Vol:15 かつて
「変わらないな。」
5歳頃の記憶と寸分違わず、全く変化していない
当時、そのものの景色を前に、竜司は、呟いた。
確かに、彼の過去を、100%再現されたモノになっている。
たったひとつの違和感すらも、抱かせない。
これは余談だが、夢の世界では、
少しでも、相手に異変を察知されると、
瞬時に、その存在を怪しまれる。
ウイルスや細菌等が体内に侵入してきた、
異物だと、即時バレに繋がってしまうのだ。
例えば、現実世界で住む自宅で、使われている
家の材料が、本来ならば、コンクリート製だとしよう。
しかし、夢では、木製に、すり変えられている。
相手方は、普段の意識下では、どんな原材料で
作られているのかさえ、忘れているだろう。
だが、例え、知らないでいても、
無意識の下では、どういう素材なのか、
詳細まで、キッチリと把握している。
「ここは、現実の世界ではない。」
すぐに、看破されてしまうのだ。
相手の夢に潜入する際、ほんの些細な違いでも、命取り。
リスクの高い、恐ろしい魔物達が潜むダンジョンだ。
某異世界モノの話に喩えるならば、
Sランクの最難関クラスの任務といっていいだろう。
竜司の場合、ターゲットの調教。
しかも、内容は特殊で、かつ、
限られた人のみにしか知られていない、
更に難易度が跳ね上がっている。
極秘オペレーションの仕様となっている。
最終的に、標的の夢、世界そのものを変える事にもなる。
つまり、竜司は、常に、命の瀬戸際に立たされている状況だ。
ここは、夢の世界。
たった、一粒のホコリですら、勘づかれる世界だ。
胃がキリキリとしそうな程のギリギリの攻防劇は、
これからの話になっていくのだが、今は、彼が、
故郷を懐かしむシーンから、再開するとしよう。
竜司は、ふと、隣のブランコに、幼い自分の影を見た。
それは、幻の姿かもしれない。
しかし、確かに、竜司は、その存在を感じ取っている。
ーーキャハハ!!
ーーうらぁぁぁ!それー!!
ありったけの力を込め、全身で喜びを表現しながら、
全力で、遊びを楽しんでいた、在りし日の自分自身。
かつて、その少年は、成長していっても、
その子供心は、根ざす様に存在していた。
しかし、いつの間にか、失われてしまった、
素直で明るい、純粋無垢な童心。
これは、己の喪失したモノを、取り戻す戦いでもある。
ーーギィ...。
ゆっくりと、空席のブランコに座り、
重力に身を委ねて、空中を舞っていく。
当時を回想しながら、つい、最近まで、
忘却していた楽しむ心を、思い出す様。
それは、干からびていた心に、一滴の水を入れ、
例え、わずかだとしても、渇きを満たされる
その感覚は、竜司にとって、得難いものだった。
ーー行くか...!
そして、意を決したかの様に、竜司は、
ブランコの動きを止め、ゆっくりと腰を上げた。
過去を思い返し、逡巡しながらも、ここまで辿りついた。
辛かった事や苦しみ、痛み、悲しみ...
全部、抱きしめて、謹んで、受け入れよう。
まずは、彼自身を救う事から始めないといけない。
遠い昔に、つけらてしまった傷を癒す為に、
竜司は、ひと時の安息を、終える。
ここからは、己のダークサイドと対峙する。
旅は、まだ始まったばかり。
竜司は、公園を後にした。
その足取りは、行きの時よりも重しが外れ、
しっかりと、一歩ずつ、大地を踏みしている。
そのまま、最初に来た通りの道順で、
自身に立ち塞がる様にそびえている、
因縁のマンションへと、舞い戻った。
ドリーミンセプション(仮) HAL @haldi033
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