第130話 石切皇子の算段

 役人から報告を受けた鷲尾わしお院は、臣下を連れ、筑紫島つくしのしま隼人はやとの地に足を踏み入れた。そこには、鷲尾院の到着を待っていた石切皇子いしきりのみこがいて、平伏しながら、恭しく彼らを迎え入れた。

「——お久しゅうございまする。叔父上におかれましては、御早い御到着、此の鷹宮たかのみや、感服の極みにございまする」

「心にもないことを申すでない、鷹宮よ。月の者らは何処いずこへ逃げた? れだけ話すが良い」

 鷲尾院の傍には、“怪僧”アルテノ、九条是枝、不動院満仲といった、側近らの姿もある。みな、じっと石切皇子を疑いの眼で見つめている。

「ああ、そうでしたな。月の者らは、満月の夜に月へと帰る算段でおりまする。何でも、蒲生かもう大楠おおくすに、月より迎えが来るとのことでございまする」

「蒲生の大楠?」

「ええ。蒲生ならば、以前鷹狩にて訪れたことがございますれば、此の鷹宮が叔父上をその地まで、お連れ致しまする。共に、月の者らを狩りましょうぞ。そこで、折り入って叔父上にお願いがございまする」

「願い? 何じゃ、それは」

の絶世の美女、かあや姫をずたずたに切り裂いた後、ほんのちいとばかり、その断片を鷹宮にくだされ。……そうですなぁ、あの黄金になびく髪と、生意気な目など、所望致しまする」

 下衆な表情を浮かべて、自らの目を指さす石切皇子に、ぎりっと満仲が苛立つ。

「其れが終わり次第、次は朱鷺とき狩りと参りましょうぞ」

 愉快そうに話す石切皇子に、ふんっと鷲尾院が鼻で笑った。

「そなたも悪趣味よのう。まあ良い。可愛い甥の頼みじゃ。そこら辺りは好きにするが良い」

「有難き幸せにございまする」

 石切皇子が平伏し、「では早速、蒲生の地へ」と鷲尾院一行を誘った。


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