2年半の鼓動

@tomomiho

第1話

 4番目は、小さな丸い目を見開いて、じっと私を見つめていた。

 一度仮死状態になったのだから、もう力はそれほど残っていないだろうと思っていたが、そっとくるんで暖かくしてあげた布の中で、骨皮だけの細い4つの脚を腹部に寄せ、伏せた状態でまるくなっていた。

 同じ視点で見守りたかったので、私も床に布団を敷いて横になった。しばらく互いに見つめあっていたが、私がウトウトし始める。それでも時折目をやると、やはり4番目は私をじっと見つめていた。

 何を考え、感じているのだろう。

 苦しくて辛いのだろうか。

 私に何か思うことあるのだろうか。

 目をそらすことなく、私をじっと見つめ続けている。さっきまで、力無く目を閉じて、体も硬直していたのに。


 シーリングライトはつけたままだったが、数分程眠ってしまった。はっと目がさめた時、4番目が、ぎこちなくごそごそと動いていた。だが一瞬、歩こうとする動きに力が入り、はたと横に倒れ込んだ。

それでも、ゆるやかに腹部は鼓動とともに上下していた。呼吸をするように目を少しだけ見開き、ゆっくりと力が抜けていった。

 そのまま、全てが停止した。

 ついに去ってしまった、という事実に、私は身勝手で無慈悲なことに、今度も悲しみよりも安堵が勝っている。病と老いの苦しみから、4番目も私も解放されたのだ。

 痩せ細った体には、大きな腫瘍が腹部にいくつもできている。毛並みは艶やかで美しく、かつての俊敏で快活な姿の名残りはあった。


 全ての生き物に各々の個性があり

 自由を強く求め

 病の苦しみ

 訪れる老い


我々ヒトと何ら変わらない人生を、四番目だけは2年半の長さで通過していった。


しばらくすると、4番目の目は閉じていた。

 

 「さようなら、4番目。」




 


 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2年半の鼓動 @tomomiho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る