街へ 2024/01/28

 今日、街へ行くことにした。

 何年ぶりだろうか。

 何度も行きたいと思っていたけれど、どうしても体が動かなかった。

 前に街に行った時の記憶が、私を臆病にさせた。


 だけどいつまでも家に閉じこもったも仕方がない。

 私は勇気を出し、再び街へ行くことにした。


 街に向かいながら前回のことを思い出す。

 数年前のことながら、今でも鮮明に思いだせる。

 ずっと頭から離れなかったあの光景。


 あの日私は町をぶらついていた。

 特に理由は無い。

 なんとなくだ。


 だけど街に着くと、私に気づいた人達がキャーキャー歓声を上げ始めた。

 私は突然の事に戸惑い――

 いや、正直に言うと気分がよかった。

 だってあんなに注目されることなんて、生まれて初めての事だから。


 だから調子に乗った。

 みんなから見えるように、大きな道を歩いたり、たまに歓声に応えたりした。

 そうすれば、みんな喜んでくれたからだ。

 たまらなく気分がよかった。


 それがいけなかったのだろう。

 私が注目を浴びることを気に入らない人たち――いわゆるアンチがいることに気が付かなかった。


 そのまま私は調子に乗って街を歩いていると、ふと周りに人がいないことに気が付いた。

 周りを見渡しても誰もいない。

 歓声どころか、物音一つしない。

 まるで最初から誰もいなかったかののように……

 何が起こったのかわからず、恐怖に支配される。


 その時だった。

 何かが体にぶつけられた。

 アンチは私に暴力を振るってきたのだ。


 誓って私は何もしていない。

 でもアンチには関係が無かったのだろう。

 見えない所から、何かを何度もぶつけられた。

 私は抵抗をしたが、それでも暴力は止まず、泣きながら家に帰ったのだ。

 今思い出しただけでも、身震いがしてくる。


 でも私は決めたのだ。

 アンチたちと対決すると。

 ベストな方法じゃないことは分かっている。

 でも悪いことをしていないのに、やられっ放しなのは許せない。


 私が街に姿を現すと、みんなが私に注目しているのが分かる。

 だけど突然のことで驚いたのか、私を見て固まっていた。

 歓迎の声が無いのはちょっとだけ残念だ。


 だけど気にしない。

 だって今回の目的はそうじゃないから。

 こうしていれば、またアンチが姿を現すだろう。


 それまでは、この光景を楽しむことにしよう。

 みんなが私を《見上げる》光景は何物にも代えがたい。

 私はこの光景を守るために戦うんだ。


 私の決意を感じ取ってくれたのか、一人の女性が私を歓迎する声をあげてくれた。


「キャー。怪獣よー」

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