第98話 満仲の憤り
地球のヘイアンでは、
陰陽道宗家・不動院家の三男に生まれた満仲は、幼名を
『お前の息子、天才陰陽師らしいな。おもろいからちょっと那智山の天狗狩りしてこいや、よろ☆』という、ほとんど悪ノリに近い
当然、那智山の天狗を封ずることなど、葛若には造作もないことで、その才は、あっという間に都に広がった。それでも、「いやいや、三条家は
生まれた時からの幼馴染である、春日家の
そうして歳を重ねるごとに、葛若の才能は開花し続け、陰陽頭である父すらも軽く凌ぐ、自他共に認める天才陰陽師——不動院満仲へと成長した。位が上がり、自由に陰陽寮への出入りが出来るようになった頃、満仲は、そこに隠し持つ、“人あらざる者”の存在を知った。
「——父上、陰陽寮にて隠し持つ、“人あらざる者”らは、何のためにあるのじゃ?」
「満仲……、どこでそれを知った?」
「陰陽寮が奥の扉、そこは普段より、厳重な鍵が掛けられておる。昨晩、陰陽寮が
怒りに満ちる瞳を向ける息子に、父、一益は、吐息を漏らした。
「『妖大全』に落書きしようとしたは、この際不問としよう。……昨晩は、“視えざる者”による、身代わりの日であったゆえな。恐らくは、“人あらざる者”を連れ出す際に、鍵をかけ忘れたのじゃろう」
「“視えざる者”……? 身代わりとは、何じゃ?」
「そなたは知らんで良い……と申したいところじゃが、
「三条のの話はするでないっ……! 飯が
きっぱりと拒絶した満仲に、
「その水影殿が、“視えざる者”らの身代わりとなり、“人あらざる者”らを惨殺することで、我が都に怨霊がはびこらぬようしてきた、古来よりの悪しき風習じゃ」
「三条のが……?」
話したことはなくとも、三条水影の存在を昔から知っていた満仲にとって、あの不愛想極まりない男が、そのような重たい勤めにあることは、違う意味でも胸糞であった。
「……されど、浮浪児らは、何の罪もない者らじゃろう?
ぎりっと奥歯を噛み締めた満仲に、「これも
「公達……? 自らが蒔いた種で、関わりあらぬ者らが命を落とすなど、左様な理不尽を許すと言うのか! 公達も、帝も!」
「……帝の容認あってのことじゃ」
「ぐっ……! 高貴な者らのために、
「誰かがせねばならぬ役目を、水影殿はただ一人、受け入れておる。それだけのことじゃ、満仲」
「それだけ……? 自らの欲望の果てに、“視えざる者”を生み出した公達など、嫌いじゃ! その“視えざる者”に
満仲が、ぐっと唇を嚙み締め、禁中の理不尽を受け入れる水影を想う。
「いずれ、新しい帝の世となろう。その有力候補であらせられる
父の言葉にも、満仲の反骨精神が治まることはなかった。その場を駆けだすと、一目散に陰陽寮へと向かった。
「満仲っ……!」と背に聞く父の制止など、耳に届くはずもなかった。
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