第17話

あれから2日後、柚花はとあるオープンカフェにて人と待ち合わせしていた。相手は小町。

なんと小町は本気だったのだ。そして即、実行に移したのである。

昨日の夜遅くにスマホに小町から突然電話がかかってきた。寝ようとしていた矢先になったスマホに出ると、あの時バイト先に現れた小町と名乗った女性からで眠気が一気に吹っ飛ぶくらい驚いた。まさかあの小町から本当に電話がくるとは思ってもいなかった。しかしあの時は小町の連絡先の書かれたメモはもらったが、自分の番組は教えなかったはずなのに何故電話がかかってきたのか不思議に思った柚花は思わず尋ねた。すると小町は悪びれた様子もなく店長に聞いたら簡単に教えてくれたと答えた。それを聞いた柚花はあの店長には個人情報保護法という法律があるのを知らないのか!?と腹が立った。

そんな柚花の気持ちが分かるはずもなく、小町に明日このカフェで2時に待ち合わせしようと言われ、思わず『は、はい…』と返事をしてしまった。いきなりで強引の約束とはいえ「はい」と答えた以上は守らなけれと律儀に待ち合わせ場所にやって来た柚花だったが、約束の時間になっても一向に小町は来ない。

「時間、間違えたのかなぁ…。でも確かに2時だっ

 て言ってたよね?」

呼び出した張本人が約束の時間を過ぎても現れる気配がまったく無いので、徐々に不安になり独り言を言いながら腕時計に目を落とす。針は2時をとっくに過ぎ、40分に差し掛かろうとしていた。


もしかして、急に具合でも悪くなったとか?まさか来る途中事故に遭ったりしたんじゃ!?


不安から心配に変わろうとしていた丁度その時スマホが鳴った。おそるおそる出てみたら何と小町本人からだった。病気どころか事故に遭った様子さえ窺えない元気な声で

『あっ、柚花ちゃん?あのね今日どうしても外せな

 い用事があった事をあたし、うっかり忘れててさ

 ぁ。来れそうにないんだわ、本当にごめんね。誘

 ったのはあたしの方なのに来れなくなって、マジ

 ごめんっ。今度絶対埋め合わせするから許して!

 じゃあそういう事なんでまたねぇ』

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。来れなく

 なったって…」

小町は自分の用件を伝え終わると、柚花の質問の声も聞かず一方的に電話を切ってしまった。

散々待たされた挙句突然のドタキャン電話にどうすることもできず、柚花はただスマホを握りしめたまま呆然とその場に立ちすくむしかなかった。そうしていたら後ろから声を掛けられた。

「あれ、柚花ちゃん?どうしたの?柚花ちゃんも誰

 かと待ち合わせしてるの?」

「あぁ、斉藤君!うーん待ち合わせしてたんだけど

 、さっき来れなくなったって電話があって。斉藤

 君こそどうしたの?」

「俺も知り合いに呼び出されて、ここで待ち合わせ

 てるんだ。バイト以外で会ったのって初めてだか

 ら、何か不思議な気分だね」

「本当そうだね」

「友達か彼氏と待ち合わせしてたの?」

「彼氏じゃないけど、友達というか顔見知りという

 か…」

「ふーんそっか、よく分からないけど残念だったね

 。それでこの後どうするの?」



「あらあら、なかなか良い感じじゃないの!?お2

 人さん」

カフェの見える木陰から目立たない様に黒いスカーフで顔を隠し、サングラスまでかけた全身黒ずくめの姿だが誰よりも物凄く目立っているがその事に気付いていない小町が双眼鏡で2人の様子を観察していた。後日、今度は2人がいない時に店に出向いた小町は店長を捕まえて柚花の連絡先を聞いた。すると店長は小町の美貌に見惚れあっさりと教えてしまったのである。柚花の連絡先を易々と聞き出す事に成功した小町は、善は急げとその日の夜に早速柚花に電話を掛け、待ち合わせの約束をした。そして待ち合わせの約束の時間にわざと現れず急にドタキャンする。また純にも少し遅い時間に柚花と同じカフェに呼び出し、ドタキャンされた柚花と偶然に出会う様に仕組み自分は木陰から2人を見守るという恐ろしく単純な作戦を立て実行したのである。

