第126話 エトリアの見解

 バルサム前国王の暗殺の件について、朱鷺とき水影みなかげが、エトリアに謁見えっけんを求めた。王妃の間にて、二人が恭しく立礼する。

「——我ら、はくれい殿が朝裁ちょうさいいて、今一度、えとりあ王妃殿下にお訊ねしたき議がございまする。……ばるさむ前国王は、真、はくれい殿に暗殺されたと、左様に思われまするか?」

 朱鷺の核心に迫る視線に、エトリアが俯く。

「……バルサム国王夫妻のお部屋で、毒蛇が発見されたことは、紛れもない事実です」

「その毒蛇は、ハクレイ殿がルナフェスの贈り物として、国王夫妻に献上したものの中に紛れ込ませていたと、エルヴァ殿は証言されました。真に、ハクレイ殿が献上した花籠の中に、毒蛇が潜んでおったのでありましょうや?」

 水影が追い詰めるように訊ねる。

「ハクレイ宰相が国王夫妻のお部屋に上がった時に、私はおりませんでしたので、そこら辺の経緯いきさつは分かりません。ですが、毒蛇によって、バルサム前国王が亡くなったのは、事実です」

「では何故なにゆえ、突発性心不全などと、王女や民を欺かれたか?」

 朱鷺に訊かれ、エトリアが小さく答える。

「……白兎を希望の証とするグレイスヒル王家にとって、国王が毒蛇にて殺害されたとあっては、国中が混乱してしまうと、ハクレイ宰相によって、その事実は伏せられたのです」

「そうでありましたか……。亡き前国王が第二夫人であらせられる、えとりあ王妃殿下におかれましても、此度こたびの件は心苦しゅうございましょう。不躾ぶしつけな質問をしてしまい、誠に申し訳なきと存じ上げまする。では最後に、これだけお聞かせ願えますかな?」

 朱鷺が、真っ直ぐにエトリアを見上げる。

「……王妃殿下は、はくれい殿を、悪の宰相と思われまするか?」

「え……?」

 二人の公達に見つめられ、エトリアが息を呑む。

「真、はくれい殿は、死罪に値する御仁と、思われまするか?」

 その言葉に、いつかのハクレイの言葉が、エトリアの脳裏に蘇った——。

『——僕が死んだら、セライを頼むね、エトリア』

 ストンと落ちてきた言葉に、エトリアは泣きそうになりながらも、ほろほろと言葉を紡ぐ。

「……宰相は、ロゼッタが亡くなってからずっと、死ぬことを強く望んでおられます。あの御方は、すべてを自分の罪として被り、悪人として死ぬおつもりなのでしょうっ……」

 ぐっと泣くのを堪えたエトリアが、耐えきれず、二人の前から姿を消した。

「……やはり、そうであったか」

 朱鷺が、ぐっと拳を握る。

「自らが悪の宰相を作り上げ、そして、死を選ばれるおつもりなのでございましょう。何とも、胸糞ですな」

「ああ。何とも身勝手極まりない御仁よ。左様な悪の宰相の野望など、我が手にて、打ち砕いてくれよう」

 ハクレイが望む最期を打ち砕かんと、その結末を変えるため、朱鷺と水影は、相当の覚悟を持って、次回の審議の場に立つことを決めた。


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