第127話 結審のとき

 五日後、裁判長を含めた十三人による、量刑を決定する投票が行われる日が訪れた。結審となるその日、円卓に座る十三人の前に、死刑、無期懲役、有期懲役、無罪の選択肢が与えられた。

「——それでは、これから量刑について、投票を始めます。各々、どの刑を選んだかについては、生涯口外することを禁じられています。たとえ王族であろうとも、ご自分が選ばれた刑について口外された場合、処罰の対象となることを、今一度胸に刻まれるよう、お願いいたします。地球の交換視察団のお二人も同様です。宜しいですね?」

 その場にいるすべての者が、ゆっくりと頷いた。

「では、これより投票を——」

「ひとつ宜しいですかな、裁判長殿」

 重苦しい雰囲気の中、挙手した朱鷺ときが立ち上がる。

「どうぞ、都造みやこのつくりこさん」

「発言の場を設けて頂き、感謝申し上げまする。投票の前に、今一度、はくれい殿が罪について、此処ここにおられるすべての皆様方と、共通認識を図りとうございまして」

「共通認識か。確かに、大切なことじゃのう」

 ドミノ王が、うんうんと頷く。

「では僭越ながら、この都造朱鷺より、再度はくれい殿が罪を、改めさせて頂きまする。まず、はくれい殿は、すらむという貧しい街にて生まれ、宰相という地位にまで出世された御仁。それまでに、大なり小なり罪を重ねられ、果ては、ばるさむ前国王を暗殺したと供述された。それ以外にも、直接手を下したわけではありませぬが、その決断により、数多あまたの議員や衛兵らが処断されたとのこと。そして無情にも、みいな王妃派を追放し、我が故郷のちきうを攻撃せんとした。その罪の大きさたるや、我ら他所よそから来た兎とて、良う存じておりまする」

 朱鷺の言葉を、王族や五人の裁判官達も、じっと耳を傾けている。

「民は、はくれい殿が罪を、決して許さぬことにございましょう。傍聴席に座る誰もが被害者感情を剥き出しに、『はくれいに死刑を』と望んでおられる。そしてそれは、はくれい殿もまた、同じにございまする。はくれい殿は、自らが死刑となることを、強く望まれておいで。いつかの時点から今日に至るまで、斯様かような筋書きとなるを、画策されていたのでありましょう。ならば、自ら死を望む者に死刑を宣告するは、それ即ち、その者を救うことと相成あいなりまする。はくれい殿が罪は、決して許されるべきものにございませぬ。簡単に死なせて、すべてを終わらせようとする御仁に、死よりも強力な罰を——。生きて罪を償わせるが、はくれい殿にとって、何よりも重たい罰となりましょうぞ」

 裁判官らは正義の名の下に、ただじっと前を見据えている。メルヴィ王太子やナビ王女といった、死刑派の王族も、今一度考えを巡らせ、視線を逸らしている。

 裁判長がその場に立ち、「貴方の気持ちは、良く分かりました」と、朱鷺に着席するよう促した。

「他に発言されたい方は、いらっしゃいますか?」

 沈黙が続き、裁判長が口を開く。

「それでは、ただいまより投票に移ります。各自、目の前にある投票用紙に、死刑、無期懲役、有期懲役、無罪のどれかをご記入いただき、無記名にて、投票箱にお入れください。再度申し上げますが、お選びになられた量刑について口外することは、法により、固く禁じられています。決して、口外されませんように」

 強く念を押す裁判長に、誰もが頷く。円卓に座る十三人が各々量刑を選び、投票箱に入れていく。その間、誰も何も言葉を発しない。全員が投票し終えた後、開票により、量刑が決定した——。


「投票の結果、死刑六票、無期懲役四票、有期懲役二票、無罪一票により、今回のハクレイ裁判における量刑が、死刑と決まりました。よって、今この時をもって、結審といたします」

 裁判長の言葉に、朱鷺と水影は絶句した。裁判官や王族らが席を立った。死刑判決が結審され、誰もが沈鬱な表情を浮かべている。朱鷺は信じられないと言わんばかりに、席から立つことが出来ない。

「主上……」

 水影も動揺し、朱鷺様ではなく、主上と呼んでしまうほどだ。

「水影……、俺は、言葉をたがえたか?」

「……否。主上が御言葉は、裁判官や王族の耳に届いておられたはず。決して、皆さま方の感情を逆なでするものにはございませんでした。されど、法の下に人を裁くとは、斯様かようにも、感情に左右されぬのでありますな。我らは、月が世の朝裁ちょうさいを、甘く見ておったのでありましょう」

 死刑という重たい罰に、水影もパチパチと瞬きを繰り返す。

「……せらい殿は、如何どうなる?」

「親子関係がないと証明された以上、罪に問われることはありませぬでしょう。されど、あの御仁のこと。ハクレイ殿の判決に、泣きはせぬかとっ……」

 冷静沈着のはずの水影が、言葉に詰まる。

「俺は、月友の父君がことを……」

「十三人の内、六人が死刑が妥当であると判断されたのでありまする。れが、現実。主上が、何もかもを背負う必要などございませぬ。左様に気を揉まれては、救える者も、救えませぬ。決して、我らが非力であったなどと、認めてはなりませぬっ……」

 水影の言葉に、朱鷺が誰からも見えないところで、涙を流した。水影もまた、決して泣き顔など見せず、下された死刑という言葉を、その目に刻んだ。


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