第81話 番外編「ルーアンの悩み」
月の世に交換視察団として訪れている、地球はヘイアンよりの公達。第二王女の地位に戻ったルーアンは、今もなお、この交換視察団のメイド係として、彼らの身の回りの世話を焼いている。
王妃への朝拝のため、毎朝六時には起こすよう言われているが、これがなかなかどうして、
「ちょっ、アンタが起こせって言ったんじゃない! おーきーなーさーいーよー!」
ルーアンも負けじと、朱鷺のブランケットをひっぺ返そうとするも、「おれを起こしたくば、天上天下唯我独尊が如く美しい天女を連れて参れっ!」と無理難題を言われ、いらっとしたルーアンにより、朱鷺は頭にゲンコツをこしらえた状態で、毎朝ふてくされたように起きる。
次は
水影は毎朝、死んだように眠っている。本当に寝息一つかかず、青白い顔でぴくりとも動かない。初めこそ、死んでいるのではないかと、ドギマギしながら呼吸を確認しては、生きていることに安堵した。
「ほんと、いつか寝たまま死んでしまいそうで怖いわ。変人のお嫁さんになる人に同情するわね」
ルーアンの独り言に、水影が目を瞑ったまま、
「……ご案じ召されますな、ルーアン王女。私が妻を
「アンタもう起きてるでしょ! 朝から安孫安孫うるさいわね!」
どっと疲れて、隣の部屋——
扉を開けて部屋に入ると、すでに窓を開け、朝の爽やかな風が部屋中に行き渡っていた。
「おはようございまする、るうあん王女」
これまた爽やかな顔で、すっかり身支度を整えた安孫が挨拶をする。
「二世は毎朝、ちゃんと起きてくれるんだけどね……」
どこか喜ばしくない表情のルーアンには、理由があった。
「ああこら、お前はもうたくさん食べただろう! そちらは赤丸が分だぞ!」
人参やキャベツを手に持つ安孫が、部屋の中で飼っている兎達にエサを与えている。青毛の兎が赤毛の兎の分のエサを横取りし、二羽が喧嘩し始めた。
「こらこら、喧嘩はよさぬか。ああ灰丸、そんな所で
てんやわんやの安孫を、ルーアンが遠い目で見つめる。そんなルーアンに気づき、何羽もの兎を抱えた安孫が、「ははは。毎朝騒がしくて、すみませぬ」と取り繕う。
「……アンタ、また兎を拾ってきたでしょ?」
「へっ? さ、さようなことは、ありませぬがぁ……」
安孫の目が泳ぐ。嘘をついているのは、バレバレだった。
「まったく! あれほど兎を拾って部屋で飼うなと言っているでしょうが! 庭園があるんだから、そこで伸び伸び育てればいいでしょ!」
「さ、されど、
勇猛果敢な武人とは思えない程、過保護心+母性が芽生えている。巨漢と伴寝したら押しつぶされる云々言っていた水影の言葉を思い出し、
「変人が聞いたら、嫉妬で気が狂いそうだわね……」
「ああ。水影殿は、兎がお嫌いのようですからな」
「そういうことじゃないのよ……。ああもう、ほんっと、いつまでも手が掛かる地球人達なんだから!」
どっと疲れたルーアンが、「そもそも私は王女なんだから、毎朝こいつらを起こさなくてもいいはず、よね?」と、自分が本当に王女か疑わく思えるほどだった。
一方地球、ヘイアンでは――。
毎朝、日が昇る前に起床する、月の交換視察団。
化粧バッチリ、ピカピカツヤツヤ、完璧なカーヤ。
狩衣姿で
美男美女の爽やかな朝の風景に、世話役の
(存外、手の掛からぬ者らよ。月が世でも、我が弟らが迷惑を掛けておらぬと良いが……)
実泰の想いも虚しく、明日のルーアンも、悩みの種が尽きることはない。
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