第145話 ヘイアンへの帰還

 時間となり、物々しい機械が音を響かせる。

「これを」

 ドベルトが、三人にそれぞれ腕輪を渡した。朱鷺ときが白、水影みなかげが青、安孫あそんが赤のものを、それぞれが怪訝そうに受け取る。

れは……?」

「月の古代の技術を復活させたものだ。ミーナ王妃が白兎に変身出来たのは、この技術のお陰だな」

「古代技術……」

 水影が、ごくりと息を呑む。

「……シュレムは、黒兎を凶暴化し、巨大化させただけだ。だが本当の古代の技術は、人を動物に変身させるものだ。お前さん達も、火星との戦で一度、神獣に変身したと聞いたぞ?」

「ああ。されどあれは、神の御力あってのものでしたからな」

 安孫があの時の体力消耗を思い出し、苦い顔を浮かべる。

「まあ、これから先、どうなるか分からねえんだろ? だったらこれをお守り代わりに持っていても良いだろ? 万が一、戦で命を落とされた日にゃ、あいつらが泣くからな」

 そう言って、ドベルトがセライや王女らを見る。ちょうどルーアンが、母や姉らと、出発までの時間を過ごしているところだ。

「どべると殿、一応お訊ね致しますが、此れの使用方法は?」

 まじまじと腕輪を見て、朱鷺が訊ねる。

「ああ。ただ念じれば良い」

「何とも簡単に変化へんげ出来るのですな。恐るべし、月の古代技術」

 水影が腕輪を付け、それを握る。

「ああだが、それが使えるのは、ヘイアンが満月の夜だけだ。それ以外で使うと、月の力が足りなくて、変身しても元に戻れない可能性が出てくるからな」

「なっ……! 変化するにしても、制約があるのですな。気を付けねば……」

 安孫が肝に銘じる。

「あと、使う度に寿命が縮むからな」

「えっ?」

 三人がすでに腕輪を付けた状態で、声を揃えて言った。

「じゅみょうがちぢむ……?」

「ああ。使い過ぎると、死ぬ」

「ぎゃあ! 何たる呪物よ! ならばお返し致しまする!」

 喚く安孫に、ドベルトが首を振る。

「それは出来ねえな。だってもう、お前さん達に、ぴったりヒットちゃんだもの」

 腕輪だと思っていたものが、ガシャンと音を立て、三人の腕に張り付いた。

「……は?」

「その技術を復活させたは良いが、それを解く方法がまだ見つからないのよ。恐らくだが、その技術が書かれた本は、地球にあると思うんだよな。古代技術同士、共鳴し合うはずだから、その方法を見つけてもらうために、お前さん達にそれを授けたんだ」

はかりましたな、どべると殿」

 朱鷺が、じと~とドベルトを見つめた。

「まあ、ミーナ王妃も同じものを付けているから、必ず解く方法を見つけてもらわねば困るわけよ。だから、頼むぜ、ヘイアン公達諸君」

 完全にしてやられた三人が、どっと吐息を漏らした。

 その時、謁見の間の奥の扉が開いた。

「時間だな。それじゃ、気張って来いよ」

 親指を立て、グットラックと言わんばかりのドベルトに、三人は苛立った。

「それじゃあ、いってきまーす!」

 元気よくルーアンが手を振り、三人と共に扉の奥に向かった。朱鷺と水影、安孫が月の友人らに向かい、恭しく立礼する。

「では、また御逢い致しましょう(古代技術が解除方法を見つけ次第、どべるとは殴る!)」

 その言葉を最後に、扉が閉じられた。グオングオンという音と共に、四人が入った部屋が、ゆっくりと下っていく。

「さて、我が国は如何どうなっておるかのう?」

 ヘイアンへと帰還する朱鷺の表情が、一気に張り詰めた色を見せた——。


 ヘイアンの都、宮中にて——。

 戦により、鷲尾わしお院が都を奪還した。烏丸衆からすましゅうら群臣の前で、鷲尾院が宣言する。

「——時は満ちた。此れより此の国を、『新皇国しんこうこく』と改める」

 院宣いんぜんを下す鷲尾院の隣には、三人の側近が控えている。“怪僧”アルテノ、九条是枝、そして、不動院満仲。『新皇国』と改められた国に、三人の公達が、帰還しようとしていた。

 

 第三章「月の王の戴冠」 終   最終章「新皇国の大乱」へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る