第313話

お猿さん(豊臣秀吉)との会見の後、トーレスさん(コスメ・デ・トーレス)にキリスト教宣教師たちの国外追放を思い止まる様に伝えた事を告げた。

あれ?伝えたと言えるのか?・・・「宣教師たちへの追放令の撤回を求めて」てことでの会見だったので間違いないはず!!

さて、取り合えず役目は果たした。

そして、俺宛に書状が届く。

お猿さんからの書状で、謝罪とも感謝とも取れる様な内容で国外に連れされれた日本人奴隷の買戻しの協力に感謝する内容が綴られていた。

お猿さんの対応を一応探らせると、国内向けには惣無事令そうぶじれいというものを出しており、その中には戦は勿論の事乱捕りの禁止も含まれており、国内で戦によって起こる奴隷売買は原則禁止となっているが、特に取り締まりも無いし、個人で口減らしの子売り等は未だに行われており、それが闇で売られていく流れは未だ止まらないようだ。

お猿さんはスペインのお偉いさんとイエズス会のお偉いさんに日本人奴隷の売買を即刻停止するよう命じたそうだ。

そして、「すでに売られてしまった日本人奴隷を連れ戻すように。それが無理なら助けられる者たちだけでも買い戻す」と伝えたそうだ。

うん!やることはやっているようだ。

残りは俺が立ち上げた会社で探し出し買い戻す予定だ。

出来るだけ助けたいし、既にその指示出して動いて貰っている。

日本人奴隷問題は一朝一夕で方の付く話ではないので今後の努力だな。

さて、追放令の方は当初対応していたコエリョさんという人物はお猿さんの不信任ということで、別の者が担当する事となった。

アレッサンドロ・ヴァリニャーノという人物で、天正遣欧使節の随行員として知り合い、彼がインドのゴアまで同行したのでその間に面識を得て多少は話す様になったので見知った人物ではあるが、トーレスさんやオルガさん(ニェッキ・ソルディ・オルガンティノ)程仲良くはない。

しかし、カブラル(フランシスコ・カブラル)の爺を日本より追い出す原因を作ってくれたことには感謝しているのでそれなりの面識といった感じだ。

さて、そのヴァリニャーノ氏が日本に舞い戻り折衝に当る事となったのであるが、何故か直ぐに許されたらしい。

そして、この世界線では伴天連追放令が今回は撤回され行使されなかったようだ。

イエズス会の宣教師たちは戦々恐々としていたらしいからホッとしたかもね。

しかし、九州の一部では元から在った仏教寺院を破却しその地に教会を立てるといったことを行った例も多く、その件については追及されて厳しい統制下に置くことを言い渡されたそうだ。

そうそう、追放令は一度交付され、実施前に撤回されたのだが、問題が露見した。

お猿さんが宣教師たちに覚書を送り渡したらしいんだけど、その内容には「人身売買を禁止する」という事が抜け落ちた物だったという。

え?そこが重要だよね?と思うよね。

そう、これは通訳の問題だった。

通訳の者が訳した追放令の内容には無かったのだ。

何故そうなったかといえば、そもそも、通訳は商人側の意思を尊重する。

雇い主だから仕方ないけどね。

ただ、公文書を捻じ曲げて人身売買の禁止を有耶無耶としようとしたのではないかと考察出来るが、通訳した者は行方知れずになっていて真相は闇の中だという。

笊法なのではあるが、日本側は明文化しているのに、相手さんは通訳のミスとでも言って言い逃れる予定だったのかな?

そう言えば、追放令まで出した本人(豊臣秀吉)はキリスト教についてどう思っているのか疑問に思う行動をしているとも報告が来ていた。

何をしたか気になるだろ?

何とロザリオとポルトガル服を着用しご機嫌で動き回っていたそうだ。

あ~ファッションとして取り入れたんだろうな~

前世は令和まで生きた俺は理解できる。

家は敬虔な仏教徒なのに十字架のペンダントのネックレスをはめた若者なぞごまんと居た。

謎の英語で聖書の言葉が書かれた謎Tシャツを着て歩く若者も居た。

敬虔なキリスト教とかと思えば、何それ美味しいの?レベルで、意味も解らずにファッションとして取り入れていた。

外国から来たお登り観光客等が訳の分からない謎文字・謎漢字といった日本語で書かれた面白Tシャツを着ているのと同じ感覚だろう。

この時代の者にとっては訳の分からない行動に見えるらしいが、時代の先取りだと俺だけは気が付いたぞ!流石は天下人!!

おっと、お猿さんの書簡には最後に京の北野で大きな茶宴を開き、多くの者に茶の湯の素晴らしさを広めると共に皆をもてなしたいので是非とも参加して欲しいというお誘いが最後に書かれていた。

しかも、「長さんは午後茶の創始者として知られておるで、亭主としても参加して欲しいので、場所を用意しており候」だってよ・・・

何?茶を飲みに行く側ではなくもてなす側?