「お母さん、あのお姉ちゃん真っ黒くろすけで何か

 覗いてるよぉ」

「シッ、見ちゃいけません!!」

と言う親子の会話にも耳を貸さず、ひたすらあらゆる角度から2人の行動を一つも見逃がすまいと真剣に観察していた。

「我ながら見事な作戦を思い付いたもんだわ。しっ

 かし会話がまったく聞こえないとは盲点だった。

 これから改善せねばならん1番の問題だわ」

ブツブツ独り言を繰り返す小町の姿は、周りの人達から見たら完全に不審者そのものだ。



「うーんそうだなぁ、1つレポート書かなきゃいけ

 ないから資料探しに駅前の書店にでも行こうかな

 ぁ」

「書店か、俺も欲しい資料があるんだよなぁ。今度

 の休みにでも行ってみるか。じゃあ気を付けて、

 またバイトで。」

「うん、じゃあね斉藤君。またバイトでね」

と席を立って手を振りながら帰って行く柚花に軽く手を挙げ別れた純は、

「それにしても遅いな小町の奴。自分から呼び出し

 といて…バイトに間に合わなくなるじゃないか」

腕時計と睨めっこしている純を尻目に、2人を観察していた小町はあっさりと手を振って別れてしまった2人の光景に苛立ちながら

「キィーッ!!何でそこであっさり別れんのさ!?

 2人で仲良くランチを食べようとか映画でも観に

 行こうとか誘うくらい気を利かせんか、純の根性

 ナシが!もう、せっかくあたしが徹夜で考えた作

 戦が失敗したじゃないの。くそぅまた新たな作戦

 を考えねば…。絶対負けないもんね!!」

怒りの矛先を何も知らない純に向けながら

「まずは会話を聞く方法を考えなきゃならんな。あ

 ぁこんな時マンガやアニメでよくある発明品があ

 れば楽勝なのに…。あれ実用化したら絶対儲かる

 と思うんだけど…」

ヘッドフォンをしながらその場から立ち去りながらもう新たな作戦を考え始めた小町だが、完全にテレビの観過ぎだ。

それからというもの小町による作戦というより罠といった方法で純と柚花は、バイト先の他に普通に街を歩いてても偶然に出会う機会が急激に多くなった。書店やレンタルDVD屋で会うだけでなく友達と映画館に行った時も2人は鉢合わせになった。

その時は2人とも物凄くビックリした。あまりにも出会う回数が急に増えたので、段々純は、さすがにこれはおかしい!と疑い始める。


今まで会う事が無かったのに、急に会うのが増えるなんて偶然にあるのか!?絶対何かがおかしい。まるで誰かがわざとそうなるように仕組んでるみたいだ。一体誰がそんな事を?…まさか小町が裏で手を回して…、いや簡単に小町のせいにするのはあんまりだ。それにいくら小町だってそこまではしないだろう。小町と柚花ちゃんはまったく面識が無いはずだしな。やっぱり俺の考え過ぎなのかな?


疑問が残るままだが、自分の考え過ぎだと思い直した純だったが、そのまさかが的中しており小町が勝手に柚花に会いに行き2人が知り合いになった事など知る由も無かった。純の思いとは裏腹にくだらない作戦を思い付いては実行している策士家の小町といえば、自分の考える策略に毎回見事に引っ掛かる2人の姿を毎度ストーカーと呼ばれてもおかしくないくらいに変装してつけ回していたが、良い所までいくのに最後の最後で上手くいかない事に一喜一憂していたが段々不満でいっぱいになっていた。


あと一歩のところまでいくのに、どうして上手くいかんのかっ。鈍感じゃないの純は!?


憤る小町の作戦は徐々にエスカレートしていく。しかしこの行動がエスカレートしていった結果、最も最悪な展開を招いてしまうとは誰一人想像もしていなかった。























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