第123話 十三人審議

 月では、ハクレイの量刑を決める審議が、五人の裁判官と六人の王族、そして朱鷺とき水影みなかげが加わった十三人によって始まった。

 裁判長の進行により、円卓に座る各々が意見を述べ合う。各地の王族から選ばれた六人の王族は、オルフェーン王家のドミノ王とザルガス王太子、ピノア王家のメルヴィ王太子(御年60歳)、ブルスカ王家のワイルデン王太子といった、かつてグレイスヒル王家の王女らと見合いをした王家の他に、シャルメ王家のナビ王女、ルティノス王家のファルマ王女といった面々である。

「ほっほっほ。ついに悪の宰相ハクレイが糾弾される日が訪れたか。キーレ前国王暗殺の罪は認めなかったが、バルサム前国王の殺害は認めたのじゃ。死刑の他、あらぬじゃろ」

 メルヴィ王太子(御年60歳)が、当然のように言う。

「ですが、ハクレイはこれまで、多くの政策を打ち立て、スラム街の改善などを図ってきました。その一定の功績を認め、軽量すべき点も考えるべきかと思いますが」

 ワイルデン王太子が、自分の意見を述べる。

「いいえ死刑よ! そうじゃなきゃ、国民は納得などしないわ!」

 首を撥ねる仕草を取ったナビ王女に反抗するように、「本当に、ハクレイは悪の宰相なのかしら? 誰かを庇っている可能性もあるのではないですか?」と、ファルマ王女が冷静に言う。

「なによ! ハクレイ自身が自分の罪を認めたのよ! 誰かを庇っているはずがないわ!」

「王女がキャンキャン吠えないでください。うるさいです」

「はああ?」

「まあ、落ち着くのじゃ、ナビ王女よ。ファルマ王女も悪戯に煽るでない」

 ドミノ王が二人の王女の仲裁に入る。

「私も今一度、ハクレイの罪が真実か、検証すべきだと思います」

 ザルガス王太子が、慎重に意見を述べる。

「そうじゃのう。わしも、ここは慎重になるべきと思うぞ。バルサムの死の真相、本当にハクレイが毒蛇によって殺害したのか、その証拠は、供述以外ないのじゃからな」

 ここまでの王族らの審議を、朱鷺と水影は、ただじっと聞いていた。

「ほっほっほ。流石は、オルフェーン王家の王族よのう。月の八王家の内、正当グレイスヒル王家以外で、唯一、王の称号を得られているだけはあるのう、ドミノ王。バルサム前国王は、貴殿のの弟君じゃろう? 弟を殺害したハクレイを、貴殿は赦されるのかのう?」

 同じ王族としてのプライドが、ドミノ王を冷たく糾弾する。

「父上、メルヴィ王太子の挑発になど、乗らないでください」

「ああ。分かっておるわい。今は、王家同士で言い争っておる場合ではないからのう。それはそうと、地球よりの視察団は、随分大人しいのう。せっかく見聞の機会を得たのじゃ。そなたらの意見が聞きたのじゃがな」

 ドミノ王に促され、ようやく朱鷺が口を開く。

朝裁ちょうさいによって、はくれい殿は、きいれ前国王の暗殺以外の罪を、すべて認めると仰られた。かつて衛兵、およそ五十人の命を奪ったこと、我らを処断せんとされたこと、ちきうに攻撃されんとしたこと、それは、事実にございましょう。されど、その罪に死罪を与えるかは、慎重にならねばなりますまい」

「必ずしも、死によって、罪が償われるとも限られますまい。生きて償う罪があるからこそ、救われる者もおりまする」

 水影もまた、重たい言葉を紡いでいく。コホンと裁判長が咳払いした。

「やはり量刑については、紛糾しますね。今のところ、死刑にすべき意見と、慎重になるべきという意見にて分かれています。我々十三人の審議によって、被告人ハクレイの処罰が下されます。今一度、それぞれがハクレイの罪を精査し、次回、多数決にて量刑を定めるものといたします。宜しいですね?」

「ああ。異議なし」

 ドミノ王が答え、他の王族らも頷いた。

「我らも、異議なしにございます」

 朱鷺が答え、水影も頷いた。

「では七日後、再度審議に入ります。本日は解散」

 裁判長が審議を締め、王族らと朱鷺、水影は、どっと深く息を吐いた。


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