気まずい休日のはじまり

『今日の10時ごろ、お前ん家に行く。』


土曜日。

友崎からのメッセージの振動で目が覚めた。

…あんなやり取りをした後で平気な顔して会えとか、正気の沙汰じゃない。

あまり会いたくない。


              『無理。』


『あれに関してはすまなかった。』


は正直俺のほうがまずかったところもある…気がする?

だから『謝らなくていい』と。そう返してから、適当な理由で断るつもりだった。


『あと、もう着いている。』


…始めのメッセージが送られた時点で、時刻は10時過ぎ。

なんにせよ顔を合わせなきゃいけないのは確定事項なようだった。



─────────────


「すまなかった。オレが悪かった。」

玄関を開けた瞬間、すぐさま友崎に頭を下げられた。


「いや、ちょ…」

「お前にもお前なりの考え方があったことは理解してる。」

頭を下げたまま、友崎は続ける。


重ねて言うが、ここは玄関だ。


…おいここ玄関だぞ。

休みだしそれなりに通行人とかいるんだよ…!

「でも、お前が自分のことをああいう風に言うのは、いくら何でも…!」

「おい、だから…!」


───何かしら、あれ。

───男と女でしょ。どう見ても痴話喧嘩じゃないかしら。朝から仲睦まじいわねぇ。


「~~っ!!いいから入れ!そして黙れ!!!」




「…すまんかった。」

「もういいって謝らなくて。とりあえずあの時は俺も悪かったから。」

言って、俺はスポーツドリンクを用意する。


「あぁ、飲み物の用意はしなくていいぞ。これからすぐに出るからな。」

「あ?じゃあなんで来…」


…いや。

 きっとこいつは、昨日のことを謝るためだけに、わざわざ自分の用事より優先して俺の所に来てくれたんだな。

 なんというか、我ながらこんなんで嬉しく感じてしまう自分が少しばかり恥ずかしい。

…いや、それとも世の友達関係というのは本来こういうものなんだろうか。

なんにせよ、俺はいい友達を持ったな。



「それなんだがな?昨日あの後いろいろ話し合って、急遽お前も巻き込む形で決まった作戦があるんだ。そう。確か…『ドキドキ夏デート!!ラブコメオーラで誘い出せ大作戦』とか言ったか。」


「あ?」


「オレにもよくわからんが、オレと志摩がデートっぽいことをするのが、今後の作戦の役に立つ。…と、フジカ…ちゃん?が言い出してな。」


あんにゃろぉ…。

文句の一つでも言ってやろうと、俺は不二華のトーク画面を開く。

すると

『今日の作戦は絶対このコーデで行くこと!!!』

と、散々服装をいじくられた時の写真の一つが貼ってあった。


…いつから考えられていた作戦なのか、その服装は割と前に不二華にむりやり持ち帰らされていたヤツで、きれいなままタンスに保管されている。

そのままタンスの養分になればよかったのに。


「…志摩?やっぱりこの作戦、嫌だったか?」



…考えろ、俺。

速攻で返答しないと分岐する系のイベントだぞこれは。


ここで全力で「嫌だ!!!」と拒否る。

昨日のこともあって、友崎とさらに溝ができる。最悪二度と話せなくなる。

さらに作戦不実行により、しばらく奴等にバツとして着せ替え人形にされる。

まともな交流がほとんどなくなり、学校生活が孤独になる。

寂しくて死ぬ。



…いやこれは歪曲しすぎだろ。

もう一度考えよう。


やんわりと拒否する。

作戦不実行により、着せ替え人形にされる。

さらに作戦不実行の結果、最高院に対する対抗策が分からず、結果的に茜崎も蒼真先輩もやばいことになる。

最高院が最悪何をやるかわからない。下手したらみんな死ぬ。



…おかしいっ!

明らかにこの思考はおかしいんだっ!!

分かってるはずなのに!

これも最高院の仕込みかっ!?

…いやそれはないわ。断じて違うはず。



…そう。いきなり家に押しかけてきて唐突にデートなんて言われたら誰だって混乱するにきまってるんだよ。


うん。

だから。


「友崎。」

「…志摩。大丈夫か?」

「ああ、俺は全然大丈夫だ。」


だから、さっさと実行するぞ。

デート作戦。


「そ、そうか。えっと…オレはいいと思うぞ。似合ってるな、清楚コーデ…だったか?」

「そういう言葉は将来付き合った人のためにとっとけってば。」



…あくまで友達のためにな!!


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