第36話 社畜、家族を守る
「まぁ、とりあえずエネルギー資源を確保するために魔法石が必要だし、魔物が外に出ないようにするために探索者が必要ってことだよな」
ただ、気になっていることがあった。
魔法石はその辺の石から出てくるが、心菜が言っている魔法石はどこから出てくるのか。
今まで一度も魔法石を見たことがなかった。
もし、そんなに必要なら今から取りに行っても良さそうだしな。
「魔法石ってどこで手に入るんだ?」
「とーたん、ここ!」
突然ゴボタが立ち上がると、胸を張って見せつけてくる。
「ゴボタにはおっぱいはないぞ?」
「んーんー! ここ!」
ゴボタは何をやっているのだろうか。
ただ、心菜はどこか居心地が悪そうな顔をしていた。
「魔法石は魔物の心臓に存在しているんです」
俺はその言葉を聞いてすぐに、ゴボタ達を抱きしめて心菜から離れた。
「ゴボタもリーゼントもホワイトも殺させないぞ」
まさか宇宙人だと思っていた探索者は、ダンジョンに来て魔物を殺すために来ていたとは思わなかった。
だからあの集落を爆発させたのだろう。
この間来た探索者や心菜はゴボタ達を殺して、心臓にある魔法石を取り出そうとしていた。
そう思うだけで、知っているはずの心菜でも敵に見えてしまう。
「とーたん!」
「ボスゥ!」
「ダンナ様!」
「なんだ?」
俺はこいつらを守るのに精一杯だからな。
相手が心菜でも殺すとわかれば、命懸けで守るだけだ。
それだけ俺にとってこいつらは大事な存在になっている。
「にひひ!」
「クゥーン!」
「へへへ!」
だが、守られているゴボタ達はニヤニヤして俺の顔を見ていた。
「お前ら気を抜きすぎだぞ」
「とーたん、だいじょぶ!」
「ここなんは殺さないよ。生粋のツッパリは知っているぞ」
「それに魔法石を取り出すなら、すでに私達ら殺されてますよ」
言われてみれば俺が気絶している時に、殺されていてもおかしくない。
実際は鬼ごっこなのかわからない、かけっこのようなものをしていたしな。
「あー、心菜……すまないな」
俺は心菜を見ると目から涙を流していた。
唐突な涙に俺はどうしたら良いのかわからない。
「えっ……ちょ……お母さんはいないか?」
心菜はいつも泣き虫だった。
いつも俺が帰ろうとしたら、泣きながら脚に引っ付いて返してくれなかった。
それをお母さんが無理やり引き剥がしていた。
だから俺はあの時のように心菜の母親を探してしまう。
「いつまでも子どもじゃないもん」
「ああ、そうだったな」
どこか昔に戻ったような気持ちになった。
「ずっと魔物の命で私達が裕福に生活するのに違和感を感じていたからさ」
「あー、だからあんまり働かなかったってことか?」
「そうなの。これでも私って探索者でも強い方だから、どうしても国からの出動命令があるからさ」
探索者は強さによってランクづけされているらしい。
その中でも心菜は二番目にランクが高いSランクだった。
ちなみにその上のSSランクも存在するが、日本には存在しないため、実質日本の中では心菜はトップの強さらしい。
そりゃー、直径5mぐらいありそうな岩を簡単に砕けるはずだ。
「それで今回も出動命令でも出たのか?」
「んーん、私はお兄ちゃんを探しに来たの」
「俺を探しに来た?」
心菜は鞄から何か薄い紙みたいなのを取り出した。
「これはなんだ?」
「魔法石で動くタブレットだよ」
「タブレット!?」
俺が知っているタブレットはしっかりと厚みがあるし、重さもあったはず。
心菜が出したのは薄っぺらいA4用紙一枚ぐらいのものだ。
起動したら空中に浮いていた。
これが発展した世界なんだろうか。
それにどこかで見たことがあると思ったら、スキルポイントを割り振る時に出てくる謎の半透明の板に似ていた。
あれもタブレットみたいな役割があるのだろうか。
「ダンジョン内は電気とかも使えないから、魔法石をエネルギーとした使えるものじゃないと持ち運びできないからね」
なんとなく魔法石の重要性がわかってきた気がする。
銃などの武器や爆弾は使えず、電子機器も持ち運びができない。
それを可能にしているのがダンジョンで手に入るアイテムや魔宝石なんだろう。
心菜はタブレットに触っていると、ある動画を俺達に見せてきた。
そこに写っていたのは、この間俺達の拠点を破壊していた探索者だった。
あの時の出来事が動画として残っていたのだ。
「私はこれを見てお兄ちゃんを探しにきたの」
「これのどこに俺が映ってるんだ?」
動画を見ているが、特に映っている様子はなかった。
可能性としてはゴボタとホワイトだが、動くのが速すぎて俺には見えなかった。
「動画の最後を見たらわかるよ」
動画の最後あたりで心菜は動画を一時停止させた。
「あっ、とーたん!」
そこには俺達が抱き合っている姿が映っていた。
まさかの最後に画面が切り替わる1秒程度のタイミングで俺達が撮られていた。
「よく見つけたな」
「きっと気づいているのは私だけだと思うけどね。私の能力は身体機能の変化が主だから」
心菜は力も強ければ走るのも速い。
それだけではなく、動体視力も良いため俺を見つけることができた。
ちなみに木を薙ぎ倒したのは、速く腕を突き出すことで圧迫した空気を押し出せるらしい。
漫画のような話で俺にはさっぱり理解できなかった。
決してバカだから理解できないとかではなく、現実味がないだけだからな。
それが目の前で見ていても受け入れられないのが現状だ。
「しばらくは私が調査としてダンジョンに入っているから、他の探索者が襲ってくることはないから大丈夫だよ」
その言葉を聞いて俺は安心した。
ただ、他の探索者が来た時の対応はしないといけないと思った。
俺の大事な家族や仲間達を殺させるわけにはいかないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます