ソイツの名は

赤いポニーテールが、昼休みの屋上に揺れる。

「サイコー君ホントカッコよかったよねぇ~!!流石全部の運動部兼任してるだけあるっていうか、もうあの動きは全部満点じゃ足りないぐらいだよ~~!!」


青く美しい長髪も風になびく。

「ええ………運動だけでなく、全教科でも満点で、それでいてとてもやさしい……本当、今すぐにでも結婚したいぐらいです。」



「ふ~…ごっそさんでしたっと。」

推し語りをする女子二人組の向かい側で、男子と元男子は昼飯を食い終わる。

恋愛会議が始まると同時に二人の女子は推し語りを始め、それを尻目に友崎と志摩は昼を食べ終わる。あとはぐだぐだと昼が終わるまで話を聞き流す。それがいつものルーティーン。


だが、今は違う。


「なぁ二人とも。」


「どーしたの?」「何でしょうか、志摩さん。」


正直、志摩は焦っていました。

進展が無ければ、またあの着せ替え人形祭りを放課後やらなければならないからです。

だからこそ、この恋愛会議と称した「最高院大好きおしゃべり会」に終止符を打つと同時に、決定的な情報を集めなければならないと。


故に


「最高院ってさ──────」


その名を聞いた途端二人の少女が口を開き、自らが見聞きし体験した最高院の武勇伝を我先にと語りだそうとする。


そんな少女たちの



「─とっくに付き合ってる女子いるらしいぜ、しかも複数。」


地雷を踏み抜くことにした。




『なんですってーーーー!!!???』


…という声が屋上に響くことを覚悟していた二人。

発言した志摩自身も、詰め寄られることを予想して既に防御の姿勢をとっていた。


しかし。


「え?ええそうですよ?」

なんの戸惑いもなく、蒼い髪を揺らして答える女子。


「…は?」


「そりゃそうでしょー?だってあのサイコーインくんだもん!」

さも当然かのごとく答える赤い幼馴染。


「っ……えっと、お前ら?」

日本は一夫多妻制じゃないぞ、とか

ここは女を侍らせているところに怒るところだろ、とか


そんな言葉が喉まで出かかって、同時に目の前の女子の異様な空気に押し込まれる。


「そんなサイコーインくんと一緒にいられるだけで、あたしたちは幸せなんだぁ。」

「ですから、他の誰かと一緒にいたり」

「仮に愛し合っていたりしたとしても」



「わたしたちは────」




と、ここ友崎から待ったが入る。

「んでも変な名前だよな、って。」


…。


「アハハ~…それはちょっとわかるかも。」

張り詰めた空気が霧散する。

「ちょっと茜崎さん…。最高院さまが気にしていることをあまり言うのはよくないんじゃないです?」

「え~でも~…。あれ、どしたのシスター?体調悪い!?」


「…っいや、問題ねぇ・・・・・・。」

「顔青いぞ志摩。まぁあれだ…オレが保健室まで送ってくから、お前らは心配すんな。」


と、そんな感じで志摩と友崎は屋上を離れた。

…もちろん素直に保健室で作戦会議をするわけもなく、そこら辺の自販機近くで休憩をとる。


「さっきのあれ…見たか…?」

志摩は喉を潤し、まだ青白さの残る顔で返す。

「見たっていうか感じたっていうか…やばかった。迫力。」


「自分の好きな人がほかの女子といちゃついていても何も思わないなんて…散々好き好き言ってる割に…なんていうか、異常だよな?」


「だな。こんなん恋愛というより崇拝の域だ。こうなると、案外俺が前に立てた仮説が正しかったりするかもしれねぇぜ?」


「仮説…あぁ。「だいしゅきビーム!!」だったか?」

友崎はからかい交じりにそう口にした。


「そのセリフはなんかハズイからやめろっての。」

調子が戻ってきた志摩は友崎を小突いた。


「はは。んでも志摩、あの段階では〈相手が自分を好きになる能力〉~とかぬかしてたろ?現実的か非現実的かはおいといて、今見た蒼真先輩たちの様子と、ちょっとかみ合わなくないか?」


「超能力云々の予想はぶっちゃけただの冗談だったし、ここまでやばい状況になるなんて思ってなかったんだよ…。まぁともかく、疑問が増えて、。今回はそれでいいだろ?」


「…ま、それでいいか。」


ここまで学校を無茶苦茶にしておきながら、記憶の中には顔も声もおぼろげにしか残らない、あの男の名。

「最高院 イカス」

友崎に、自身の女子の好感度を聞いてきた異様な男。

ふざけた名前に、ありえない人望、そして能力。


相手の正体がまたひとつはっきりした。

それでも、彼らはまだ届かない。


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