小鬼王ゴブリンロード小鬼ゴブリン小鬼人ホブゴブリンから進化し、戦闘経験豊富で軍略に優れ、その一匹で小鬼ゴブリンを含む魔物の群れを率い、一国を壊滅させ、民衆を殲滅させた実力を持つ。

 ミーナスが首を切断されそうになるも、それに気付いたリオスはまるで酔っ払いの千鳥足の足捌きで重心移動をし、素早い歩法で小鬼王ゴブリンロードとの間合いを詰め、目にも止まらぬ速さですれ違った瞬間、その魔物は胸に赤い血を流し、倒れた。

 気付けば、リオスの手中には小鬼王ゴブリンロードの心の臓が握りつぶされていた。

 その一部始終を見たグロリアは見覚えがあった。

「あれは盗賊シーフの初歩スキル、愚者の足取りフールステップからの盗奪スナッチ!?」

 愚者の足取りフールステップ。それは単に街中の群衆の中で奇抜で、地味な歩法で相手に近寄り、その懐から物を奪うスリのスキルだったが、リオスはそれを瞬間的な攻撃速度と心臓を狙う一撃必殺のスキルへと昇華したのだ。

 その後ろから邪眼大蛇イヴィルアイサーペントが単眼から怪しい光を集め放ち、リオスを包み込むと、彼の肌は徐々に石肌を帯び、硬くなり始めた。

 邪眼大蛇イヴィルアイサーペント。蛇髪と大きく赤い単眼を持つ白い大蛇で、石化や混乱などの様々な邪眼能力を持つ。

 あわや、リオスが石と化しそうになったその時、彼は呟く。

「誇り高きの中でも慈悲深き女神龍よ、我に少なからずの加護を…一条の光ワンス・ア・ライト。」

 リオスは身体中に淡い光を纏うと、石肌は砕け散り、元の身体に戻った。

「馬鹿な、一条の光ワンス・ア・ライトは夜道に照らす程度の奇跡でどうして、石化の呪いを解呪できるんだ。」

 一条の光ワンス・ア・ライト。信仰と精進の力を糧にし、奇跡を行使する聖術の初歩的なスキル。実際は暗い修道院で子供のトイレで一緒について行く程度に使う安い奇跡のはずが、どういう訳か強大な魔物の強力な呪いを浄化していた。

 邪眼が聞かなかったことに驚いた邪眼大蛇イヴィルアイサーペントは再び、単眼に怪しい光を集め放とうとするが、リオスは再び何か呟いた。

「亜空妖術、神隠しの廻廊。」

 前方の何もない空間から沈むように何処かに消え、邪眼大蛇イヴィルアイサーペントが辺りを見回したと思えば、その魔物の上空の何もない空間から這い出るように落ちて現れ、短剣で頭を捌き落とした。

 瞬く間に城壁を陥落させた魔物たちを倒したリオスに対して、ミーナスはあり得ないと思うような者を見ているかのように彼を恐れた。

「あの変な短剣や生活にしか役に立たない零級魔法や初歩的なスキルであの最悪な魔物の群れを倒せるなんて、ありえないわ!」

 リオスはオルトの方に向き、手を翳し、先程の唱える。

 すると、オルトの折れ曲がった四肢は真っ直ぐに完治した。

 それだけでなく、身体中の怪我や傷も治っていた。

「ありがとう! ありがとう!」

 リオスはオルトの無事を確認すると、崩壊した城壁から外に向かった。

「待て、リオス!?」

 グロリアはリオスを追い掛ける。しかし、彼女はその選択を後悔した。

 何故なら、城壁の先で目撃したのは夥しい以上の数の魔物の群れと、

 その絶望的な状況を前に今までのあどけない少年の優しさを捨て去り、強く歯軋らせ、獰猛な目付きを掲げ、悪辣な笑みを見せたリオスの姿だった。

凶化ベルセルクレイ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る