え~~~~何それ?


「長門守・・・」

「如何されました?」


俺はそのままお猿さんの書状を彼に渡した。

読み終えてから俺は北野の茶宴について話すと、名誉なことと言い喜ばれた・・・

あ~~そうだよね~茶の湯の一大イベント、北野大茶宴だよね~これ。

その場で自分の茶でもてなすなど茶狂いにとっては名誉な事だろうよ。

いや、長門守も喜ぶと言う事は茶狂いでなくいても名誉か?

それから、何処から聞き付けたのか、貞清(神屋宗湛)と茂さん(嶋井宗室)よりおめでとうの書状が届く。

そして、茂さんからは龍骨陶器の件について相談された。

うん!恐らく相談というよりも今回の茶宴の俺の茶席で使用して欲しいのだろう。

取り合えず、ティーセットを300組(ポット1、カップ一式5が1組)を用意して貰う事とした。

それから、色々準備しないとね!!

貞清からはモンブランケーキを是非ともまた食べたいので宜しくだってさ~

そうそう、珍しい人物からも書簡が届いたよ。


★~~~~~~★


今を時めく茶の湯界の第一人者、茶聖・千宗易は豊臣秀吉より丸目蔵人を亭主として北野の大茶宴に招いたことを正式に伝えられた。


「宗易」

「何で御座いますか?」

「解っておるな?」

「はい、殿下は丸目様が負ける事を見たいので御座いましたな」

「その通りじゃ。茶の湯というお主の最も得意とする場を用意したのじゃ!勿論」

「負ける気は御座いませぬ!!」


意気込みが先行して声を珍しく大きくしてしまい、殿下に対して意気込んでしまった。

殿下も驚かれたようだが、私の心意気を酌んで下さったようで、「よいよい!期待しておるぞ!!」と言われ、私の用意した茶を啜り、茶請けを一口食べて、また茶を啜り、満足そうに「うみゃ~」と言われた。

私はその夜、早速、丸目二位様に書簡を認めた。

次節の挨拶などもあるが、内容は至って簡単。


丸目様の茶を楽しみにしている。

私の茶を是非とも賞味いただきた。


と言う事を記した。


「実に楽しみで、待ち遠しいことよ」


そう呟くと自然と笑みが零れた。


〇~~~~~~〇


北野大茶宴開催が間近です!!

さて、本文中にて書かれている「人身売買を禁止する」が抜け落ちた件は史実で実際にあった出来事で、秀吉は勅令を無視した形で取引自体は続きました。

イエズス会宣教師を通訳やポルトガル商人との貿易の仲介役としていたようなのですがそこら辺は少し暈した形で本文中は纏めました。

さて、「乱捕り」というのは何度か本文中で使用した言葉ですが、「乱妨取りらんぼうどり」というのが本来の言葉です。

戦いの後で兵士が人・物などを略奪することを指します。

戦には自由参加的に人々が集まり、手弁当で味方する者が多かったようですが、実はこの乱捕り目的で参加する者が多かったようです。

よく資料などで1万~5万とか参加人数が何でこんなに幅があるの?と思うものが多いと思いますが、実はこの自由参加者を含める含めないで大きく違う訳です。

「乱捕り禁止」を言い渡すと極端に集まる人数は減るので戦国期は特に当たり前の様に行われた行為で、戦の作法とまで言えるほどの暗黙の行為だったようです。

戦国時代で最も有名な以外な大勝利と云われる桶狭間の戦いですが、実はこの乱捕りが大きく関わっていると言われます。

歴史研究家に見解を聞くと「民家への略奪行為で油断する今川方を急襲したからその隙を突いて信長が勝った」という人もいる位です。

徳川家康が「今川軍が略奪に勤しみ、油断していたことが敗因」と証言した資料もあるとか・・・

この文化は大坂の陣でも行われたと云われています。

伊達政宗の右腕とも云われる片倉景綱の息子、片倉重長。

「鬼の小十郎」等とも云われた彼も大坂の陣で乱捕りして阿梅おうめという女性を攫って来ました。

何とこの女性は真田信繁(幸村)の三女で攫った時は解らなかったようですが、後に解り、嫁にしています。

正室が死去すると継室に収まったと云われますので中々に因果な話ですね。

真田信繁の姉婿である小山田茂誠が養女に迎えてから片倉家に輿入れしています。

真田信繁は徳川家に弓引いた人間とされましたので仕方ないですが、阿梅の縁で弟の大八(片倉守信)、妹の阿菖蒲は片倉家に身を寄せたそうですから何が功を奏するか本当に解りませんね。

次回は大茶宴に突入して行きます!!

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